the bercedes menz、“爆音の武器”に込める世界と対峙する意思 優しいカオスで満たした自主企画『PRINTED HEAVEN』

心を開いた混沌。優しいカオス。
7月24日に代官山UNITでthe bercedes menzの自主企画『PRINTED HEAVEN』を観たあとにスマホのメモに書きつけていたのはそんな言葉たちだった。そういうことを感じるライブだったのだ。もうすでに“メルセデス・ベンツ”よりも“ベルセデス・メンツ”の方が言いやすくなっているくらいにはその名前には慣れ親しんでいたし、今年の5月に出たアルバム『weapons』も好きで聴いていたが、ライブを観るのは初めてだった。the bercedes menzの出番中、フロアにはサイリウムを振る人もいれば、拳を振り上げる人もいれば、ゆらゆらと体を揺らす人もいれば、棒立ちでステージを見つめている人もいた。普通のようで普通じゃない光景。混沌はときに優しいものだ。そこにいろんなものが存在することを許してくれるから。自分もひとつの混沌でありたいと、the bercedes menzのライブを観ながら思った。
ライブは対バン相手であるHave a Nice Day!(以下、ハバナイ)のパフォーマンスから始まった。『PRINTED HEAVEN』は東阪で開催されており、東京はハバナイ、先に開催された大阪公演はmoreruがゲストとして招かれた。ステージに登場するなり、ハバナイの浅見北斗(Vo)は何かの飲み物が入ったコップを掲げ、まずはthe bercedes menzの新作リリースを祝して乾杯。それから今年リリースされたアルバム『CLOUD NINE』と同じく「雨にも負けず」を1曲目に演奏がスタートし、そのロマンチックなビートと言葉でUNITのフロアは満たされていった。夜空に蛍光塗料をぶちまけるようなメロディ、踊れる獰猛なビート、それらは熱狂的だが、ときに言葉は深夜の独り言のように淡々と吐き出される。フロアがどんどん盛り上がっていく中、浅見は「身体とは孤独だ」ということを体現するようにステージの上で身体を動かし、そして頭の中を覗くような言葉を世界に触れさせていった。「ビューティフルライフ」「スティルライフ」と、“ライフ”と名のついた2曲で約1時間のライブを締め括った。



そしてthe bercedes menz。彼らは転換のサウンドチェックからダンプカーみたいな音を鳴らしていた。ステージに向かって上手から順番にワダカズナリ(Vo/Gt)、田中喉笛(Ba)、ヤマ(Dr)と、ほとんど横並びになるようにセッティングされた機材。過剰なくらいやたら高い位置に設置されたドラムのクラッシュシンバル、それにドラムだけ後ろ向きなのが異様すぎて目を引く。


ライブ本番がスタートすると、1曲目は「sad song」。激しくもメロディアスな演奏、さらにVJの映像も相まって、フロア全体が詩的な美しさに満たされる。そこから『weapons』の1曲目「knife」、さらに「the anomaly」「pile bunker」へと怒涛の勢いで楽曲は披露されていく。剥き出しの音と言葉が世界をぶち壊し、残骸から新たな美しさが芽生える。そんなことが一瞬一瞬に巻き起こっていく感覚。アルバム『weapons』はその名の通り武器の名前が冠された曲たちが並んでいた。「knife」も「pile bunker」もそう。武器とは、ある意味ではコミュニケーションのツールだ。痛みを伴ったコミュニケーション。僕には、the bercedes menzにとってメジャーデビュー作となったこのアルバムが、彼らが彼らの美しさを信じ切ったまま世界と対峙していくための決然とした意思表示のように思える。

重心の低いサウンドが体を震わせた「開口部」、ラップが聴けるファンキーでポップな「ice pick」、その刺々しいサウンドと共にthe bercedes menzが“歌”を大事にしていることを感じさせる「背中」、この日の深夜12時に配信リリースされた、凶器のようなリフとメロディアスなサビが映える「impact tracker」……鋭利に研ぎ澄まされた楽曲たちが立て続けに披露されていく。

メンバー3人が交代で担当したMCにもそれぞれのキャラクターが表れていた。ワダはフジロック(『FUJI ROCK FESTIVAL '26』)の初日よりも自分たちの自主企画を選んでくれたことを観客たちに感謝し、10年前から好きだったというハバナイと対バンできるなんて思わなかったと喜びを語った。楽曲の作詞作曲を手掛ける田中は「音楽に、ありがとうという気持ちです」と告げた。顔出しをしていないから後ろ向きでドラムに座っているらしいヤマは「あなたの心を乱れ打ち。the bercedes menz 『rifle』。お前ら全員地獄に落ちろ」と言って「rifle」の演奏に突入していった。そんな「rifle」、続けて披露されたノイズまみれのゴスペル「pistol」、さらに爆音を鳴らした「thunder love」という流れは痛快で、感動的で、本当に素晴らしかった。最初のアンコールには「幸福な子どもたち」が、ダブルアンコールでは「our name is last love zombies」が披露され、観客たちの合唱も起こった。さらに、自身最大規模となる恵比寿LIQUIDROOMでのワンマンライブを2027年1月に開催することも発表され、フロアからは歓喜の声が沸き起こる。


代官山UNITからの帰り、暗い夜道を歩きながらライブを観た後の余韻をじんわりと噛みしめていた。狂おしく破壊的な1音1音、その重なりがなぜ、あんなにも美しい光景を見せることができるのか。その音楽が映し出す幻想的な光景は、なぜこんなにも痛々しいほどに生々しい怒りや祈りを浮き彫りにするのか。the bercedes menzの音楽は、虚飾なく、この2026年に彼らが立つ場所から奏でられている。the bercedes menzが奏でる、世界と戦うための武器のような音楽。それを懐に忍ばせて街をゆく少年少女たちを、僕は断固として支持する。絶対に支持する。



























