葛西純自伝連載『狂猿』第10回 橋本真也の”付き人時代”とZERO1退団を決意させた伊東竜二の言葉

「ええかげんにせえよ。この野郎!」


 秋田の大館というところで大会があったときも強烈だった。俺っちは、まだ正式に入団してない状態で、フロントからも「葛西くんはキャラクターもあるし、セコンドに付かなくていいよ」って言われてたから、自分の試合が終わったら控室に戻って、テングカイザーと一緒にストーブにあたりながらバカ話をしていた。

 それでメインの試合が終わったら、橋本さんが鬼の形相で控室に駆け込んできて、「おまえらなんでセコンド付かないんや! いいかげんにせえよ、この野郎!」って、めっちゃキレられた。もうこれは殴られるなってくらいの勢いでガチガチに怒られて、俺っちは「やべー、怖えー」って思いながら下向いてた。大会が終わってホテルに帰ってきて、部屋でひとりでコンビニで買ってきた弁当を食いながら、すげぇ怒られちゃったなって反省して、そろそろ寝ようかというときに、部屋の外が騒がしくなった。「なんだこんな夜遅くに」と思って、ドアのアイスコープから廊下を覗いてみたら、橋本さんがパンツ一丁で忍び足で歩いている。それで、俺っちの斜め向かいの部屋のドアにガンガン! ってノックをして、うわ~って大笑いしながらバタバタと走って逃げてるんだよ。

 「さっきまでエラい剣幕で怒ってた人がなにやってるんだ」って面喰らいながらも、あとで事情を聞いたら、どうやら某選手が部屋に女を連れ込んでたみたいで、橋本さんがその情報を聞きつけて、そいつの部屋まで行ってノックしてからかってただけだった。橋本さんの周辺は、こういう男子校みたいなノリになることが多くて、いろんな意味で「大丈夫か、この団体」って思ったね。

 慣れない付き人稼業は大変ではあったけど、リングの上では伸び伸びとやらせてもらっていた。お客さんの反応もよくて、俺っちのキャラクターも徐々に浸透していった。後楽園ホールで坂田さん(坂田亘)とやったシングル戦は「葛西純 ZERO-ONE入団テストマッチ」という名目で、俺っちが勝ったら正式にZERO-ONEに入団できるというものだった。

 試合は、場外戦の展開になってレフェリーは場外カウントを続ける。俺っちはリングに戻ろうとしたんだけど、坂田さんは俺っちのタイツから生えたシッポを掴んで止めようとする。そこで俺っちは掴まれたタイツごと脱ぎ捨てて、ギリギリで生還してリングアウト勝ちを拾った。当時としては、こういう勝ち方はギャンブルだったと思うけど、すごく盛り上がったし、ZERO-ONEファンのお客さんも俺っちのことを認めてくれた試合だったと思う。

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