脳科学者・中野信子が語る、“毒親”の捉え方と解決の糸口 「家族の絆には理性を失わせる”魔力”がある」
親対子どもという構図を強調するような本にはしたくなかった
――共依存と毒親はセットで使われることもありますが、本書の中で共依存という言葉を使わなかったのはなぜですか?
中野:概念としては、セットではそもそもないんです。共依存はアルコール依存症の夫とその妻の関係には特徴的な相互依存の要素がみられるとして命名されたものです。親子の問題としてはもともとは捉えられてはいませんでした。しかし、多くの人がこうした相互的な依存関係に思い当たることがあったのか、共感を持ってこの言葉を受け止めた人たちが、これを親子関係にも当てはまるとして適用していったということになるかと思います。
共依存は、しかし、お互いに苦しくなく、また、第三者にも実害を及ぼしているわけでもなければ、他の人がとやかく言うべき問題ではないのではないかと思います。本人たちが心から満足していて、それで成り立っている生活があるのなら、その人たちを、私は特にどうしようとも思わないのです。ですが、苦しんでいる人がいるなら、その人たちにも本書を一度手に取ってみてほしいなという気持ちがあります。
共依存そのものにはあまりフォーカスする必要がないかなと思っていました。日本型の社会の中では、そういう人間関係もそれなりにみられますし、それはとくに病的なものとは捉えられていない場合も多いんですよね。むしろ「仲良いね」「他の人には入り込めない絆があるね」などという捉えられ方をされていますし、本人たちも別に苦しさは感じていない。それを他の人が見て「あの夫婦は共依存だから」と責めてみても、むしろバランスを崩してしまうのではないかと心配になります。私はやや慎重で、そこはあまり切り込まなくてもいいのかなと思っています。お節介なことはあまりしたくない性質なんです。
――本書を読んで、中野さんの「お節介はしたくない」というスタンスをすごく感じました。毒親を一方的に責めるような文章では決してない。
中野:大きく切り込んでしまって、もしもそのために傷つく人がいたら、悲しいことだ、という気持ちがすごくあったんです。それでパンドラの箱、と書いたという。幸せに過ごしている人は、そのまま寝た子を起こすようなことはせず、そのまま幸せに過ごしてほしいとずっと思っています。また、「親対子ども」という構図を強調するような本にはしたくなかった。親を責めれば解決するよ、とは思ってほしくなかったんです。
――毒親は日本的だと感じますが、海外だと毒親の捉え方は違いますか?
中野:そもそも、赤ちゃんの扱い方が違うんですよね。欧米の社会だと、子どもはお母さんと別の部屋で寝かせるのが一般的な国が多いはずです。いままた感染症の問題があるので実感として少しは捉えやすくなったと思いますけど、20世紀の初頭はお母さんが子どものことをあんまり触ったり、抱きしめたりするのは、病原体が移る可能性を高めるのでよくない、とされていたんですよ。そういうこともあって、愛着の作り方が日本とは違ったものになっている可能性がありますね。日本は子どもとの距離が近すぎるくらいかもしれません。欧米の考え方が果たしていいのかどうか、これはまた別の問題ですが。産後のお母さんが女に戻るためのプログラムがありますよね。骨盤底筋群を鍛えましょうとか。フランスではああいうのを保険でできるんですよ。ゆるい条件はありますが、不妊治療も無料ですしね。
――両親が一緒に寝るというのは、少しいやらしく感じてしまいます。
中野:そう感じてしまうのは、日本独特ですね。欧米を持ち上げるのではありませんが、対照的で興味深いので言いますけれど、「お母さんは、お母さんである前に女です」という考え方が根強いようです。寝室は夫と一緒に過ごすものであり、子どもと一緒に過ごすものではない。それは、日本とは全然違いますよね。そして、家庭の外で女になろうとする人もいる。もちろん、男性も、家庭の外で男になろうとしたりするわけです。そういう点では、日本の親たちは、社会通念の犠牲になっているところがあるかもしれないですね。
わたしは母が再婚しているんですけど、べつに離婚したからといってなんとも思わないですよ。むしろ父母の仲が常に悪く、そのいさかいを見せられ続けていた頃のほうが面倒くさかったし、しんどかったですね。両親は高校3年生のときに別れたのですが、「ああ。この人もようやく自立したか」と思いましたよ。でも母は、離婚したことをすごく気に病んでいるようですね。「何十年も気に病むくらいならもっと別の選択肢もあったのでは?」と私は思いますけれど、まあ、彼女の人生ですからね。
――わたしの両親も離婚しているのですが、子どもの頃から喧嘩ばかりしていたので、離婚したときはスッキリしました。本書に「喧嘩することよりも、仲直りする姿を見せることのほうが大事」という記述がありますが、仲直りするところなんて見たことがないです。
中野:子どもにそういうところを見せるのは恥ずかしい、って思うようなところがあるんでしょうね。母にしても父にしても。謝る姿はあまり人に見せるものでもないと思っていたり。けれど、むしろ教育的配慮としては、仲直りするシーンは自然にみせてほしいところですね。失敗したときにはリカバリーができるということ、ただしそれにはスキルが必要だということ、関係は努力次第で修復できるんだという得難い学びに触れることのできるいい機会なので、ぜひともお願いしたいです。仕事でも、こういうことができるかできないかというのは、とても大事じゃないですか。仕事のうまくいっている人は、謝るのが上手です。むしろ、「謝り上手」で相手との関係を深められる人もいますしね。
人間関係の基盤になるユニットというのが家族です。家族の中でそういうことができているかどうかで、子どものコミュニケーションスキルにも差がついてくるのではないでしょうか。
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