2025年のバイラルチャートは時代の感情の共感を示す場に　ファンダムの意思表示が可視化された1年を総括

Viral Chart Focus

　2025年のSpotifyバイラルチャート『Daily Viral Songs (Japan)』を振り返ると、そこには明確なトレンドの変化が見て取れるだろう。かつてバイラルチャートは、ショート動画SNS発のダンスチャレンジや、まだ無名の新人アーティストが一気に注目を集める発掘の場という側面が強かった。もちろん、その役割は今も失われていない。しかし2025年は、それだけでは語れない複数の機能を同時に内包する場へと変化したように感じる。

　この1年のバイラルチャートは、ファンダムの結束や意思表示を可視化する場であり、同時に時代の感情を象徴する楽曲が共有される共感を視覚で表す場、さらには喪失を悼む感情が再生行為として表出するレクイエムの場でもあった。異なる文脈を持つ楽曲や感情が同時並行で交差する、極めて多層的なランキングとして存在したことも多かった。本稿では、2025年のバイラルチャートを彩った楽曲群を手がかりに、この1年の音楽シーンとリスナーの動きを読み解いていきたい。

　まず、2025年のチャートを語るうえで欠かせないのが、ボーイズグループシーンの興盛だ。timeleszの「Rock this Party」、INIの「DOMINANCE」「Present」、Number_iの「GOD_i」「Numbers Ur Zone」、M!LKの「イイじゃん」「好きすぎて滅！」といった多彩な楽曲がチャートを賑わせた1年だったと思う。これらの楽曲はいずれも、リリース直後の瞬間的な盛り上がりにとどまらず、ファンダムの継続的な支持を背景に、長期間チャートに定着している。たとえば、M!LKの「イイじゃん」と「好きすぎて滅！」のように、SNSでの拡散を見据えているようなキャッチーなタイトルや歌詞、メロディの覚えやすさとパフォーマンスの説得力が両立した楽曲は、短期的なバズに終わらず、持続性のあるバイラルヒットを生み出した。こうした動きは、“推し活”文化が単なる消費行動にとどまらず、バイラルチャートというファンダムの結束や意思表示が可視化される場を通じて、アーティストとファンがともに時代やシーンを形作る関係へと変化していることを示している。

　なかでも独自の展開を見せたのが、JO1である。メンバーそれぞれの個性を色濃く反映したソロ曲がリリースされ、立て続けにチャートインを果たしたのだ。グループの楽曲「無限大(INFINITY) 2025」もチャート上位を記録するなど、メンバー個人の魅力が可視化され、それが再びグループの物語を強化するという循環構造は、ファンダムとともに物語を編み上げる現代的なボーイズグループ像を象徴していると思う。

　一方で、女性アーティストやポップシーンに目を向けると、2025年は“KAWAII”という概念がより攻撃的かつ多義的に更新された年でもあった。CANDY TUNEの「倍倍FIGHT!」やAiScReamの「愛♡スクリ～ム！」が放つエネルギーは、従来の清純派アイドル像とは異なり、自己肯定感と主体性を前面に押し出したものだ。ここでの“かわいさ”とは、守られるものとしての可憐さではなく、自らを鼓舞し、戦うための武器として提示されている。また、PiKiの「Kawaii Kaiwai」が象徴するように、特定の界隈やカルチャーを自虐やアイロニーを交えて描写する楽曲がバイラルした点も特徴的だった。SNSという閉鎖性と拡散性を併せ持つ空間におけるリアルな感情を切り取ったこれらの楽曲は、ニッチな共感が連鎖し、マスへと拡張していく共感の場としてのバイラルチャートの在り方を示していた。