芥川賞・直木賞は書店にとってどんなイベントなのか? 大盛堂書店・山本亮が綴る、楽しい思い出

 渋谷センター街の入り口にある大盛堂書店で文芸書担当として働く山本亮が、1月19日に選考会が行われる芥川賞・直木賞について、書店側の心情を綴った。(編集部)

店の垣根を越えて本で繋がっていく魅力

 今月19日に選考会が行われる芥川賞・直木賞。言うまでもないが、文芸界のステイタスシンボルとしてとても信頼されていている賞だ。1月(下半期)・7月(上半期)と年2回発表されるが、書店店頭では特に年末年始が入るからか、毎回じっくり休暇に読もうと1月選考の候補作を購入されるお客様が心なしか多いようだ。

 自分も発表当日まで未読の候補作をできるだけチェックをする。出版社の人や書店員のあいだでは何が受賞するか?みたいな探り合いではないけど、「これ読んだ?」「これすごいね!」と話したり連絡を取り合うこともある。感想を聞いていると「おお、この人はこんな読み方をするのか」「この作品のこの場面を、こういう解き方をするのか」と気づくことも多い。その意味ではあらゆる作品のなかから選ばれた候補作を通じて、読書傾向をのぞき見ることができるリトマス試験紙なのかもしれない。

 またマスコミでも取り上げられるし近年はSNSでも盛り上がっている。ちょっとお祭りみたいで楽しいけど、書店員としてはどう並べるかどう販売するかに重点を置かなくてはいけないので、はたして今ある在庫数で大丈夫だろうか、受賞後在庫を切らさないか、そして受賞作は早いうちに入荷するのだろうか、どれくらい重版するんですか? どうなんですか、そこのところの出版社様のお考えは……。だけど、そんな胃がキリキリ痛む話はしたくはないので、ここでは楽しい思い出話しかしない。

 まずは第161回直木賞受賞作、大島真寿美さん『渦 妹背山婦女庭訓魂結び』。大島さんは愛知県在住の作家で、『ピエタ』『チョコリエッタ』など様々な小説を刊行されているが、当店でも以前トークイベントを開催したこともあって、受賞の時はとても嬉しかったのを覚えている。もちろん内容も素晴らしいが、印象に残っているのが受賞を喜んだ書店員たちだ。名古屋市には「名古屋書店員懇親会」(略称NSK)という名古屋地域の書店員有志を中心とした親睦団体があって、コロナ禍前には年に何回か集まって名古屋市内で県内外の書店員や作家、出版関係者が飲み食いし歓談する会や、作家を招いたイベントが行われていた。自分も何回か参加したがとてもアットホームで、本を介した熱量がとても楽しかった。もちろん大島さんも縁がある会で、選考会当日は市内のある書店で書店員たちが「待ち会」を開いていた。その模様はテレビでも放映されていたが、受賞の速報が入った途端の喜びをあらわにした姿は、大島さんが本当に地元の書店員に愛されている作家なのを改めて感じた。大島さんの人柄や作品の力もあるが、書店の現場からの「本は面白い!」という想いも理由の一つではないだろうか。「本屋大賞」もそうだけど店の垣根を越えて本で繋がっていく魅力が、その画像には詰まっていた。

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