『探偵はもう、死んでいる。』『竜と祭礼』……新時代を拓く、新人賞発の尖ったラノベたち

 シリーズ化だけが評判の証明とは限らない。一般向けの文学賞から出た作家のように、受賞作とは違う世界観や登場人物で、自分の持ち味を発揮していく新人もいる。一例が、第13回小学館ライトノベル大賞でガガガ賞と審査員特別賞を獲得した八目迷だ。

 受賞作の『夏へのトンネル、さよならの出口』は、中に入れば望んでいたものが手に入る代わりに、外の時間が急速に進んでしまうトンネルに少年と少女が挑む物語。犠牲を払ってでもかなえたい望みとは何か。もっとやりたいことはなかったのか。迷いがちな思春期の少女や少年に刺さる内容で、筒井康隆の『時をかける少女』や、新海誠監督の『君の名は。』のような青春×SFのテイストを出せる作家と思わせた。

 続く『きのうの春で、君を待つ』(ガガガ文庫)でも、八目迷の持ち味は発揮された。東京の高校になじめず祖母がいる島に戻っていたカナエの時間が、4月1日午後6時から5日午後6時に突然飛ぶ。そこで元同級生のあかりから、カナエの時間が1日進んで2日戻ることを教えられる。カナエは、あかりの兄が4月2日の夕方に遺体で発見されることも教えられ、彰人を過去に戻って助けて欲しいと頼まれる。未来を選べるとしたら自分だったらどうするか? そんな問いを投げて若い世代に道を選ぶ大切さを諭す。

 単巻ものが評判になりにくいライトノベルだが、『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』がミステリ読みに絶賛されたことがきっかけで、一般小説へと進出し直木賞獲得に至った桜庭一樹の例もある。

 第23回電撃大賞で2作出た大賞のうち、『君は月夜に光り輝く』(メディアワークス文庫)の佐野徹夜も単独作品で勝負するタイプだ。最新刊『さよなら世界の終わり』(新潮文庫nex)など青春のヒリヒリとする痛みを描く作家として読者を引きつけていくだろう。共に活躍を見守りたい。

 第23回電撃大賞でもうひとつの大賞となった安里アサト『86-エイティ・シックス-』シリーズは、暴走したAI兵器によって人類が追い詰められるという設定に、虐げられた民族が最前線に送り込まれ、消耗品のように扱われるという社会性を帯びたテーマも絡み読ませた。メカが暴れ回り銃弾が飛び交う戦場の迫力や、激戦の中でも常に生還する主人公と仲間たちというキャラクターも魅力的。巻を重ねて評判を高めアニメ化も決まった。

 映像化を経て大ブレイクする例は『はめふら』や『涼宮ハルヒの憂鬱』をはじめ多々ある。『ソードアート・オンライン』『魔法科高校の劣等生』などに並ぶ電撃レーベルの大看板へ育つ可能性大のシリーズだ。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

■紹介シリーズ
二語十『探偵はもう、死んでいる。』シリーズ(MF文庫)
シリーズ公式サイト:https://mfbunkoj.jp/product/tantei_dead/321907000793.html

筑紫一明『竜と祭礼』シリーズ(GA文庫)
出版社サイト:https://www.sbcr.jp/product/4815603960/

八目迷『夏へのトンネル、さよならの出口』(ガガガ文庫)
出版社サイト:https://www.shogakukan.co.jp/books/09451802

八目迷『きのうの春で、君を待つ』(ガガガ文庫)
出版社サイト:https://www.shogakukan.co.jp/books/09451842

佐野徹夜『君は月夜に光り輝く』(メディアワークス文庫)
特設サイト:https://mwbunko.com/title/kimitsuki/

佐野徹夜『さよなら世界の終わり』(新潮文庫nex)
出版社サイト:https://www.shinchosha.co.jp/book/180190/

安里アサト『86-エイティ・シックス-』シリーズ(電撃文庫)
シリーズ公式サイト:http://dengekitaisho.jp/special/23/eighty-six/

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