時代に愛された麻倉未稀の歌 「大人の歌が歌えるような歌手」を追いかけた日々……45年の歩みと魂の行方

時代が求め、愛した麻倉未稀の歌

アイドル全盛期=1981年――なぜ麻倉未稀の歌は愛されたのか?

――麻倉さんは1981年8月21日、今回のアルバム『My Soul ~45th Anniversary』にもスペシャルトラックとして収録されている「ミスティ・トワイライト」にて歌手デビュー。今聴くとかなり大人っぽい楽曲での歌手デビューでしたが、当時は将来についてどんなイメージを持っていましたか?

麻倉未稀(以下、麻倉):それまでの人生とはまったくの別世界に入ってしまったことで、私自身、精神的についていけるのかがちょっと見えていなかったんです。ただ歌いたいという意思だけでこの世界に入ってしまったので、将来的にどうこうっていうものがその当時はまったく浮かんでいなかったし、いつまで自分が保つかどうかという不安を日々持っていました。とはいえ、大人の歌が歌えるような歌手になっていきたいとはずっと思っていて。デビュー曲がまさにそういう曲だったので、その通りに進めたらいいなとは思っていました。

【81年11月シングル曲・CMイメージソング】麻倉未稀「ミスティ・トワイライト」/Miki Asakura Misty Twilight

――音楽的にはこういう曲を歌っていきたい、みたいなイメージってありましたか?

麻倉:海外だとベッド・ミドラーやバーブラ・ストライサンドといったシンガーが好きなんですけど、最初に自分が歌いたいと思っていたのは、今回のアルバムでもカバーしている大橋純子さんや庄野真代さんのように、今で言ったらシティポップみたいな、ちょっとおしゃれな感じの曲だったんです。それ以外にも、イタリアの歌手の方が歌っているような、ちょっと語りかけるような口調の歌い方も大好きだったので、そういった要素を上手にミックスできればいいなと。でも、それをうまく表現するには、ある程度の人生経験がないと歌に信憑性が表れないじゃないですか。なので、自分が30代、40代になった頃にそういう歌が歌えていたらいいなと、当時は考えていました。

――「ミスティ・トワイライト」は当時の実年齢よりも上をイメージした楽曲だったかもしれませんが、結果的には長く歌える曲になりましたよね。しかも、ああいうボサノバテイストの楽曲というのも、1981年という時代性を考えると先取りしていた感もありますし。

麻倉:竜真知子さんが作詞、大野雄二さんが作曲・編曲をしてくださったんですけど、もともとオンワード『ジェーンモア』という婦人服メーカーのCMソングとして流れていたことも、時代を先取りしている感がありましたし。大橋純子さんも庄野真代さんもそうでしたけど、私が高校生だった1970年代って、大人の世界を歌うシンガーがすごく多かった時代だったので、そういう歌詞にこのボサノヴァのテイストが合ったのも大きかったんでしょうね。でも、私がデビューする1981年になると、今度はアイドル全盛になってしまったので、また異なるテイストの歌が愛されるようになった。今のJ-POPのはしりみたいなものですよね。そこから時代が何周もめぐって、最近はまた大人の世界を歌う曲が愛されるようになってきたのかなと、そういう気がしています。

――デビューから2年後の1983年、当時世界的に大ヒットしていたアメリカ映画『フラッシュダンス』の主題歌カバー「ホワット・ア・フィーリング~フラッシュダンス」を歌ったことは、麻倉さんにとって大きなターニングポイントだったのかなと思います。

麻倉:音楽出版の方から「この曲は彼女に合っているから歌ってみてはどうか」というお誘いがあったのが、最初にカバーするきっかけで。私が今まで歌ったことないような世界の曲だったので、最初は「ちょっと私は難しくて、どうやって歌っていいかわからないです」とお答えしたんです。でも、「とりあえず『フラッシュダンス』という映画は観てほしい」ということで拝見したんですが、これがすごく素敵な映画で。劇中でこの曲が流れてきた時、とても感動したんです。最初は自分に合っているのかどうかもわからなかったけど、あんなにも私に歌ってほしいと言ってくださるからには、きっと何か理由があるんだろうなと思って、一度はお断りしたものの「ぜひ歌わせてください!」とあらためてこちらからお願いしました。

『ホワット・ア・フィーリング~フラッシュダンス』
『ホワット・ア・フィーリング~フラッシュダンス』

――この曲はテレビドラマ『スチュワーデス物語』の主題歌にも起用されたことで、多くの人に愛される一曲となりました。その後もアメリカ映画『フットルース』のサウンドトラックから、ボニー・タイラーが歌う「Holding Out For A Hero」の日本語カバー「ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO」がテレビドラマ『スクール☆ウォーズ』の主題歌として大ヒット。

