海外ヒットはアニソンだけではない? Spotify 責任者らが解説、J-POPのグローバル展開の実情

 JASRAC、CEIPAが共催する『JASRAC Creator Seminar』が、6月12日に都内で開催された。

『JASRAC Creator Seminar』

 『JASRAC Creator Seminar』は、日本音楽の現在地と世界への広がりをクリエイター視点で考えるセミナー。第1部では「世界から見た日本の音楽の現在地」に関する基調講演として、鬼頭武也氏(YouTube日本音楽パートナーシップ責任者)、芦澤紀子氏(Spotify Japan 音楽企画推進統括)、第2部ではヒロイズム氏(ソングライター、プロデューサー)、林ゆうき氏(劇伴、アニメ音楽)、ねじ式氏(ボカロP)が登壇し、「日本音楽の海外展開」に関するパネルディスカッションを行った。

第1部「グローバルプラットフォーマーからみた日本の音楽の可能性」

 まず第1部では「グローバルプラットフォーマーからみた日本の音楽の可能性」をテーマに、YouTube、Spotifyそれぞれから見た日本音楽の現在地について語られた。

 日本では2016年にサービスをローンチしたSpotifyでは現在“1億再生”というのが、国内楽曲がどれだけ海外も含めて聴かれているかというひとつの指標になっており、すでに260曲を突破している。Spotifyで1億再生を突破した楽曲のみを集めたプレイリスト「100 MILLION+」でも主な楽曲を楽しむことができると芦澤氏は話す。これは日本国内だけでは達成できない数字であり、ひいては海外で多く聴かれている楽曲が多く入っているプレイリストだという。

 海外における国内楽曲のストリーム数は、2024年と比べて2025年は20%増えているというデータもある。2025年に海外で最も再生された国内アーティストの楽曲はCreepy Nuts「オトノケ」、海外で最も再生された国内アーティストはAdoという結果になった。アニメ関連の楽曲でなければ海外では聴かれないという通説もあるが、ランキングを見ると楽曲も増えて、多様化が進んでいることが感じ取れると芦澤氏は言う。

 HALCALIは2003年リリースの楽曲「おつかれSUMMER」が2025年に突如起きたSNSバズを起点にしてSpotifyでの総再生数が8,100万回を超えるグローバルバイラルヒットとなっている。アーティスト活動が基本的にない中で、リリックビデオやリミックス楽曲、グッズ展開、アナログ版のリリースなど、非常にアクションが速く、そしてメンバー本人が不在でもできることをいくつも積み重ねていく中で、Spotifyのほか各種音楽ストリーミングサービス全体で1.5億回という数字を記録しており、海外シェアも当初は9割くらいを占め、それが逆輸入的に日本にフィードバックしてきたという珍しい事例だと芦澤氏は語る。なお、HALCALIは世界的バイラルヒットを受け、14年ぶりに活動再開。『SUMMER SONIC 2026』の「Spotify Stage」枠内「Gacha Pop Live」への出演も決定している。

 最後に、音楽クリエイターにとって特にグローバルな成功に向けてSpotifyやYouTubeをどのように活用していけばいいのかという問いかけに、芦澤氏は楽曲を配信するアーティスト向けの無料分析・管理ツール「Spotify for Artists」、さらに楽曲のクリエイターや制作の裏側、サンプリング元、カバー曲などの関連情報をインタラクティブに探索できる、Premiumユーザー向けの機能「SongDNA」、まだ日本ではローンチされていない楽曲の背景や制作秘話をカード形式で表示する新機能「About the Song」を紹介した。

