Fujii Kazeはかけがえのない“ひとり”に歌いかけている 「You」MVから伝わる『Prema』=至上の愛の本質

Fujii Kaze(藤井 風)の3rdアルバム『Prema』に収録された「You」は、“あなた”という存在をまっすぐに見つめる歌だ。アルバムのリリースから約1年。そんな「You」のMVが、9月17日に公開された。
『MUSIC AWARDS JAPAN 2026』で最優秀アルバム賞を受賞した『Prema』。アルバムタイトルは、サンスクリット語で「至高の愛」を意味する。「You」もまた、恋愛や友愛、家族愛、自己愛など、聴く人によってさまざまな愛の形を重ねられる楽曲だ。デビュー以来、Fujiiは一貫して“愛”を歌い続けてきた。一方で、「You」がほかの楽曲群と少し異なるのは、タイトルが示す通り、その愛が明確に“あなた”へと向けられていることだろう。“あなた”は大切な誰かであり、目の前で傷ついている人であり、彼の音楽を受け取ってきたファンとも捉えることができる。
メロウなトラックに乗せて、楽曲では〈Baby u don't have to sit and cry〉(もう座り込んで泣いたりしないで)、〈Baby now you're here with me〉(今はもう君のそばに僕がいるよ)と、痛みを抱える相手へそっと手を差し伸べるような言葉が紡がれている。音楽を通して寄り添いながらも、一方的に励ますのではなく〈I'll be patient tell me what you're feeling〉(焦らなくていいからあなたの気持ちを教えてよ)と語りかけるところに、彼らしい優しさが滲んでいるようにも思う。
だが、楽曲が伝えているのは、誰かに救ってもらうことではない。やがてFujiiは、必要なものはすべて自分の魂のなかにあると示し、〈You're perfectly divine〉(君は完璧なまでに神々しいよ)と歌う。自分のなかにある力や輝きを信じるというメッセージは、これまでもFujiiがさまざまな楽曲で届けてきたものだ。何かひとつの役割や能力だけで見れば、自分の代わりはいくらでもいるように思えることがある。それでも、この世界にまったく同じ人間はひとりとして存在しない。「You」は、誰かと比べることで自分の価値を証明するのではなく、私たちがただここに生きていること自体を肯定してくれる歌なのだ。
『Prema』のリリースから1年を経た今、Fujiiがこの楽曲を映像として届けたことも、ファンへ向けた深い愛情の意思表示のように感じられる。「Hachikō」、「I Need U Back」、「Casket Girl」、「It’s Alright」など、思えばこれまで公開されてきた『Prema』収録曲のMVは、壮大でゴージャスな世界観を持つ作品が多かった。一方、「You」のFujiiはパーカーに黒縁眼鏡という飾らない姿で登場する。特別な物語の主人公というよりも、私たちと同じ日常を生きるひとりの若者のようだ。
駅を思わせる場所で、ヘッドフォンをつけて歩いていくFujii。その傍らでは人々が言い争い、彼自身も誰かにぶつかられる。忙しなく行き交う人々や、ふとした瞬間に向けられる苛立ち。決して美しいことだけではない現実を表しているようにも思える。
そこからダンスシーンへと移ると、映像の空気も少しずつ変化していく。閉じた駅のような空間から、街中、青空の下へと視界が開けていくにつれて、踊りもだんだんとダイナミックになっていく。最後には、Fujiiは雨に打たれながらも晴れやかな笑顔を見せる。自分のなかにある輝きを見つけたことで、世界の見え方が変わったのかもしれない。映像の広がりとダンスの解放感が、「You」に込められた愛と自己肯定のメッセージを鮮やかに映し出している。
Fujiiは今夏、北海道、福井、広島を巡る『Pre: Prema Tour』を開催。10月31日からは、アジア、ヨーロッパ、北米へと広がる『Prema World Tour』が幕を開ける。さらに11月20日、21日には、東京ドームでピアノ弾き語りによる『藤井風 ピアノリサイタル』を行うことも発表された。華やかなワールドツアーとは異なり、自身の原点でもあるピアノと歌だけで展開される、2日間限りの特別なステージとなる。
ヘッドフォンや画面の向こうにいる“あなた”へ届けられた「You」。そこに込められた愛は、これからもライブという場所で一人ひとりのもとへ直接届けられていくのだ。どれほど大きな会場へ、世界へと活動の場を広げても、Fujiiが見つめているのは、きっと目の前にいるかけがえのないひとりなのだろう。

























