ルアン、菊地成孔プロデュースでリブートした姿 電影と少年CQを経て顕現したソロシンガーとしての核

 映画をテーマに演劇的ライブを繰り広げてきた孤高のアイドルユニット「電影と少年CQ」の活動を終えたルアンさんの新たな活動を、NHKドラマ・映画「岸辺露伴シリーズ」のサウンドトラックを手がけた饒舌多才な音楽家の菊地成孔さんがプロデュースする「ルアン・リブート・プロジェクト」。映画館の座席で大人しく鑑賞していた観客がダンスフロアに引きずり出され、舞踏の悪魔がいま目覚める……!

Chapter1. ルアン(電影と少年CQ)の場合

 2016年11月、架空の映画サウンドトラックを歌う男女2人組アイドル「電影と少年CQ」(以下、電少)のお披露目公演で、私は初めてルアンちゃんに出会いました。薄暗い地下のライブハウス神楽坂TRASH-UP!!(当時)のステージに立つ、宇野亞喜良先生や丸尾末広先生の描くアングラ映画ポスターから飛び出した女の子。人買いに攫われサーカスに流れ着いたような風情で歌い踊っていました。その後の9年間、ゆっきゅんとルアンちゃんの「ふたり」はアイドル界で異色の輝きを放ち、長田左右吉氏の創る物語で様々な「ふたり」役を演じていきました。映画館で鑑賞するごとく見守ってきたファンの拍手喝采に包まれて、電少は2025年末にハッピーエンドという名の活動終了を迎えました。

Chapter2. 菊地成孔とSPANK HAPPYの場合

 菊地成孔さんが1992年から手がけた、メンバーが様々に変わるユニット「SPANK HAPPY」を初めて目撃したのは、2002年。私が20歳の頃でした。

 第二期の岩澤瞳さんボーカル時代に、雑誌Quick Japan(※1)でその存在を知り、一度は生で観たいと訪れた新宿タワーレコードのインストアライブで、明らかにアイドルではない男女ユニットに二人同時に恋焦がれる、初めて体感した「関係性萌え」。知識豊富で才能豊かで洒脱で洒落者伊達男の歳上男性(菊地さん)が、妹には離れすぎ娘には近すぎる絶妙な年齢差の、吾妻ひでお先生作画そのままの女の子(岩澤さん)に完全に降参! と平伏する様子。目の前で繰り広げられる二人のやり取りのゾクゾクする魅力の虜になり、その後連日CDを聴き膨大な文字数の菊地さんのブログを読み漁っていたら、突如岩澤さんが脱退。血迷って新ボーカリスト募集オーディションに応募してしまうほどにショックでした。(結果は勿論一次審査落ち、菊地さんは不合格者にも丁寧なメッセージをくださいました)

Chapter3. 邂逅

 それから時は流れて2019年、トークライブ「バラ色流星群」第1回で、ゆっきゅんとルアンちゃんが、菊地成孔 feat. 岩澤瞳「普通の恋」をカバー。二人は間奏でゼリーポンチを食べたり、変なダンスをしたりと好き放題お茶目に歌い、思い出の曲を楽しく蘇らせてくれて、長く生きるとこんなことがあるのか……と、涙しました。

 そのさらに5年後、アーバンギャルド主催のフェスで菊地さんのFINAL SPANK HAPPYと電少が邂逅。菊地さんの還暦記念「セカンド・スパンクハッピー・レトロスペクティヴ」企画に電少が参加、DOMMUNEでの共演を経て、菊地さんは電少に2曲を提供し(※2)、SPANK HAPPY「ANGELIC」カバーと共にラストアルバム『HAPPY END』に収録された。二組の関係が深まってゆき、こんな素敵な出来事が起こるんだ、生きててよかった……! と、感動と感謝に打ち震えました。

電影と少年CQ - BLOOD PITT
電影と少年CQ / 愛と血のやり方 -MUSIC VIDEO- 作曲菊地成孔

 菊地さんは電少の二人に対し繰り返し「孫」と仰っています。父親ではなく祖父という所がポイント。権力勾配から自由になれる「好々爺と若者」は、今の時代に批判されがちな「権威ある年上男性が若い女性を懐柔」という固定観念へのしなやかなアンチテーゼとなり、2020年代型・令和の関係性萌えを発見しました。

Chapter4. Trailer

 9年の間に電少と並行してソロ活動と作詞にも挑み、独自の美を磨き上げ極めていったルアンちゃんが完全に「ひとり」になった時、一体どんな表現を見せてくれるのだろうと、寂しさと期待が入り混じっていた2025年夏。菊地成孔さんが代表を務める新音楽制作工房の全面プロデュースによるルアン・ソロ曲がライブで披露されました(※2)。この時の衣装が現在のアーティスト写真で着用するスパンコールギラつくチャイナドレスで、優雅さと上品さとフェティシズムが合わさるこれまでにない「新生ルアン」を予告してくれました。

Chapter5. Reboot

 2026年7月11日、月見ル君想フにて開催された『ルアン「あたしをつくらないで(上)」リリース&バースデー・パーティー』。ルアンちゃんのお誕生日と、音楽界再デビューを同時に祝う爆裂お目出度い夜でした。

