渡辺美里、デビューから40年の時を経た“歌とメッセージの深み” 21stアルバム『Birthday』をライター3氏がクロスレビュー

渡辺美里『Birthday』クロスレビュー

「明日に向かって歩くための逞しさを気づかせてくれるアルバム」(天野史彬)

 こんなふうに時の流れを抱きしめることができるのなら。いつの日かこんなふうにたくさんのことを思い出すことができるのなら。こんなにロマンチックにあり続けることができるのなら。“生きる”ということは、人生は、それはやはり本当に素晴らしいことなのだと思う。渡辺美里の21作目となるアルバム『Birthday』を聴いて、私はそんなことを感じている。

 なんて力強く、温かいアルバムだろう。渡辺は昨年デビュー40周年、今年で還暦を迎えた。今年39歳になった私にとって、彼女は幼い頃からもうすでに大スターだった。しかしこの『Birthday』というアルバムを聴いていると、渡辺美里が私たちの知る“渡辺美里”になるもっと前から彼女の中で流れ続けている時間が伝わってくるような、そんな感じがする。それはもしかしたら、世界そのものを逆風のように感じる少女時代から彼女の中で続く時間かもしれない。あるいは、もっともっと昔、言葉で気持ちや感情を切り取る術を知る前から彼女の中で続いている時間かもしれない。肩書きやキャリアだけでは測れない、“命”というものが如何に歌と分かち難く繋がっているかということを、このアルバムを聴いていると強く感じるのだ。

 例えば、アルバムの6曲目に収録されている「そして歌がはじまった」。渡辺自身が作詞し、木根尚登が作曲を手掛けた素朴な美しさを持つこの曲で、渡辺は〈小さな手に/歌のタネ ぎゅっと握りしめて/泣きながら生まれてきたよ/そして歌がはじまった〉と歌っている。この曲を聴いていると、彼女にとって“歌”とは、ステージに立ち、プロのボーカリストになったから手に入れたものではないのだとわかる。渡辺にとって歌は、もっと本質的に“生まれ、生きている”ことと結びついているのだ。あるいはそれは、人は誰しもが“歌のタネ”を持っているんだ、という普遍的な肯定のメッセージでもあるのかもしれない。

 アルバム1曲目を飾る「さくらムード」は、作曲を斎藤有太が、作詞を渡辺が手がけている。その歌い出しから私は惹きつけられた。「さくらムード」は繊細かつ華やかなAORサウンドが魅惑的な楽曲。歌い出しはこうだ――〈私の好きなあの人は この町で暮らしてた/そぞろ歩けば春の宵 空には朧の月/今年 開花は急ぎ足 ニュースは知らせてる/すれ違う観光客 カメラ越しに何を観ているの?〉。変わっていく時代を、時の流れを、静かに見つめながら紡がれる言葉たち。実際、今年の春は桜の開花が例年より早かったし、桜の開花が早くなることについては、気候変動による温暖化の影響も指摘されているそうだ。

 流れた時間、変わっていく時代、ついた傷跡、儚さ、喪失。『Birthday』に収録された楽曲たちは、そうしたことも隠すことなく歌っている。槇原敬之が作詞作曲を手掛けた「折りたたみ傘」では、この世界に“残された”者の想いが、叙情的で美しいサウンドと歌声によって表現される。あるいは斎藤有太が作詞作曲編曲を手掛けた「ABSENCE(あなたがいない)」では〈今も間違って 広がった/NewsのPieceが 流れ続けているの/疑って 切り取った/時代の嘘は 何時暴かれるの〉と、より大きな視点で「人類は何を失おうとしているのか?」という警笛とも感じられる言葉が歌われる。

 “生きることは失うことでもある”。そんな事実が、このアルバムを聴いている間、胸を締めつける。それでも『Birthday』は悲しみに暮れるための作品ではない。『Birthday』は時の流れの残酷さを知りながら、それでも明日に向かって歩いていくための逞しさを、生きる意志を、私たちに気づかせてくれるアルバムだ。

 もしも「冒険者たち ~エターナルサンシャイン~」で歌われる〈母の背中で聞いてた/あの言葉 あの声が/誰かの背中を そっと/支える チカラになる〉というフレーズのように、懸命に日々を繋いでいく最中に、私たちを守る本当に大切な記憶を思い出すことができるのなら。もしも「毎日がバースデイ」で歌われるように、“日々、新しくなる自分”を信じることができるのなら。もしも「夕暮れシンドローム」で歌われる〈夕焼け小焼けで また明日/ため息ついてもいい 場所を探す〉というフレーズのように、安寧を求めるささやかな理想を、私たちがいつも胸に灯すことができるのなら。もしも川上結花が作詞作曲した「Deep Breath」のように、自分自身の歴史に誇りを持つことができるのなら。もしもアルバムの最後を飾る「ハートに火をつけて 〜シーズン2〜 with 怒髪天」のように、ロマンと胸の高鳴りを、この先何度でも感じられると信じることができるのなら。やはり生きることは本当に素晴らしいことだと、私はそう思える。

 アルバム『Birthday』。それは渡辺美里から届いた「生きるのは、悪いもんじゃないよ」という勇気のメッセージだと、私はそう勝手に受け止めた。(天野史彬)

渡辺美里 ジャケ写
『Birthday』

◾️リリース情報
渡辺美里『Birthday』
2026年7月15日(水)リリース
購入:https://erj.lnk.to/pfr9d5
・初回生産限定盤:CD&BD/8,800円(税込)ESCL-6252~6253
・通常盤:CD/3,500円(税込)ESCL-6254

<収録内容>
CD
01. さくらムード
02. BITTER☆SWEET ROCK’ N’ ROLL
03. 折りたたみ傘
04. ABSENCE(あなたがいない)
05. 夕暮れシンドローム
06. そして歌がはじまった
07. 光芒 ~Sign~
08. 毎日がバースデイ
09. 愛がお仕事
10. でっかい愛を抱きしめながら
11. Deep Breath
12. 冒険者たち ~エターナルサンシャイン~
13. ハートに火をつけて ~シーズン2~ with 怒髪天

Blu-ray(初回生産限定盤のみ)
『Digest Live Video~渡辺美里BITTER☆SWEET White Day Special~』

◾️ライブ情報
『渡辺美里 スタジアム伝説~復活~ Sweet 60』
開催日:2026年11月8日(日)
会場:西武ドーム(ベルーナドーム)
開場・開演:開場14:00・開演16:00
詳細:https://www.misatowatanabe.com/info/archive/?582485

オフィシャルサイト

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