BTSは今どこに立ち、どこへ向かおうとしているのか? 帰還した英雄たちが放つ世界への絶対宣言=『ARIRANG』

BTS、世界への絶対宣言=『ARIRANG』評

 2022年6月以降、BTSには兵役のためにグループ活動に空白期が生じた。これは、エルヴィス・プレスリーが絶頂期に徴兵されたことに喩えられるほど、世界最大級のポップアクトにとって異例の出来事だった。しかし、同時にそれはある種の必然でもあった。韓国という国家が課した義務は、彼らを一度“ただの人間”に引き戻した。スタジアムの歓声も、米Billboardのチャートも、何億におよぶストリーム数も、兵士の前では意味を持たない。喪失とはそういうことだ。あらゆる記号が剥がれ落ちた場所で、メンバーは初めて、自分が何者であるかを問われた。その果てに2026年3月20日にリリースされた『ARIRANG』は、ユニット曲やソロ曲を一切含まない、BTS初の全員一体型アルバムとなった。その編成の選択だけで、このアルバムが何を言おうとしているかは明らかだ。7人が、7人として、ここにいる。

BTS (P)&(C)BIGHIT MUSIC

RM (P)&(C)BIGHIT MUSIC
Jin (P)&(C)BIGHIT MUSIC
SUGA (P)&(C)BIGHIT MUSIC
j-hope (P)&(C)BIGHIT MUSIC
Jimin (P)&(C)BIGHIT MUSIC
V (P)&(C)BIGHIT MUSIC
Jung Kook (P)&(C)BIGHIT MUSIC
20260408-bts-01
20260408-bts-02
20260408-bts-03
20260408-bts-04
20260408-bts-05
20260408-bts-06
20260408-bts-07
previous arrow
next arrow
 
20260408-bts-01
20260408-bts-02
20260408-bts-03
20260408-bts-04
20260408-bts-05
20260408-bts-06
20260408-bts-07
previous arrow
next arrow

 アルバムは、600年の歴史を持つ民謡「アリラン」――韓国民の切望、哀愁、そしてレジリエンスの歌――に着想を得ており、その精神は全14曲を通じて一本の縦糸として貫かれている。幕開けの「Body to Body」では、洗練されたR&Bと重厚なラップが織りなす現代的なサウンドのなかに、2分25秒を過ぎたところで伝統的なアリランのメロディと韓国の打楽器が切り込んでくる。「どこからきたのか」と「今の自分たちは何者か」を同時に提示する瞬間は、単なる演出ではない。現代と過去が激突し、そして融合するその数秒間に、BTSの本質が凝縮されている。グローバルな音楽産業の文法で書かれたトラックに、突如として数百年の記憶が割り込んでくる。そんな衝突の美しさこそが、アルバム全体の縮図だ。

 続く前半5曲は、その問いをさまざまな角度から掘り下げていく。「Hooligan」では弦楽器をチョップしたアレンジに剣戟音が重なり、グループの反骨精神が剥き出しになる。「Aliens」においては、韓国語と英語を縦横に行き来しながら、「自分たちは生まれながらに違う7人だ」と言い切る。韓国古来のリズムへの参照と、世界の舞台で積み上げてきた自信が一体となったこの曲は、BTSがいかにして韓国人であることをアイデンティティの根幹に据えてきたかを、くっきりと刻みつけている。

 「FYA」はジャージークラブのビートを採用した前半屈指のクラブバンガーで、アルバムのなかで最も直接的に身体へと訴えかける一曲だ。「2.0」ではSUGAが口火を切り、十数年を経ても衰えぬ闘志とともにグループの終わりなき前進を高らかに告げる。この2曲の並びこそ、軽やかさと切迫感を同時に体現するBTSの真骨頂だろう。

