桑田佳祐、70歳の節目も新しい音楽への燃料に ソロ/バンドで止まらないパワフルな歩み

 2026年2月26日、桑田佳祐が70歳、すなわち古希の誕生日を迎えた。この一年、彼が歩んできた軌跡は、長年圧倒してきた変わらぬ才能と新人アーティストのような瑞々しい探究心が同居した、極めて多層的なものであった。“70歳”という数字が元来持つ静かな余生などというような一般的なイメージに、桑田佳祐は一切当てはまらないのだ。

 振り返れば、2025年のサザンオールスターズとしての活動は、日本の音楽界における象徴的な出来事だった。3月にリリースされた10年ぶりのオリジナルアルバム『THANK YOU SO MUCH』は、激動する現代社会への眼差しと、音楽への無垢な信頼が刻まれていた。最新のダンスビートから、昭和歌謡へのリスペクト、さらに聴く者の心に染み入るバラードまで、ジャンルを大胆に横断するその手腕は、“サザンオールスターズ”という一つのジャンルが今新たな形で更新されていることを証明しているようだった。

 このアルバムを携えて開催された全国ツアー『サザンオールスターズ LIVE TOUR 2025「THANK YOU SO MUCH!!」』は、まさに壮大な旅路であった。能登半島地震および豪雨の被災地である石川県をツアー最初の地に選び、あなぶきアリーナ香川のこけら落とし公演などを行いながら、ドーム会場まで、日本各地をきめ細やかに巡ったこのツアー。サザンオールスターズは、長年自分たちの音楽を支え続けてくれた全国各地のファン一人ひとりのもとへ、自ら足を運び、東西南北、それぞれの土地の空気を吸い、その場所でしか生まれない熱狂を分かち合ったのだ。

サザンオールスターズ 『Documentary of THANK YOU SO MUCH!! -“変態”し続けるロックバンド-』[Teaser]

 このツアーの裏側を克明に記録したドキュメンタリームービー『Documentary of THANK YOU SO MUCH!! -“変態”し続けるロックバンド-』(U-NEXT)には、サザンオールスターズというバンドの、そしてメンバーそれぞれが一人の音楽家として抱える凄まじい執念が刻まれている。まさにタイトルの通り、過去の成功に安住せず、常に形を変え、進化(=変態)し続けようとする姿こそ、彼らの現在地なのだろう映し出されていた。印象的だったのは、桑田が自身の歌唱や演奏だけでなく、ステージを彩る照明の角度、巨大モニターに映し出される映像のカット割り、そしてアリーナからドームまで、会場の隅々まで楽曲の世界観を届けるための音響設計に至るまで、驚くほど緻密に指示を出していた姿だった。ライブにおける照明や映像は、演出家や専門スタッフに委ねられる部分も大きいだろう。しかし桑田は、その一つひとつが楽曲のメッセージとどう共鳴するかを、自らの感覚で精査していく。それは、彼が単なる“歌い手”ではなく、ライブという総合芸術を司る“総監督”のような役割も果たしているからこそ。客席から見える完璧に設計されたエンターテインメントの裏側には、妥協を一切許さない、職人目線でのこだわりが積み重なっているのだ。もちろん、このハードな全国行脚の最中には、身体的な負荷や喉のコンディションに苦慮する場面も映し出された。しかし、同作が克明に示したのは、弱音を吐く姿ではなく、プロフェッショナルとしていかにその状況を乗り越え、最高のパフォーマンスを構築するかという“プロセス”とそこに宿る5人の“覚悟”。その姿には、キャリア50年を目前にした先駆者の矜持が宿っていた。

 ソロとしては、同年秋に日本武道館で『九段下フォーク・フェスティバル'25』を開催した。自身のラジオ番組『桑田佳祐のやさしい夜遊び』(TOKYO FM)の放送30周年を記念したこの夜は、桑田自身がフォークソング=大衆音楽を掘り下げるのと同時に、日本の音楽シーンの中心としての影響力が遺憾なく発揮された伝説の一夜となった。ステージに現れたゲスト陣は、桑田との深い絆とリスペクトで結ばれた面々。桑田を慕っていることでも知られるあいみょんをはじめ、Mr.Childrenの桜井和寿とは、『THE 夢人島 Fes. 2006』以来実に19年ぶりの共演が実現。さらに、前年の『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024 in HITACHINAKA』以来の共演となったTHE YELLOW MONKEYの吉井和哉や、家族ぐるみの親交で知られる竹内まりや、そして公私ともに相棒である原 由子の登場は、会場を温かな幸福感で包み込んだ。これらの豪華な顔ぶれが集ったのは、桑田がレジェンドではあるからだけでなく、現在進行形で音楽シーンを牽引し、仲間たちに愛される存在であるからにほかならない。

 また、故郷・茅ヶ崎での公開ラジオ収録イベントの開催や、「ユニクロ」のCM出演などを通じて、桑田は常に日常の中の特別であり続けた。カリスマのオーラを放ちながらも、ふとした瞬間に隣にいてくれるような親近感を感じさせる佇まい。このバランスこそが、桑田佳祐という表現者が長きにわたり老若男女から愛され続ける最大の理由だろう。

 70歳という年齢は、多くの人にとって一つの区切りかもしれない。しかし、桑田は、この古希という節目さえも、新しい表現のための燃料に変えてしまうに違いない。バンドとしてもソロとしても、その歩みが止まることはないだろう。私たちはただ、その圧倒的なバイタリティと、底なしの音楽愛に敬意を表し、次の一音を待ち続けたい。新たなスタートラインに、桑田佳祐は立つのだ。

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