椎名林檎、aiko、あいみょん、乃紫、冨岡 愛......時代を射抜く女性シンガーたちの歌と言葉の魅力

今注目の女性SSW・冨岡 愛 二つの文化を背景に磨かれた独自の表現力

 そして、こうした系譜の先で、新たに注目を集めているのが冨岡 愛である。彼女の個性として挙げたいのが、帰国子女というバックグラウンドだ。4歳から中学卒業までをオーストラリアで過ごした冨岡は、日本語と英語、邦楽と洋楽という二つの文化を自然に吸収してきた。その影響は歌詞だけでなく、メロディや歌の発声にも色濃く表れている。英語特有のリズム感を感じさせる言葉の置き方、日本語の響きを大切にしながらも洋楽的なコードワークを取り入れたメロディが冨岡の武器のひとつといえるだろう。

 歌声の面において冨岡は、一言で言うと、感情を過剰に歌に盛らないタイプだ。圧倒的な声量で押し切るわけでも、高音を派手に響かせるわけでも、強烈なフェイクやビブラートで技巧を見せるわけでもない。それでも、一度耳にすると忘れられない。エアリーな質感を基調としたミックスボイスが特徴的で、息を多く含ませることで柔らかな包容力を宿しながら、母音にはしっかりと芯を残す。そのため、ささやくように歌っても言葉も埋もれず、メロディも崩れない。加えて、語尾で声を抜く際に生まれるほのかな掠れが、フックとなり“冨岡 愛らしい歌声”として聴き手の記憶に刻まれていく。

 また、言葉の扱い方にも個性が表れている。代表曲「恋する惑星『アナタ』」が象徴するように、子音を立たせる英語的なリズム感を持ちながら、日本語特有の母音の美しさを鳴らすことで、一つひとつのフレーズが滑らかに流れていきながら、言葉の輪郭はしっかりと残る。そういった巧みな言葉の扱い方に加え、軽やかに上下するメロディが、楽曲全体に心が浮き上がるような浮遊感を持たせ、その空気をエアリーな歌声が柔らかく包み込む。言葉、メロディ、歌声。その三つが高い次元で結びつくことで、冨岡だけの表現が成立しているのだ。

冨岡 愛 - 恋する惑星「アナタ」 (Music Video)

 そんな冨岡が、7月8日にリリースする新曲「ジレンマ」は、これまでの彼女の表現を成熟させた1曲だ。TVアニメ『メビウス・ダスト』のエンディングテーマとして書き下ろされた本作は、相反する感情を“ジレンマ”という言葉に重ねながら、それでも前へ進もうとする、人間の根底にある生きようとする意志を描いている。「恋する惑星『アナタ』」が恋の始まりを描いた作品だとすれば、「ジレンマ」は、その先にある現実と向き合った作品とも言える。恋愛のときめきだけではなく、人を大切に思うからこそ生まれる葛藤や後悔までを描くことで、作家としての視野も広がったのではないだろうか。

 また、歌唱にも変化が感じられる。「恋する惑星『アナタ』」では浮遊感を大切にしていた歌声が「ジレンマ」では言葉一つひとつにより確かな意志を宿し、息遣いと響きのコントロールだけで感情の機微を丁寧に描いている。そんな中で〈守りたいのにジレンマ〉というフレーズが静かな強さを持ち、葛藤に対する感情を叫ぶのではなく、歌声の質感そのもので葛藤を表現している点にボーカリストとしての成長を感じる。

冨岡 愛 - ジレンマ (Music Video)

 平成から令和へと受け継がれてきた女性シンガーソングライターは、その時代の空気を映しながら、それぞれ異なる方法で言葉、メロディ、歌声を磨き上げてきた。今回は、椎名林檎、aiko、あいみょん、乃紫、冨岡 愛を通して、それぞれが切り拓いてきた表現の個性と、その系譜を紹介した。今後も新たな才能がどのような表現で時代を映し出していくのか、引き続き注目していきたい。

冨岡 愛「ジレンマ」ジャケット写真
冨岡 愛「ジレンマ」

■リリース情報
7月8日(水)リリース
配信SG「ジレンマ」
https://tomiokaai.lnk.to/dilemma
TVアニメ「メビウス・ダスト」EDテーマ

■関連リンク
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