書評家が選ぶ「2021年ライトノベル・ベスト10」タニグチリウイチ編 1位は壮大なSFラブストーリー!
2021年ライトノベル・ベスト10(タニグチリウイチ)
1位 『ひとりぼっちのソユーズ』七瀬夏扉(主婦の友社)
2位 『青い砂漠のエチカ』高島雄哉(星海星FICTIONS)
3位 『スパイ教室』竹町(KADOKAWA)
4位 『スーパーカブ』トネ・コーケン(KADOKAWA)
5位 『佐々木とピーちゃん』ぶんころり(KADOKAWA)
6位 『ミモザの告白』八目迷(小学館)
7位 『春夏秋冬代行者』暁佳奈(KADOKAWA)
8位 『VIVY:prototype』長月達平、梅原英司(マッグガーデン)
9位 『ユア・フォルマ』菊石まれほ(KADOKAWA)
10位 『異世界ナンパ』滝本竜彦(KADOKAWA)
ラブコメもあればミステリーもあり、ファンタジーもあって時代物もあるライトノベルは、人によって好きな作品も違ってくる。だからベストも人それぞれになって当然だ。広くて深いライトノベルのユニバースから、偏ってしまうことを承知で、2021年に読んで面白かった作品を選んでみた。
まず第1位。七瀬夏扉『ひとりぼっちのソユーズ』(主婦の友社)は、宇宙へと飛び出していく人類の姿を描いたSFであり、同時に壮大な時間と空間をまたにかけたラブストーリー。宇宙に強い関心を持った少女・ユーリヤと「僕」がいたが、ユーリヤは体が弱く宇宙飛行士になる夢を断念。技術者となり短い生涯の中で軌道エレベーターを開発し、「僕」が遺志を受け継いで宇宙へと出て月面に都市を築く。
これだけでも1本のドラマになりそうな物語だが、月面ブラックホールの彼方から届いた不思議な信号を確かめに、老人となった「僕」がひとり宇宙の深淵へと挑み、ユーリヤとの出会いから始まる人生を、何度もやり直す不思議な体験をする。そこでは、「僕」が経験したような、平和のうちに宇宙開発が進む歴史にはならず、宇宙移民が地球の住民と争う『機動戦士ガンダム』のようなバッドエンドばかりが繰り返される。どうしたら幸せになれるのか? そんな葛藤からグローバル時代の人類のあり方を考えさせられた。
第2位に推したい作品が、『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN』の設定考証などを手がける高島雄哉の『青い砂漠のエチカ』。メタバースという言葉がバズって、注目が集まっている仮想現実や拡張現実が実装された未来の社会を見せてくれる作品だ。致死性の感染症が流行してテレワークが推奨されるようになり、学校も登校してくる生徒と家にいる生徒が、現実と重なって存在する仮想空間に集まり、授業を受けるようになっている。そんな技術を使えば他人にだってなりすませるとあって、主人公の少年が恋をした少女は本当に実在するの? といった疑問が交錯する近未来ならではのラブストーリーを楽しめる。
第3位は竹町『スパイ教室』シリーズ。スパイ養成学校で落ちこぼれだった少女たちが集められ、共和国でも最強のスパイといわれるクラウスに率いられて成功率1割の不可能任務に挑むことになる。ドジっ子たちに見えて、毒の扱いや動物との対話、完璧な変装に超発明といった突出した能力を少女スパイたちが駆使し、チームワークで任務をこなしていくスリリングな展開に引きつけられる。漫画の『SPY×FAMILY』が引っ張るスパイ物人気を、ラノベ側から押し上げるシリーズだ。
アニメ化で原作人気がブーストするのは、『涼宮ハルヒの憂鬱』の時代からライトノベルによく起こる現象。2021年は第4位に推すトネ・コーケン『スーパーカブ』シリーズでそれが起こった。高校に通うために中古のスーパーカブを買った小熊という女子が、同じカブ乗りの礼子らと知り合い、交流していく中でひとりぼっちだった自分の世界を広げていく。アニメでは小熊たちの日常を、季節の移り変わりと共に淡々と描写することで、見る人を作品の世界へと引っ張り込んでいった。小説は第7巻が出て、小熊が大学に進んでもやっぱりカブに乗り続け、そして新しい出会いをする展開が描かれる。自分の道を進んでいく小熊を見守りたい、共に歩みたいと思わせてくれる。
異世界転生でも異能バトルでも魔法少女でも、それぞれが立派にひとつのテーマとしてシリーズを成り立たせる力を持っている。ぶんころり『佐々木とピーちゃん』のシリーズは、それらのテーマがひとつの作品にギュッと詰め込まれては、次から次へと繰り出されて来て読者を翻弄する。アラフォーサラリーマンの佐々木が癒やしを求めて買った文鳥が、実は異世界の大魔法使いが転生した姿で,佐々木を異世界へと連れて行っては商売人として成功させる。現世でも異能の力を悪事に使う者たちを取り締まる組織のメンバーとして活躍させる。二語十『探偵はもう、死んでいる。』シリーズと共にジャンル総取りの面白さを見せる作品として第5位に推す。