忘れらんねえよ「なんもねえ」と『ヤニねこ』が共鳴する必然 “どうしようもなさ”を肯定し続けてきたバンドならではの切実さ

Viral Hits Focus

 話題のバイラルヒット曲を毎週収録するSpotifyによる日本向けエディトリアルプレイリスト「Viral Hits Japan」(※1)。同プレイリストより、本記事では忘れらんねえよの「なんもねえ」をピックアップする。

 「なんもねえ」は、7月2日より放送中のTVアニメ『ヤニねこ』(TOKYO MXほか)のために書き下ろされたオープニングテーマであり、初回放送と同日にデジタル配信シングルとしてリリースされた楽曲だ。人間と獣人が共存する世界を舞台に、ヘビースモーカーの獣人・佐藤ヤニ子をはじめ、生活力皆無のキャラクターたちの日常をブラックユーモアたっぷりに描く『ヤニねこ』は、その攻めた作風によって放送開始直後からSNSでも大きな反響を集め、この夏の話題アニメの一つとなっている。

 本楽曲を書き下ろしたのは、忘れらんねえよの柴田隆浩(Vo/Gt)。かねてより漫画好きを公言しており、『ヤニねこ』の原作も愛読していたことから今回のタイアップが実現した。原作への深い理解があったからこそ、本楽曲は作品世界と自然に響き合う一曲へと仕上がっている。思えば、忘れらんねえよというバンドは、2008年の結成以来、一貫して“かっこよくなれない者たち”を歌い続けてきた存在だ。恋にも仕事にも真正面から向き合い、それでも失敗を重ねる人々を、ときに笑い飛ばしながらも決して見放さない。その青春パンクの本質には、不器用な人間への温かな眼差しがある。

 2011年のメジャーデビュー曲「CからはじまるABC」が、TVアニメ『逆境無頼カイジ 破戒録篇』(日本テレビ系)のエンディングテーマに起用されたことも、彼らが描き続けてきたテーマと決して無関係ではないだろう。そして『ヤニねこ』もまた、褒められた生き方とは程遠い獣人たちの物語である。タバコや酒に溺れ、失敗を繰り返しながらも、どこか憎めないヤニ子たち。その“どうしようもなさ”は、忘れらんねえよが長年描いてきたテーマと驚くほど重なっている。「なんもねえ」というタイトル自体も彼らの自己認識と響き合う。この主題歌は作品に寄り添うというより、もともと同じ価値観の延長線上にあったような必然性を感じさせる。

なんもねえ

 楽曲に耳を傾けると、その熱量は一層際立つ。パンクなバンドサウンドに乗せて、柴田は終始叫ぶように歌い続ける。整った歌唱を聴かせるのではなく、あえて粗削りな質感を残したボーカルは、ヤニ子たちが生きる雑然とした世界観とも重なる。楽曲後半に登場する数字を用いたコールアンドレスポンス風のパートも、ライブハウスで鍛えられてきたバンドらしい遊び心が感じられ、楽曲に強い中毒性を与えている。その一方で、サウンドの荒々しさの奥には切実な感情が息づいている。リリースに際して柴田は、不器用で余計な一言を口にしてしまう人間であっても、その根底には「喜んでほしい。泣き止んでほしい。あるいは、認めてほしい。ここにいていいよって言ってほしい」(※2)という願いがあると語っている。この強がりの裏側にある弱さは、忘れらんねえよが長年描き続けてきたテーマそのものだ。歪んだギターと勢いあふれるバンドアンサンブルもまた、整えすぎることなく感情をそのまま封じ込めたようで、それが『ヤニねこ』の世界観と自然に共鳴している。

 実際、アニメ放送開始以降はオープニング映像に盛り込まれた小ネタや演出を考察するSNSの投稿とあわせて、主題歌の勢いや作品との高い親和性を評価する反応も少なくない。こうした盛り上がりを見ると、本作は単に人気アニメだから主題歌も聴かれているという構図だけでは、今の現象は説明しきれないのかもしれない。作品世界と楽曲が強く結びついたことで、視聴者がアニメを楽しむ体験そのものをより深く印象づけ、その結果として音楽単体への関心も高まっていると言えそうだ。

 「なんもねえ」と叫ぶたび、聴き手もまた、自分の中のどうしようもない部分を少しだけ肯定されたような気持ちになる。その普遍性こそが、この曲が多くの人の心をつかむ理由なのだろう。

TVアニメ『ヤニねこ』ノンクレジットオープニング映像|忘れらんねえよ「なんもねえ」

※1:https://open.spotify.com/playlist/37i9dQZF1DWZZbpkxU5t9L
※2:https://yanineko-anime.com/

忘れらんねえよ「アイラブ言う」が呼ぶ共感 『ふつうの軽音部』きっかけにバイラルチャートイン

Spotifyの「DailyViralSongs(Japan)」は、最もストリーミング再生された曲をランク付けした「Spotif…

忘れらんねえよはすべてを乗り越え、前に進み続ける 現体制ラストライブを見て

忘れらんねえよは、“ロックバンドであること”に大きな夢を描いてきたバンドなのだろう。  だからこそ、2015年のドラム脱退に続…

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる