歌声分析 Vol.9:小田さくら 揺るがぬ声の密度と重心を担う表現力ーーモーニング娘。史に刻まれる“支柱”の進化

歌声分析

 アーティストの魅力を語るうえで、楽曲だけでなく“歌声”そのものに宿る個性にフォーカスする連載「歌声分析」。声をひとつの“楽器”として捉え、音楽表現にどのような輪郭を与えているのかを掘り下げていく本連載では、技術的な視点からさまざまなアーティストの歌声を紐解いていく。

 連載第9回目となる今回は、モーニング娘。'26の小田さくらを取り上げたい。

編成の変化にも揺るがない、“密度”が生むグループの強固な基準線

 2月13日にハロー!プロジェクトの全楽曲がサブスク解禁され、あらためてその歩みが横断的に聴かれている。時間を超えて再生された時、そこに浮かび上がるのは楽曲そのものだけではない。歴代のセンターや“エース”と呼ばれたメンバーの歌声の違い、そして変遷だ。

 デビュー当時から高い歌唱力を備え、その変遷がもっとも鮮明にたどることのできる存在がモーニング娘。'26の小田さくらだ。

 彼女の魅力は、“声の密度”にあると筆者は考える。ブレスを含ませても息が漏れず、ニュアンスで母音を抜いても音が痩せず、ロングトーンも揺れることはない。音を太くするのではなく、その内部に空洞を作らない。そのため、フレーズの運び方やアプローチが変わっても、声の厚みと輪郭は一定に保たれる。小田の声は楽曲の上でブレにくい“基準線”として機能し、編成が変わっても音像の重心が安定するのだ。

 『Help me!!』(2013年)は小田にとってグループ加入後最初の参加シングルであり、小田のデビュー作でもある。当時のグループには、甘い声を高精度で響かせる田中れいな、広いレンジとダンススキルで中心に立っていた鞘師里保という強靭な軸があった。その中で小田がサビを任されたという事実は、彼女の実力を証明する象徴的な出来事である。高音でも細くならず、音程が揺れることはない。ロングトーンも均一に伸ばし、音符を正確に置いて伸ばす。表情の振れ幅はまだ大きくはなかったが、歌の骨格を崩さない安定感がすでに備わっていた。

モーニング娘。 『Help me!!』 (MV)

 続くシングル『ブレインストーミング/君さえ居れば何も要らない』(2013年)の「ブレインストーミング」では〈見得を切れ〉というフレーズを担当し、中低音域を確実に鳴らした。ここで注目したいのは、子音と母音の音圧が一定であること。小田の歌には、デビュー直後から“整える力”が機能していたことがわかる。

モーニング娘。 『ブレインストーミング』(Morning Musume。[Brainstorming]) (MV)

 時を経て、ジャジーな趣もあるダンサブルな「セクシーキャットの演説」(2017年)では、その密度が表現へと転じた。〈セクシーキャットになれたら/夜中もふざけてじゃれあったりしたい〉という部分では、母音にわずかにしゃくるようなニュアンスを加え、キュートさとリズム感を両立させている。台詞のような〈本気で挑めば勝てるのよ〉も、子音に重心を置き、中低音で平坦な旋律をクリアに立ち上がらせている。音程の安定を保ちながら質感を変えることで、楽曲に陰影を与えていることがわかるだろう。密度があるからこそ、声色の変化が単なる装飾ではなく、楽曲を象徴する“表情”になるのだ。

モーニング娘。'16『セクシーキャットの演説』(Morning Musume。'16[Sexy Cat’s Speech])(Promotion Edit)

 2020年にYouTubeチャンネル「OMAKE CHANNEL」で公開されたソロアカペラの「Be Alive」(2012年)は、小田がモーニング娘。のオーディションの際に歌唱した、本人にとっても思い入れの深い曲だ(※1)。発音は柔らかいが、ブレスが先行せず、言葉の輪郭がきれいに立ち上がっている。そして音程の芯がぶれないため、メロディもまっすぐ立つ。声質が、歌そのものの強度になっているのだ。

モーニング娘。'20小田さくら《自撮りアカペラ》声・Be Alive

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