 菊地さんのDJは「恋と月をテーマに、選曲しました」と洒落た台詞で幕開け。ICE「MOON CHILD」、小池玉緒「鏡の中の十月」、カヒミ・カリィ「色彩のサンバ」辺りはぜひいつかルアンちゃんにカバーしていただきたい。SPANK HAPPY「拝啓ミス・インターナショナル」でフロアは爆上がり期待値MAXに。

 そして『2001年宇宙の旅』のごとき荘厳なイントロダクションと共に、ギャルでソリッドでモードでファンタスティックな新生ルアンが、満月型スクリーンに投影された巨大ミラーボールのもと、遂に爆誕! この湿っぽい日本では滅多に見ない、南国植物のようにド派手で官能的なビジュアルに度肝を抜かれました。アルバムジャケット写真の背中ガン開きセクシー&デカダンなドレスの流れも汲みつつ、激しい振付に適したスポーティーなスタイル。ALEXANDER WANGのロゴがギラギラ輝くデニムホットパンツ、H&Mスポーツライン・MOVEのブラトップ、体の線が磨りガラスのように透けるUNDERCOVERのオーガンジーシャツ、ぽこあぽこの色鮮やかなインポートタイツ…という菊地さんのウキウキが伝わってくるスタイリング。以前のソロ衣装の寒色系紫陽花カラーから脱皮したビビッドなオレンジとイエローのビタミンカラーに、ヘルシーな露出。まずビジュアルで「リブート」を強く実感しました。

 1曲目からシュルレアリスティックな振付の「ROXY」をサングラス姿でクールに披露。

「ルアンさんの歌声ってすごく個性があるのでいじってもいじっても変わらない」(※4)

 ボーカル修正のAIサービスVovious(※5)が多用された音源で大理石彫刻のように硬質だった歌声は、生歌で激しく揺らめき踊らずにはいられないグルーヴを生み出し、幼く儚い少女だったルアンさんの官能が解き放たれた瞬間を目撃しました。

 音源発表から欠かさず聴き続けた悪魔的中毒曲「ミッドサマー・シンドローム」。宇野亞喜良展の分厚い図録を手に歌われたこの曲は、美しい悪夢のような歌詞に透明な歌声が幾重にも重なり、自分がずっとルアンさんに抱いていた幻想が濃縮されたようで、この世界に永遠に棲みたい……! と叶わぬ夢を抱くほど。アリ・アスター監督の映画『ミッドサマー』を想起させるこの曲は、様々な映画をモチーフとしてきた電少の世界観にも繋がり、ルアンさんの揺るがない核の部分をそっと見せてもらえたように思えます。

ミッドサマー・シンドローム

 ミニアルバム『あたしをつくらないで(上)』全曲、同作『(下)』に収録予定の新曲、そして以前からのソロ曲に、待望のカバー『拝啓、ミス・インターナショナル』……と、たった一人で盛沢山のステージを繰り広げたルアンさん。

 アンコールのボーナスタイム的お祭りコラボレーションは、菊地さんとルアンさんのデュエット。まさかのブラックビスケッツ「Timing~タイミング~」を、菊地さんの意外なハイテンション謎ダンスと共に披露。歌い終えた後、1人になったルアンさんが「でも私はポケビの方が好きなんですけどね。♪もしも生まれ変わっても~」とMCでちょっとした反抗を見せた姿もキュートでした。そして“生まれ変わっても また私に生まれ”てしまうのは、まさに今のルアンさんの姿です。

-Epilogue-

 リスタートではなく、リブート。TVドラマ(※6)のように、外見はすっかり変わっても、根幹にあるものは変わっていない。菊地さんと新音楽制作工房によってリブートを遂げたルアンさんは、誰かにつくられたのでなく、彼女自身が元から持っていた強固な性質を自ら進んで露わにしてみせたのだと気づきました。全ての女性に対する尊敬の念を原動力に数々の「その人の核」を引き出すプロデュース作品を生み出してきた菊地さんと、音楽家として菊地さんを深く敬愛するルアンさん。二つのリスペクトが交差し生まれたプロジェクトで、大好きなお二人が創り出す音楽のおかげで、私はまだこの世に絶望せずにいられます。

 ルアンさんは、巨大なる空虚。くっきりした三白眼のひとみは、観客の妄想を受け止め飲み込むブラックホール。空洞の強さと、クールな儚さと、唯一無二の美と歌声で、この狂乱の20年代を切り開いてくれるでしょう。

(※1)QuickJapan:2001年36号
(※2)『BLOOD PIT』https://youtu.be/qTBsXoiSaQo
『愛と血のやり方』https://youtu.be/SBiFQW5ix5o
『ANGERIC』
(※3)2025/8/20 WWWX 新音楽制作工房presents「未来のコドモたちのために」
(※4)2026/7/3インスタライブ 菊地さんコメントより
(※5)Mikki「ルアンは新時代のウィスパー歌手――菊地成孔と語る、電影と少年CQ終了後に挑んだソロ作『あたしをつくらないで』の世界」https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/45461?page=3
(※6)「リブート」2026年1月18日~3月29日放送 TBS系「日曜劇場」主演:鈴木亮平/松山ケンイチ/戸田恵梨香

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