 そして、アルバムの正中央に置かれた「No. 29」が、構造上の鍵を握る。聖徳大王神鐘(韓国国宝第29号)の鐘の音を、1分38秒にわたって収録したフィールドレコーディングだ。それが、前半のエネルギッシュな流れと後半のメロディックな世界を繋ぐ、深呼吸のような転換点として機能する。音楽ですらない、この沈黙に近い一曲をアルバムの中心に選んだことが、商業的圧力に屈しない矜持の表れだ。鐘の余韻が消えていくなかで、聴き手は否応なく自分が今どこに立っているかを問われる。そしてその余白に、「SWIM」がそっと入り込んでくる。水を人生の比喩に用いたこの曲は、波に飲まれるのではなく、自分のリズムで泳ぎ続けることを静かに説く。兵役による長い分断を経て再び集まった7人が、それでも前を向いて泳ごうとしている。その一点に、すべてが宿っている。「ただ飛び込みたい」という言葉の切実さが、聴く者の胸をじわりと、しかし確実に揺さぶる。

BTS (방탄소년단) '2.0' Official MV
BTS (방탄소년단) ‘SWIM’ Official MV

 後半に入ると、アルバムはより内省的な、そして時に痛みを伴う色合いを帯びていく。繰り返す日常の檻から抜け出せない感覚を歌う「Merry Go Round」、アイドルであることとアーティストであることの相克を〈Show me hate, show me love, make me bulletproof〉の一行に結晶化した「NORMAL」、自由への渇望と束縛への抵抗を叩きつける「Like Animals」。そしてj-hopeが「アジアのなかでも特別な存在、ヒーロー的な存在、でも所詮7人の人間だ」と放つ「they don't know 'bout us」が、この後半パートの頂点をなす。世界中の無数の人間が「BTS」を記号に還元して消費する一方で、RM、Jin、SUGA、j-hope、Jimin、V、Jung Kookという7人、一人ひとりの内側を知ろうとする者は、どれほどいるだろうか。その問いは優しくない。だが、彼らはそれを怒りでも諦念でもなく、深い哀切として歌う。その抑制こそが、この一連の楽曲に比類ない品格を与えている。

 夢と現実の境界が溶けていくような「One More Night」は、アルバムが外へと開かれていく起点となる。「Please」ではその温度がさらに増し、どれほどの距離も厭わない献身が条件なき誓いとして歌われる。そして、アルバムは最終曲「Into the Sun」へと向かう。〈I'll follow you into the sun〉――このフレーズは長い旅を経てようやくたどり着いた場所からの、BTSとARMY(ファンの呼称)の晴れやかな出発のマニフェストだ。

 リリース初日1億1000万ストリームのK-POP史上最高記録、初週416万枚を超えるセールスは、これが単なるカムバックではないことを証明している。しかし数字はいつも、本当に重要なことを語らない。肝心なのは、『ARIRANG』がどういう覚悟のもとに作られたかだ。強制的な空白の間、7人はそれぞれソロ作品を発表し、個としての表現を深めた。その日々のなかで、彼らは初めて“BTSのメンバー”ではなく“いち個人”で世界と向き合った。その経験を携えて再び集結したグループが最先端の制作環境のなかでまず手を伸ばした先は、韓国の民謡だった。それ自体が、何よりも雄弁な答えだ。遠く離れることで、自分がどこからきたかが輪郭をもって見えた。孤独は、自己を研ぎ澄ませる。その感覚が、全14曲の隅々にまで滲んでいる。

BTS (P)&(C)BIGHIT MUSIC

 グローバル化した時代にあってもBTSが韓国人であることを誇りにし、数百年来の集団的伝統のなかに自らを位置づけるこのアルバムは、“K-POPグループ”の枠組みをとうに超えた彼らが、根を掘り下げることで新たな次元へと踏み出した宣言文だ。これは懐古ではない。「アリラン」とは、別離と帰還の歌だ。BTSはこの歌を借りることで、自分たちの歩みを600年の時間軸の上に重ねた。途方もないスケールの大きさに、聴く者はふと息を呑む。2026年4月から2027年3月にかけてのワールドツアーが示すように、次の章はすでに世界規模で動き始めている。その先に何があるかは、まだ誰にもわからない。ただひとつ確かなのは、BTSが『ARIRANG』と名付けた作品を手土産に戻ってきた時、彼らはかつてよりもずっと深いところに立っていたということだ。