第2部、「クリエイター視点で考える日本音楽の海外展開」

 第2部ではヒロイズム氏、林ゆうき氏、ねじ式氏が登場し、「クリエイター視点で考える日本音楽の海外展開」について話し合われた。アメリカ・ロサンゼルスを拠点とするヒットプロデューサーであるヒロイズム氏は、海外と日本の制作環境について「社会と理科ぐらい違うんです」と分かりやすく教科に例える。海外はアーティスト・クリエイティブファーストだが、日本はクライアントファーストで、何に向けて作るかが違うと話す。いわゆるタイアップ先を否定するわけではないが、楽曲をなぜ作りたいと思ったのか、かっこいいと思うパッションを忘れないでほしいとクリエイターも多く参加する場で呼びかける。

『JASRAC Creator Seminar』

 複数のクリエイターが共同で楽曲を制作するコライトの文化は海外では主流になっている。世界的なヒット曲を生み出すアプローチとして日本でも浸透しているが、それに比べてボカロPは特異な文化であり、複数で集まって楽曲を制作するということはまだ例として少ない。ネットクリエイターは一人で作り込んでいくのがオールラウンドな魅力でもあるが、若干閉じたものにもなりやすい部分があると言及した。

 アニメ『ハイキュー!!』シリーズ、アニメ『僕のヒーローアカデミア』シリーズをはじめとする多くの劇伴を手がける林氏。アニメは海外で見られることが多いため、JASRACの国際ネットワークを活用することで、著作権使用料の徴収・分配が自動化・一元化され、つまりは確実に収益を得ることが可能となる。そのことが若い世代のクリエイターにはまだまだ浸透しておらず、林氏のアシスタントも9割が知らずに、作品が出て初めて「JASRACに入った方がいいんですか?」と聞きにくるケースもあると明かす。JASRACが今回のような機会の場を設けていることに感謝を示しながら、たくさんのクリエイターに認知が広がるようにと林氏はアピールする。

 楽曲をYouTubeに投稿する際には、25〜30カ国の字幕を用意し、データ分析・リサーチをして戦略的にアプローチを練っているというねじ式氏は、“クリエイター兼レコード会社兼マネージメント会社”を一人で担当している状態だ。YouTubeスタジオを見ながら、視聴者の多いインドネシアでのリアルイベントを開催するなど、オフラインとオンラインでの両軸で感動を生み出すことを意識していることを述べた。

 ヒロイズム氏は日本人初のSony Music Publishing USと全世界契約を結んでいる。日本とアメリカでは権利関係の大きな違いがあり、日本ではレコード会社や原盤制作者と紐づいているが、アメリカでは出版を個人が選ぶスタイル。一人のA&Rが60人のクリエイターを抱えており、そこにはビヨンセのヒット曲を制作したソングライターも入っている。チームではあるが、結局はヒット曲を書かなければならない、自分自身が動かなければならないのがポイントだとヒロイズム氏は話しながら、契約の打ち合わせの際には現地の凄腕の弁護士がついていないと闘えないと明かした。

 最後に今後に向けて、ヒロイズム氏は海外アーティストで全世界に知られるヒット曲を作ること、自身がプロデュースした日本人アーティストをアメリカ・カリフォルニア州で開催されている音楽フェス『Coachella Valley Music & Arts Festival』のメインステージに連れていくことが夢だと語る。林氏は劇伴音楽を楽しんでくれる人が一人でも増えてほしいという願いのもと、若いクリエイターも含め、音楽出版や製作委員会が手を取り合えることが理想だと話した。ねじ式氏はYOASOBIのAyase、米津玄師(ハチ名義)といったボカロP出身のクリエイターが世界に羽ばたいていることに触れながら、国際音楽賞『MUSIC AWARDS JAPAN』においても「最優秀ボーカロイドカルチャー楽曲賞」が設立され、一つのジャンルとして認められており、さらなる海外進出に期待したいと述べた。また、2024年よりJASRACの理事に就任しているねじ式氏は、JASRACメンバーになることで自身の楽曲を守ってくれることに繋がると改めて訴えながら、「小さな一歩でもそれが世界に広がったり、自分の想像以上のところに行ったりするので、夢を見たらおかしいとは思わずに、自分の思ったことを実現していってほしい」と呼びかけた。

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