TOAST CLUBにBlack petrolが聞く、サウスロンドン・Windmillの真実 “ポップなジャズフュージョン”でつながる2組の対話

TOAST CLUB 初来日対談

 デビューEP『Lift』を携え、先日初来日を果たしたUKの新鋭ジャズフュージョンバンド・TOAST CLUB。彼らの来日公演でフロントアクトを務めたのが、京都を拠点に先鋭的なアプローチを続ける音楽集団・Black petrolだ。リアルサウンドでは、来日公演前日にTOAST CLUBのトミー・ヴィリアーズ(Vo/Gt)とチャック・スマイス(Vo/Key)、Black petrolのtakaosoma(Gt)・SOMAOTA(Rap/Vo)・安原大貴(Sax)を招いた対談インタビューを行った。

 Black MidiやFontaines D.C.など、ロックシーンにおける重要バンドを多数輩出してきたサウスロンドンの伝説的ライブハウス「Windmill Brixton」出身のTOAST CLUBと、彼らのファンであり、日本でUKカルチャーの美学を独自に昇華してきたBlack petrol。日英の枠を超えてジャズフュージョンでつながる両者が、それぞれの音楽的魅力、そしてロンドンと日本の音楽シーンについて熱く言葉を交わし合った。(編集部)

TOAST CLUBとBlack petrol、互いに抱く印象は?

ーーBlack petrolの皆さんがTOAST CLUBの音楽と最初に出会ったきっかけとミュージシャンとしての彼らのどんなところに魅力を感じているのか、教えていただけますか?

takaosoma:以前、今回の来日公演の会場になったCIRCUS Tokyoに出演したときに、店長の小林さんから「TOAST CLUBが日本に来るからフロントアクトをやってみてはどうか」というお誘いをいただいたのがきっかけです。そこから彼らに関する記事を読んで、自分たちと近い音楽への接し方や考え方があるなと感じました。僕ら自身、いまUKガラージやドラムンベースを取り入れている部分もあるので、UKのシーンを担っている彼らに一度会ってみたい、そういうミュージシャンの演奏を純粋にお客さんとして観てみたいという気持ちがありました。

SOMAOTA:僕は事前にインタビュー記事を読ませていただいて、「Mean Girl」という曲についての記事のなかで「何をしたらいいかわからないときはジョークを言えばいい、ふざけていたらいい」とおっしゃっていたのが印象的でした。その考え方には、すごく抜け感があるなと感じたんです。トミーさんはpiri & tommyの流れでクラブミュージックをずっとやってきた方ですけど、TOAST CLUBではもっと生楽器をフィーチャーした形で、しかもすごくポップで、いい意味でイージーに聴ける曲を作っています。そのスタイルは僕らも近い部分があると思うのですが、TOAST CLUBのほうがもっと抜け感、遊び心がある。そこがすごく魅力的だなと思いました。

TOAST CLUB - Mean Girl (Official Visualiser)

安原大貴:ジャンル的にはジャズフュージョンなんですけど、かなりポップで聴きやすいサウンドだなというのを、曲を聴いていて強く感じました。サウンドの作り方がパット・メセニーのエッセンスに近いというか。パット・メセニーって変拍子も使うので、ちょっと聴きづらいところもあったりするんですけど、TOAST CLUBはその要素をめちゃくちゃ聴きやすい形に落とし込んでいる。ジャズフュージョンをあまり通っていないリスナーでも、聴き馴染みのいいポップなメロディの音楽として楽しめる。そこがすごく素敵だなと思っています。

トミー:僕らも、ジャズフュージョンを作ることを強く意識しているけど、聴き手にちゃんと入り口を用意するというか。それ以上に「みんなが踊れるジャズフュージョン」を作ることをテーマにしているんだ。

TOAST CLUB
TOAST CLUB
Black petrol
Black petrol

ーー今回が初めての来日ですが、日本に来て印象に残ったものや、驚いたことがあれば教えてもらえますか?

チャック:僕がまず感じたのは、みんなすごくちゃんとしていて、服装がきっちりしているということだね。とてもスタイリッシュでクール。街を歩いた最初の印象はそれだった。

トミー:僕が感じたのは、どんな細かいところにも、すごくこだわりが行き届いているということ。特に印象に残っているのは、駅ごとに違うジングルが流れることかな。それがすごく新鮮で、ロンドンに持って帰りたいくらい(笑)。街全体が音楽で溢れていて、時折、それが意表を突くようなハーモニーだったりもする。そこが本当に印象的だよ。

ーー普段から聴いている日本のアーティストはいますか?