BTS (P)&(C)BIGHIT MUSIC

 そのアルバムの制作過程を追ったドキュメンタリー『BTS: THE RETURN』(Netflix)は、『ARIRANG』の裏面を照らす作品だ。華々しいカムバックの物語ではない。約4年間の不在ののち、自分たちは何者なのか――そんな答えの出ない問いかけに真摯に向き合った記録である。栄光の再確認ではなく、不確かさの直視。その眼差しだけが、このドキュメンタリーに固有の強度を与えている。

 2022年に始まった兵役期間、BTSは7人のグループとしての活動を実質的に凍結した。その間に世界の音楽シーンは動き続け、ファンの嗜好も変化した。全員が除隊を終えた2025年夏、彼らはロサンゼルスに集まり、アルバムの制作に臨む。この再始動の2カ月間を監督のバオ・グエンが記録したのが本作だ。

ドキュメンタリー『BTS: THE RETURN』予告編 - Netflix

 映像がとらえた現在地は、決して平坦ではない。制作現場では、BTSと事務所のあいだに鋭い緊張が走る。楽曲にもっと英語を入れて海外市場へ訴求すべきだとする経営側の判断に、SUGAは「もう十分英語が入っている」と抵抗し、RMは真正性が失われることへの懸念を口にする。英語が母語でない彼らに課されるその要求は、音楽的アイデンティティと商業的論理の摩擦を、生々しく象徴している。資本と表現の衝突は、ポップミュージックが常に抱えてきた問題だ。しかしBTSの場合、その対立は言語という最も根源的な場所で起きている。バオ・グエンはそうした場面を美化することなく収め、答えを視聴者に委ねた。完成したアルバムのタイトルが『ARIRANG』だった事実が、そのせめぎ合いの末に彼らが何を選んだかを、端的に示している。

BTS (P)&(C)BIGHIT MUSIC

 しかし、本作の核心は、そのような葛藤を超えたところにある。スタジオへ向かう車内で、メンバーたちは慎重に言葉を選びながら心境を語る。“BTS”であることの意味を見つめ直し、ゼロから再構築しようとする姿は、単なるカムバックの記録を超えて、アーティストの実存を問う証言となっている。過去の成功という重力と、変わってしまった時間の狭間で、彼らは正直であろうとしている。その誠実さは、時に痛ましいほどだ。だが、だからこそ、この作品は胸に刺さる。その力が、ドキュメンタリーを“復活の物語”ではなく“模索し続ける者たちの記録”へと押し上げる。

BTS (P)&(C)BIGHIT MUSIC

 2026年のBTSは、“帰還した英雄”であると同時に、戻った先の地図を自ら描き直している存在だ。『ARIRANG』がその最初の一行だとすれば、『BTS: THE RETURN』はそれが書かれた夜の記録である。ふたつの作品は互いを照らし合い、BTSが今どこに立ち、どこへ向かおうとしているかを、これまでになく鮮明に浮かび上がらせている。

■リリース情報
The 5th Album『ARIRANG』
発売中

配信URL:https://bts.lnk.to/arirang_jpWE
販売URL:https://bts.lnk.to/5thal_jpWE

・『ARIRANG』
全2形態(Rooted in Korea Ver./Rooted in Music Ver.)
3,410円(税込)

<収録内容(Rooted in Korea Ver.)>
*OUTBOX(1種):W167.5×H200×T25(mm)
*BADGE(1種): W65×H25(mm)
*ENVELOPE(1種):W160×H195(mm)
*CD-R ENVELOPE(1種):W125×H125(mm)
*CD-R(1種):W120×H120(mm)
*PHOTO CARD SET(7種/1セット):W55×H85(mm)
*PHOTO CARD HOLDER(1種):W65×H90(mm)
*POSTER(1種):W760×H150(mm)
*PHOTO BOOK(1種):W160×H195(mm)/84p

<収録内容(Rooted in Music Ver.)>
*OUTBOX(1種):W270×H153×T25(mm)
*PHOTO BOOK(1種):W240×H135(mm)/82p
*CD-R ENVELOPE(1種):W125×H125(mm)
*CD-R(1種):W120×H120
*LYRIC PAPER ENVELOPE(1種):W125×H125(mm)
*LYRIC PAPER(1種):W460×H230(mm)
*FILM PHOTO(7種/1セット):W65×H150(mm)
*PHOTO CARD SET(7種/1セット):W55×H85(mm)
*PHOTO CARD HOLDER(1種):W65×H90(mm)