麻倉:「ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO」も、もともとはアルバムの一曲として制作したものだったんです。それが、音楽出版の方が大映テレビさんにご挨拶に行った時、「今、新しいドラマを撮っているんだけど、ぴったりなテーマ曲がなかなか見つからなくて」と言われたそうで、その方は私がこの曲をレコーディングしたことを知っていたので「昨日、麻倉さんが歌入れした曲があるんですけど、聴きますか?」と聴いてもらって。そうしたら、すごくドラマにぴったりだということになり、主題歌として採用されたんです。

――あの時代をリアルタイムで過ごした人にとっては、「ホワット・ア・フィーリング~フラッシュダンス」や「ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO」を聴くとそれぞれのドラマの映像が瞬時に浮かび上がるんです。

麻倉:『スチュワーデス物語』然り、『スクール☆ウォーズ』然り、大映テレビさんが手掛けたあの頃のドラマはどれもインパクト絶大でしたしね。昨今はドラマの物語ありきで楽曲制作することが多いと思いますが、「ホワット・ア・フィーリング~フラッシュダンス」も「ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO」もレコーディングを終えたあとにタイアップが決まったので、自分的にはすごくラッキーだったなと、あらためて思います。

――これらの楽曲以外にも、麻倉さんはシングルやアルバムで数々の洋楽ヒット曲を多数カバーしています。時には原語のまま、時には先の2曲のように日本語詞で歌うこともありましたが、原曲のよさを残しつつ自分らしく表現するうえで、心がけていたことって何かありましたか?

麻倉:その原曲を歌ってらっしゃる歌手の方に似せて歌うことは、まず違うじゃないですか。特に「ヒーロー HOLDING OUT FOR A HERO」なんて、ボニー・タイラーと私の声は全然違うので、寄せるなんてもってのほか。ただ、日本語詞に関しては作詞家の売野雅勇先生が、原曲の歌詞にある〈I need a hero〉を、私が歌うバージョンだけは〈You need a hero〉に変えてくれたことがすごく大きくて。

――当時、この曲は麻倉さんよりも先に葛城ユキさんがカバーしていて、葛城さんバージョンの日本語詞も売野さんが手掛けていたものの、そちらは〈I need a hero〉なんですよね。

麻倉:そうなんです。そこの違いによって、私らしさを強く打ち出せたのかなと。何年か前に、売野先生にその件に関して質問したんですけど、「君はみんなに元気を与えるタイプの歌手だから、〈You〉じゃないとダメなんだよ」と言われて、なるほどと納得しました。

――同じ曲のカバーでも、歌う人に合わせて日本語詞のテイストを変えていったと。オリジナル曲はもちろん、カバー曲に関しても幅広いジャンルの楽曲を歌ってきた麻倉さんですが、歌に取り組む際に大切にしていることってありますか?

麻倉:私はその楽曲を聴いて、自分がどういうふうにとらえるのかっていう方法をとっているんですね。なので、ゴスペルのような楽曲を歌ったとしても、自分の歌い方になってしまうのはちょっと否めないのかなと。でも、それはそれでよしとしているところがあります。

――今回の『My Soul ~45th Anniversary』に収録された楽曲のジャンルも多岐にわたりますが、麻倉さんが歌うことで一本の芯が通って、ブレることがないと感じました。

麻倉:ありがとうございます。それこそ、いろんなジャンルの歌を経験させていただいたおかげかなと思っています。昔みたいに「いや、これは歌えるかな?」というのもなくなって、自分から「これはこういうふうに歌いたいな」とか思えるようになりましたしね。今回江利チエミさんが歌ってらっしゃった「テネシー・ワルツ」のカバーも、今っぽいジャズテイストでレコーディングするのもアリだとは思うんですけど、同じレコード会社ということもありますし、せっかくだったら当時江利さんが歌ってらっしゃったトラックを使えないかなとご相談したらOKが出て。あの当時のトラックが残されている事実もすごいんですけど、当時ならではの豪華な生オーケストレーションで歌えること自体もすごく贅沢なことなので、同じレコード会社で得したなと思います(笑)。

――この曲、生音ならではのふくよかさがものすごいですよね。

麻倉:考えてみると、私が20代の頃って、今主流となっている打ち込みを使うことはまだまだ稀で、大半が生演奏だったんですよね。昔、「WHITE CHRISTMAS」をカバーした時も、(編曲の)青木望先生が「歌も一緒に録ろう」ということで、演奏と同録に近い形でレコーディングさせていただいて。私はそういう時代を通過してきたので、制作費はかかりますが(笑)、あの時代ならではのやり方もうまく取り入れつつ、今の時代にも合ったテイストを織り交ぜながら歌いたい。そういう気持ちで制作に臨んでいます。

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