トミー:僕はCASIOPEAがいちばん好きなバンドのひとつでずっと聴いているんだ。いま活動しているジャズフュージョンのアクトのなかでも、いちばん喜びに満ちた存在だよ。あと、山下達郎さんは本当に素晴らしいアーティストで、「SPARKLE」はシティポップの名曲だと思う。

チャック:僕もトミーに紹介されてCASIOPEAを聴き始めたところだよ。トミーほど詳しくはないけど、素晴らしい音楽だなと思うね。あともうひとり挙げるなら、坂本龍一さんかな。「戦場のメリー・クリスマス」は、子供の頃から本当に何度も聴いてきた、大切な曲だよ。

ーー今回、Black petrolが来日公演のフロントアクトを務めることになりましたが、彼らの音楽の第一印象はいかがでしたか? 特にサウンド面で「これは気になった」という瞬間があれば教えてください。

チャック:すごくクールだよ。Black petrolの根底には僕らに近いイージーリスニング寄りのジャズがあるのに、その上でかなりクレイジーなビートが鳴っている。ある種の二面性を感じるね。

Diaspora (feat.PERSIA)

トミー:曲中でのコール&レスポンスもすごく面白かった。聴いた瞬間に「これ、ライブでどうやるんだろう?」って思ったんだ。プロダクションを作り込むバンドが、それをどうライブに落とし込むのか。そこにいつもワクワクさせられるんだよね。それとメンバーのなかにDJがいるんじゃないかって、勝手に予想していたよ。ジャングルやドラムンベース、UKガラージへの理解が感じられて、ちゃんとそこを通ってきているんだなという感覚がある。

「“やるか、やられるか”のような場所」Windmillが一つのシーンになった理由

ーーTOAST CLUBもBlack petrolも、ダンスミュージックの身体感覚を生演奏に翻訳しているという点で、両バンドには通じるものがあると思います。

takaosoma:そうですね。でも、もともとは、生音とビートの融合みたいなものに、僕自身が特別な興味を持っていたわけではないんです。大学の部活で実験的にいろんな音楽を試すなかで、そこに面白さを感じたというか。先輩たちってやっぱりイケてるじゃないですか。ケンドリック・ラマーやサンダーキャットを聴いていて、そのかっこいい先輩たちに憧れて、僕もそういう音楽を聴き始めるようになったんです。そこから、LAのジャズシーン、その中でもフライング・ロータスなどのビートミュージックから影響を受けて、「ビート」というものを自分なりに解釈しようという方向に向かっていきました。

 そもそも僕らは京都で大学生活を送るなかで、そういう音楽の文脈への理解がある仲間が自然と集まってできたバンドなんです。スタジオでセッションをしたり、僕が作った曲のアプローチをみんなで話し合ったり、そういうことができる関係性を持つことができた。そうした活動のなかで気になっていたのが、TOAST CLUBが根ざしているWindmill(The Windmill Brixton)という場所なんです。日本にはWindmillのような場所がまだないので、もし仮に日本にもあったら僕らはどうなっていたんだろう? とか、逆にTOAST CLUBはWindmillのなかで実際どういうふうにやってきたのか? ということが、すごく気になっていました。

ーーWindmillを拠点に活動する当事者から現場の生の経験を聞いてみたいという気持ちはありましたか?

takaosoma:はい。僕はBlack Midiがすごく好きなんですけど、彼らもWindmill出身のアーティストですよね。TOAST CLUBとBlack Midiは、音楽性で言えば全然違うバンドですけど、両者に共通しているのは、ある種の実験性というか、フュージョン、ジャズ、ビートミュージックをすべてごちゃ混ぜにしようという姿勢だと思うんです。そういうバンドが生まれてくること自体、いまのイギリスの音楽の先進性を象徴していて、僕らはそこにすごくシンパシーを感じています。ただ、さっきも言ったように日本にはそうした土壌がないので、自分たちで場所を作るしかない。ずっとそう思ってきたこともあって、CIRCUSでイベントを立ち上げたりもしているんです。

チャック:Windmillに集まる観客はけっこうワイルドで、基本的にはハイエナジーな音楽にとにかく反応する人たちなんだ。ただ、それだけではなくて、音楽的にしっかりしていて質が高ければ、うまくいく可能性も十分にある。あそこでプレイされる音楽はほとんどが本当にヘヴィで、モッシュピットもできる。今回日本に来て知ったんだけど、日本にはそういうモッシュ文化がある場所はあまり多くないみたいだね。それに対してWindmillでは、火曜日の夜であってもバンドが演奏していて、お客さんは夢中で暴れて、お互いにぶつかり合っているんだ(笑)。

トミー:そうしたなかで、僕らTOAST CLUBの面白いところは、ヘヴィな音楽ではないのに、Windmillに出てくるヘヴィなバンドたちと同じスピリットを持っているという点だと思うよ。ジャンルは違うけれど、生々しいエネルギー(raw energy)というスピリットは共通しているというか。その中で僕らはハイエナジーだけどクリーンで、メロディもハーモニーも大切にしているんだ。