・『ARIRANG (Living Legend Ver.)』
全1形態
4,180円(税込)

<収録内容>
*OUTBOX(1種):W205×H287×T25(mm)
*DUST JACKET(1種):W840×H595(mm)
*POSTER BOOK(1種):W390×H270(mm)/54p
*BOOK BAND(1種):W500×H12(mm)
*ARCHIVE TAG(7種/1セット):W85×H185(mm)
*PHOTO CARD SET(7種/1セット):W55×H85(mm)
*ENVELOPE(1種):W240×H180(mm)
*STICKER PACK(2種/1セット):W230×H175(mm)
*LYRIC BOOKLET(1種):W120×H120(mm)/32p
*CD-R ENVELOPE(1種):W239×H345(mm)
*CD-R(1種):W120×H120(mm)

・『ARIRANG (Standard Vinyl)』
全8形態(Group Red Vinyl/RM Silver Vinyl/Jin Pink Vinyl/SUGA Clear Vinyl/j-hope Cream Vinyl/Jimin Burgundy Vinyl/V Velvet Red Vinyl/Jung Kook Orchid Vinyl)
5,225円(税込)

<収録内容>
*OUTER SLEEVE(1種):W313×H313×T4(mm)
*INNER SLEEVE(1種):W304×H306(mm)
*VINYL(1種):W300×H300(mm)
*POSTER(1種):W600×H300(mm)
*LYRIC PAPER(1種):W300×H300(mm)
※各バージョンはバージョンメンバーに該当する構成品で構成されております。

・『ARIRANG (Modern Korea Vinyl)』
1形態
7,480円(税込)

<収録内容>
*OUTER SLEEVE(1種):W313×H313×T4(mm)
*INNER SLEEVE(1種):W304×H306(mm)
*VINYL(1種):W300×H300(mm)
*PHOTO BOOK(1種):W300×H300(mm)/36p
*POSTER(1種):W600×H300(mm)

・『ARIRANG (Deluxe Vinyl)』
全2形態(B&W Ver./Color Ver.)
価格:8,800円(税込)

<収録内容(B&W Ver.)>
*GATEFOLD OUTER SLEEVE(1種):W312×H314×T8(mm)
*INNER SLEEVE(1種):W304×H306(mm)
*VINYL(1種):W300×H300(mm)
*PHOTO BOOK(1種):W300×H300(mm)/20p
*TURNTABLE SLIPMAT(1種):W300×H300(mm)
*LYRIC PAPER(1種):W300×H300(mm)
*POSTER(1種):W600×H300(mm)
*POSTCARD(1種):W130×H300(mm)/8p
*PHOTO CARD SET(7種/1セット):W55×H85(mm)
*PHOTO CARD HOLDER(1種):W65×H90(mm)

<収録内容(Color Ver.)>
*GATEFOLD OUTER SLEEVE(1種):W312×H314×T8(mm)
*INNER SLEEVE(1種):W305×H305(mm)
*VINYL(1種):W300×H300(mm)
*PHOTO BOOK(1種):W300×H300(mm)/20p
*TURNTABLE SLIPMAT(1種):W300×H300(mm)
*LYRIC PAPER(1種):W300×H300(mm)
*POSTER(1種):W600×H300(mm)
*POSTCARD(1種):W130×H300(mm)/8p
*PHOTO CARD SET(7種/1セット):W55×H85(mm)
*PHOTO CARD HOLDER(1種):W65×H90(mm)

BTS 日本オフィシャルサイト:https://bts-official.jp/
グローバル X:https://x.com/bts_bighit
日本 X:https://x.com/BTS_jp_official
Instagram:https://www.instagram.com/bts.bighitofficial/
YouTube:https://www.youtube.com/@BTS
TikTok:https://www.tiktok.com/@bts_official_bighit
Facebook:https://www.facebook.com/bangtan.official

BTS「答えは自分たちのなかにあった」 規格外のカムバック――新章“BTS 2.0”幕開け、ARMYが照らす未来

BTSが3月21日20時より韓国・光化門広場にてカムバックライブ『BTS THE COMEBACK LIVE | ARIRANG…

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる