忘れらんねえよ「アイラブ言う」が呼ぶ共感 『ふつうの軽音部』きっかけにバイラルチャートイン

Viral Chart Focus

 Spotifyの「DailyViralSongs(Japan)」は、最もストリーミング再生された曲をランク付けした「SpotifyTopSongs」とは異なり、純粋にファンが聴いて共感共有した音楽のデータを示す指標を元に作られたランキング。同チャートの1月28日付のTOP10は以下の通り(※1)。

1位:DxS (SEVENTEEN)「Blue」
2位:忘れらんねえよ「アイラブ言う」
3位:I'm a Cutie Finder「カウントダウンラブ」
4位:ALPHA DRIVE ONE「FREAK ALARM」
5位:Worldwide Skippa「don't stop freestyle」
6位:日向坂46「クリフハンガー」
7位:jo0ji「よあけのうた」
8位:ふみの「favorite song」
9位:LNGSHOT「Saucin'」
10位:中島健人「XTC」

 その時々の空気感を如実に映し出すSpotifyの「Daily Viral Songs(Japan)」だが、この週のチャートは、流行の移ろいの域を超えた、熱狂の再燃を感じさせる結果となった。前週、チャートの頂点に君臨していたのはWorldwide Skippaの「don't stop freestyle、続く2位がLNGSHOT「Saucin'」という結果で、HIPHOP的なビートとストリートの鋭利なセンスが支配的な一週間であったことは記憶に新しい。しかし、今週のトップ10はその景色をガラリと変えている。DxS (SEVENTEEN)の「Blue」が首位を奪取し、それに続く2位に、忘れらんねえよの「アイラブ言う」が突如として現れたのだ。先週までは圏外だったこの楽曲が、なぜ今、リリースから数年を経てこれほどまでにリスナーの心を揺さぶっているのか。その源泉をたどると、一つの漫画作品と、そこに宿る切実な“音”に行き当たる。

 「アイラブ言う」は、〈愛している〉〈好きだ〉という、あまりにもストレートな、しかし誰もが逃れられない根源的なメッセージを、ただただ愚直に、純度が極限に達するまで煮詰めたような一曲だ。そのストレートすぎる感情の奔流を、前のめりで疾走感あふれるバンドサウンドがさらに加速させ、聴き手を逃げ場のないエモーショナルな高鳴りへと連れて行く。余計な装飾を削ぎ落とした“バンド”という生々しい表現形態だからこそ、一切てらうことのない叫びは、歌と歌詞の枠を超えて、聴き手の心に剥き出しの真実として切実かつリアルに突き刺さるのである。

忘れらんねえよ「アイラブ言う」Music Video

 2022年にリリースされたこの楽曲が、約3年以上の時を経てバイラルチャートの上位に食い込んだ理由は、現在『少年ジャンプ+』で連載中の漫画『ふつうの軽音部』(以上、集英社)にある。とはいえ、「アイラブ言う」はこの作品のために書き下ろされた主題歌でも、挿入歌でも、キャラクターソングでもないという点だ。劇中の重要な局面において、主人公・鳩野ちひろが自らの意思で選び、声を振り絞って歌った曲として登場したのだ。この一場面が読者の感情を激しく揺さぶり、余韻がそのままストリーミングサービスへと流れ込み、拡散されていったのだろう。これは、優れたマンガ作品が既存の楽曲を物語の血肉として再定義し、数年前の作品が現代のヒットへと鮮やかに変貌する、極めて面白いヒットの方程式であるといえる。

 この快挙を受け、同バンド フロントマンの柴田隆浩がSNSに投稿した独白も大きな共感を呼んでいる(※2)。土曜の深夜、一人サイゼリヤでビールを飲みながら、友人からの「きたぞ」という一報で楽曲の作品への登場を知ったという柴田。彼はその時の鳥肌が立つような高揚感とともに、アーティストとしての業を剥き出しにした言葉を綴った。「あの曲は、3年前、大切な人に俺の一方的で独りよがりな想いを押し付けたごくごく個人的な歌で、俺の半径3cmのことしか書いとらん。普遍性なんざ、1ミクロンも意識してない」――。この「半径3cm」という言葉に、忘れらんねえよの本質、ひいてはロックの核心が凝縮されている。

 柴田が「理屈を超えている」と評したこの現象は、計算されたマーケティングでは到達できない、表現における一つの奇跡と言えるだろう。邦楽ロックの名曲が数多く登場する『ふつうの軽音部』において、「アイラブ言う」は、どうしようもなく好きなのだと叫ぶの美しさを肯定しているからだ。柴田は投稿の最後をこう結んでいる。「君の好きは、間違っていない。それでいいんだよ」(※2)。この言葉は、劇中の登場人物に向けられたものであると同時に、今この瞬間、不器用な想いを抱えてスマホを操作している全てのリスナーへの祝福として響く。

 今週のチャートには、日向坂46や中島健人といった華やかなスターから、jo0jiやふみのといった鋭い作家性を持つアーティストまでが名を連ねている。その多様なラインナップの中で、泥臭く「アイラブ言う」と叫ぶこの曲が2位に君臨している事実は、今の時代が、綺麗に整えられた言葉よりも、痛みを伴うほどの「真実の叫び」を求めていることの証左なのかもしれない。ロックンロールは死んだ、などと言われることもある。しかし、一人の男が深夜のサイゼリヤでべろべろになりながら歓喜し、その楽曲が時を超えて若者たちの心を震わせている今の光景を見る限り、その魔法はまだ解けていない。物語の力を借りて、再び翼を得た「アイラブ言う」。この「半径3cmの衝動」がどこまで広がっていくのか、私たちはその“理外”の熱狂を、もう少しの間見守ることになりそうだ。

※1:https://charts.spotify.com/charts/view/viral-jp-daily/2026-01-28
※2:https://x.com/wasureranneyo/status/2016135961151996294

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