チャック:そういう立ち位置のバンドは、Windmillのなかではかなり珍しくて。僕と一緒にジャズの学校に通っていた友達は、ヘヴィでノイジーなバンドをやっていて、Windmillに出演しているんだけど、僕らがTOAST CLUBとしてWindmillでプレイしていること自体、信じられないと驚いていたくらいなんだよね。

 そもそも僕自身は、ロンドンのライブミュージックシーンに入るまで、そこまでこのシーンについて詳しく知っていたわけではないんだよね。ジャズ方面はもちろん把握していたけど。だからトミーのほうがずっと詳しいんだよ。彼は若い頃からBlack Midiを聴いていた「Black Midiの人」なので。僕はその世界にはあまり縁がなかったから、いわば手探りで飛び込んだような感じかな。

takaosoma:いまWindmillは世界的にひとつの音楽シーンになっていますよね。なぜ、Windmillがシーンになったのか、当事者としての意見を聞きたいです。

トミー:あそこであれだけのシーンが生まれた背景には、たくさんの人たちの関わりがあるからだよ。さっきも名前を挙げたけど、Black Midi、Black Country, New Road、Squid、Shame、こうしたバンドの多くが、最初のギグをWindmillでやっていると思う。あそこに立つと本当に鍛えられて、あっという間に、止められない勢いを持ったバンドへと進化していくんだ。まさにBlack Midiがそうだった。Windmillは出演するバンドにとって、“やるか、やられるか”のような場所なんだ。とにかく観客がタフだから、いいパフォーマンスができなければ、それがステージ上でダイレクトに返ってくる。

チャック:Black petrolも、いつかやってみるといいよ。

トミー:あと、Windmillを語るうえで欠かせないのが、ルー・スミスという人だね。ロンドンの草の根のシーンをずっと撮り続けているビデオグラファー/フォトグラファーで、ヒーローみたいな存在なんだよ。彼に撮ってもらうこと自体が、Windmillシーンにおけるある種の通過儀礼になっていてね。僕自身、Black Midiのことを最初に知った頃は、彼らの音源がまだリリースされていなかったから、Black Midiの音楽を聴く手段は彼がYouTubeにアップした映像しかなかったんだ。だから、“ルー・スミスに撮られる=絶対にコケられない”というプレッシャーがある。カメラを持っている彼を会場で見かけたら、「よし、今夜は自分たちのベストを出さないと」という気持ちになるんだよ。そういう意味では彼のチャンネルの影響力が、Windmillの“やるか、やられるか”感をさらに高めているんだ。

Black Midi Live @ The Windmill
Toast Club at The Windmill!

ーーそんな場所にTOAST CLUBのこの音楽性で出演されているというのが、すごく面白いですよね。

トミー:うん、ジャンル的に見れば、確かにあそこでやるには難しい音楽だよね。あの会場は基本的にパンク寄りの音楽が中心だから。ただ、いろんな人から「Windmillでこういう音楽が聴けるのはすごく新鮮だ」と褒めてもらえるんだ。というのも、僕らの音楽って耳を襲うというよりは、聴き手を招き入れるようなものなんだよ。そこが大事な部分だなと思っているよ。

SOMAOTA:Black Midiのライブに行ったことがあるんですけど、けっこう自制の効いた音楽だなと思って観ていたんです。ポストパンクの文脈で、ボーカルもぼそぼそ喋る部分があって、「めちゃくちゃラウド」というよりは、むしろ抑制の効いた印象があった。Black Country, New Roadも同じで、TOAST CLUBとも近い部分があると感じています。ただ、TOAST CLUBがめちゃくちゃラウドかというと、僕のイメージではそんなことはなくて、Windmillシーンのなかでは、いちばん聴きやすい立ち位置にいるのかもしれません。でも、それが僕らからしたら、すごく地続きに感じられるんです。

トミー:Windmillという場所は、間違いなく僕らを形作ってきたんだ。TOAST CLUBを始めた頃の音といまの音は全然違っていて、あの会場に出続けるうちに、僕らは叫ぶようになっていったんだよね(笑)。

チャック:実は、いまの僕らのショーには、ノイズ・セクションがあるんだよ。この前、僕の地元のリーズで水曜日の夜にプレイしたんだけど、その前のギグがまさにWindmillでの狂ったような内容のライブで。その勢いをそのままリーズに持ち込んだから、完全にとんでもない内容になってしまった。母親や父親の友人たちも観に来てくれていたんだけど、みんな「一体これは何なんだ?」みたいな反応だったよ(笑)。

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