村上春樹や島田雅彦も受賞した「野間文芸新人賞」の役割とは? 2020年の受賞作を考察

 野間賞各賞が11月2日に発表された。文学賞の多くは文学者の名を冠して営まれているが、同賞の場合、講談社の初代社長・野間清治の遺志により設立された野間文化財団が主催し、この名称になっている。各賞のうち最も歴史が旧い野間文芸賞は、戦前の1941年に始まり、戦後の一時中断をはさみながら復活し現在に至っている。

 今年の受賞作は、純文学の小説や評論が対象の第73回野間文芸賞が小川洋子『小箱』、純文学の新人の作品が対象の第42回野間文芸新人賞が李龍徳(い・よんどく)『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』、児童向けの文学やノンフィクションが対象の第58回野間児童文芸賞がいとうみく『朔と新(さくとあき)』。また、「出版にまつわるすぐれた表現活動を行った個人・団体」が対象の第2回野間出版文化賞は、池井戸潤(半沢直樹シリーズなど)、吾峠呼世晴『鬼滅の刃』、『あつまれ どうぶつの森』に与えられた。

 注目したいのは、野間文芸新人賞である。純文学に関しては最近、リニューアル以後の「文藝」が売上げ好調なだけでなく、掲載作の文学賞受賞が相次いでいる。野間文芸新人賞も第40回の金子薫『双子は驢馬に跨って』、第41回の古谷田奈月『神前酔狂宴』と同誌掲載作が続いた。第42回の『あなたが私を竹槍で突き殺す前に』も「文藝」2018秋季号~2019秋季号に連載後、今年3月に単行本化されたものだ。野間文芸新人賞の歩みをふり返ると、同作の受賞は興味深いし納得もする。

 デビューを前提にした公募の新人賞ではなく、デビュー後の新人(いつまでを「新人」とみなすかは曖昧だけれど)を対象にした純文学の賞で一番有名なのは、いうまでもなく芥川龍之介賞だ。同賞と直木三十五賞は、文学賞のなかでも注目度が突出している。その両賞に相当する地位を目指して新潮社が1988年からスタートしたのが、三島由紀夫賞と山本周五郎賞だといっていい。だが、それ以前には純文学の新人を対象とする主要な賞は、芥川賞以外に野間文芸新人賞しかなかった。

 大家となりノーベル文学賞候補といわれ続けて久しい村上春樹が、かつて芥川賞の候補になりながら受賞を逃したのは知られた話である。また、2010年に芥川賞選考委員になった島田雅彦が同賞受賞者ではなく、逆に6回という最多落選記録の保持者であることも語り継がれている。

 芥川賞は新進の作家に対し、一人前になったとお墨付きを与える権威を持っているが、しばしば与えるべき人に与えてこなかった。だが、村上春樹も島田雅彦も、三島賞がない時代に野間文芸新人賞は受賞していたのだ。その意味で野間文芸新人賞は、芥川賞の見逃しを拾いあげる、一種の補完的役割を果たしてきたところがある。

 かつて『文学賞メッタ斬り!』(2004年)で豊崎由美が「むしろプロパー的には芥川賞より野間文芸新人賞のほうが評価が上だったりします」と発言していたように、純文学愛好者には読書の指針となってきた賞なのだ。

 2004年の第130回芥川賞では綿矢りさと金原ひとみが当時、同学年の19歳、20歳で最年少の同時受賞が騒がれたが、候補のなかにはやはり同学年の島本理生もいた。芥川賞の選からもれた島本は、前年の第25回野間文芸新人賞は最年少の20歳で受賞していた(候補には綿矢りさもいた)。綿矢、金原と同様に島本もキャリアを積み重ね、今では恋愛小説の名手というイメージが定着している。