ILLIT「It’s Me」が持つ実験性と大衆性のバランス感覚 YUMEKIの振り付けも合わせてバイラルヒット

Viral Hits Focus

 話題のバイラルヒット曲を毎週収録するSpotifyによる日本向けエディトリアルプレイリスト「Viral Hits Japan」(※1)。同プレイリストより、本記事ではILLITの「It’s Me」をピックアップする。

 最新の「Viral Hits Japan」の中で存在感を放っているのが、ILLITの最新曲「It’s Me」だ。本作は、4月30日にリリースされた4thミニアルバム『MAMIHLAPINATAPAI』のタイトル曲であり、リリース以降、各種チャートやSNSで高い注目を集めている。なぜ本作がこれほどまでにリスナーの心を捉え、バイラルしているのか。その背景には、これまで以上に攻めた音楽的アプローチと緻密な視覚的演出が存在する。

ILLIT (아일릿) ‘It’s Me’ Official MV

 そもそもILLITといえば、デビュー曲「Magnetic」に代表される、儚げでドリーミーな世界観が印象的なグループだ。軽やかなビート感と耳なじみの良いポップサウンドを武器に、少女たちの感性を等身大で描いてきた。そんな彼女たちが「It’s Me」で打ち出したのは、これまでよりもダンスミュージック色を強めた、よりアグレッシブなサウンドアプローチである。プロデュースを手掛けたのはThe Wavys。ドラムンビートを彷彿とさせる地を這うようなドライブ感のある4つ打ちビートと、硬質なシンセサイザーサウンドが全編を貫いている。曲の長さは2分18秒とコンパクトでありながら、その密度は高い。ダークでレイヴライクな熱気を感じさせるイントロに始まり、中盤ではインド映画音楽を思わせるフレーズも登場するなど、多様な要素を取り込んだハイブリッドなポップスとして成立している。この変化は既存のファンに新鮮な印象を与えただけでなく、クラブミュージック的な質感を備えた楽曲としてファン以外からも注目を集めている。

 これに加え、「It’s Me」が広く拡散した理由の一つとして考えられるのが、その歌詞とフックの強さだ。最も象徴的なのが、楽曲の随所で登場する〈Who's your bias? I'm your bias!〉(あなたの推しは誰? 私があなたの推しでしょ!)というフレーズと、その直後に続く〈It's me〉という掛け声である。このコントラストが、一度聴くと耳に残る強い中毒性を生み出している。興味深いのは、このリリックが現代の推し活文化と高い親和性を持っている点だ。ファン同士の日常会話でも使われるワードをアーティスト自身が歌詞として取り込み、自ら肯定してみせる構造は印象的である。このフレーズはTikTokやInstagramなどのショート動画SNSにおいて、“推し”の魅力をまとめた動画のBGMとしても機能しやすい。〈It's me!〉のタイミングに合わせて推しのベストショットを配置した動画も数多く投稿され、楽曲そのものがファンたちの自己表現のツールとしても活用されている。

@illit_official

choreography @YUMEKI 유메키 🕺 #YUMEKI #Its_Me #IROHA #ILLIT #아일릿

♬ It's Me - ILLIT

 さらに、そのインパクトを視覚面から支えているのが、日本人のダンサー兼振付師・YUMEKIによるコレオグラフだ。ILLITらしい可憐さを残しながらも、テクノビートと呼応するシャープな身体表現を楽曲に与えた振り付けの中でも、特に印象的なのはサビ。首の角度や手首のスナップ、ステップの緩急がビートと同期しながらも、指先で自分を示すポーズは誰もが真似しやすいキャッチーな記号として機能している。複雑なダンスとしての完成度とSNSで切り取りやすいわかりやすさを両立させている点は、秀逸だ。メンバーたちも難易度の高い振り付けを自然体で踊りこなし、その表現力が楽曲の魅力をさらに引き上げている。

 「It’s Me」のヒットから見えてくるのは、所属レーベルであるBELIFT LABのプロデュース力の高さである。多くのグループがデビューから数年は、デビュー時に打ち出したコンセプトに近い雰囲気の楽曲でイメージを維持しようとするなか、彼女たちは4作目のミニアルバム、デビューから約2年という比較的早い段階で新たなサウンドに挑戦した。こうしたスピード感と変化を恐れない姿勢は、グループの成長を印象づける要素となっている。重要なのは、単に新しいジャンルへ挑戦したことだけではない。彼女らの従来のイメージとは距離のあるように見えるクラブサウンドと“推し活”文化を結びつけたリリックという良い違和感を感じさせる組み合わせや、YUMEKIの振り付けを通じて、視覚も含めたILLITらしいポップスへと落とし込んでいる点にある。実験性と大衆性のバランス感覚は、本作の大きな魅力と言えるだろう。

 デビュー以降に築いてきたイメージを土台としながら、新たな表現領域へ踏み出したILLIT。「It’s Me」は、SNS時代ならではの拡散性とポップミュージックとしての完成度を兼ね備えた作品であり、彼女たちの今後の音楽的進化にさらなる期待を抱かせる一曲となった。

※1:https://open.spotify.com/playlist/37i9dQZF1DWZZbpkxU5t9L?si=-aisRbB7R_Sr8cutligw5A

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