「自分たちはあいだの世代」――キタニタツヤのサポートギター yeti let you notice 秋好佑紀が語る“オルタナ”への意識

秋好佑紀が語る“オルタナ”への意識

yeti let you notice 10周年――追求する自身のオリジナリティ

秋好佑紀

――オルタナが息を吹き返したなかで、yetiが現メンバーになってから10周年を迎えたというのは、やはり続けてきたからこそだし、絶妙なタイミングだなと。

秋好:Oaiko(現在yetiが所属しているレーベル)の存在はすごく大きいですね。僕の世代では自主レーベルでやっている人はほとんどいなかったですし、しかもOaikoは当時の残響とも違って、ジャンル感とか音の印象よりも、マチダくん(シンマチダ/Oaikoの主宰者)が「一緒に面白いことができそう」と思うバンドを選んでリリースしてる感じがする。でも、どこかに一本の軸はあって、そこが面白い。たぶんyetiが属性的にはいちばんわかりやすく“オルタナ”な感じだと思うんですよ。colormalがいたり、しろつめ備忘録がいたり、オルタナの要素もあるけど、それぞれのバンドの色がはっきりしていて、「Oaikoからリリースされてそう」みたいな雰囲気もちゃんとある。これから10周年っていうタイミングでOaikoからアルバムをリリースできたおかげで、下の世代の方がすごく聴いてくれている印象があるので、ありがたいですね。

――どういう経緯でOaikoからリリースすることになったんですか?

秋好:もともとマチダくんがOaikoのライブイベントを定期的にやっていて、そこにyetiを呼んでくれたんです。まだひとひらとその感激と記録とhardnutsしかいないときだったんですけど、自分の周りにこんな採算度外視で、面白いだけで動いてる人いないと思って(笑)。で、マチダくんと焼肉に行って、「実はアルバムを作ろうとしているんですけど、Oaikoから出してもらえませんか」って直談判をして。「Oaikoから出したら面白いことができそう」っていう、ポジティブな気持ちでお願いしました。

――それによって、実際にこれまで以上に下の世代にも届いたと。

秋好:「37秒で」(2025年)は“弾いてみた”ですごく弾いてもらえていて、それは嬉しいなって。ギタリストとしては、自分が作ったフレーズを弾いてもらえるのは光栄なことなので。Oaikoからのリリースじゃなかったら、こうなっていたかはわからない。

yeti let you notice - 37秒で / 37sec (Official Music Video)

――the cabsも“弾いてみた”が人気で、下の世代にも広がりましたもんね。

秋好:自分もthe cabsの“弾いてみた”、やってました(笑)。なので、自分のフレーズを弾いてもらえるのは嬉しいです。

――「37秒で」というタイトルは、ART-SCHOOLの「あと10秒で」(2005年)のオマージュ?

秋好:いや、うちのバンドでART-SCHOOLが好きなのはたぶん僕だけなんですよ。ボーカル(大雪男)は通ってないです。曲のタイトルを決めるときに、1サビまでが37秒だし、次のサビに行くまでが1分37秒だったから、そのまま「37秒で」にしただけで、「あと10秒で」は意識していないって言ってました。リスナーの方がSNSで同じことに言及されていたんですけど、そこで「あと10秒で」を知ったみたいで。だから意識はしていないですね。

――「37秒で」はいかにもマスロックという感じで、“キャブ卒”していない曲というか、再入学したような曲ですよね(笑)。

秋好:「アルバムの曲どうしよう?」みたいな話をしていたときに、「ひさしぶりにマスロックやってみる?」っていう話になったんです。Oaikoから初めてリリースするし、「そういうのが一曲あっても面白いかもね」みたいなところから、「じゃあ俺、キラーフレーズあるんで持ってきます」って流れで作曲が始まりました。前だったらああいう曲を作ると結構ギスギスして、「これじゃあほかのバンドと一緒じゃん」みたいな感じになっていたと思うんですけど、「37秒で」はみんなのパッションで、「これめっちゃかっこいいね」というふうになりましたね。最初はもっと長かったんですけど、「もっと曲のタイムを短くしたい」とか「でもここは残すべきだし、変なこともやろう」みたいな、いろいろ話をして、あの曲にはバンドを始めたときの初期衝動みたいなものがめっちゃ詰まっています。特に意識はしていなかったですけど、周年のタイミングであの曲を作れてよかったですね。

――今回のアルバムはかなりアルペジオが軸になっていますよね。時流が変わって、「今だったらできるな」っていうマインドの変化があったわけですか?

秋好:ちょうど自分の強みというか、いちギタリストとして、何か色があることを残したいと思っていた時期で。yetiのこれまでを振り返ったときに、軸としてのアルペジオがあったので、『utsukushiimono』(2024年)あたりから、自分たちが持ってるアルペジオの良さに、海外インディーロックの要素を掛け合わせることをやっていて、それをアルバムでも引き続きやろうと。なので、シーンの盛り上がりに合わせてというよりは、今の自分たちが「面白い」と思ってやったことが、たまたま今の状況にハマった感じですかね。盛り上がってるところにはあんまり行きたくない、っていう気持ちはずっとあります(笑)。

――あはは。でもわかります(笑)。

秋好:最近アルペジオの絡みを使ってるバンドは多いと思うんですけど、歌えるアルペジオのリフとか、一本だけで成り立ってるバンドはあんまりいないかも、って。それと海外のインディーの要素を掛け合わせて、ちょうどやりたいことができたなって。The Japanese Houseには結構影響を受けていて、有名どころで言うとDeath Cab for CutieとかRadioheadも好きですし、最近だとBoyishとかNilüfer Yanyaも参考にしました。「37秒で」が「めっちゃthe cabsっぽい」って言われて、昔だったらちょっとイラっとしてたと思うんですよ。でも、「37秒で」の次に春ねむりさんとのコラボがあったり、今はもっといろんなことをやっているから、気にならなくなったのも変化ですね(笑)。

yeti let you notice - tale chasing feat.春ねむり (Official Music Video)

変わらぬ“オルタナ”マインド「やっぱりカウンターでありたい」

秋好佑紀

――ほかのサポートについて聞くと、望月起市さんはもともとサークルの繋がりなんですね。

秋好:そうです。彼は卒業したあとに北海道で就職して、6年ぐらい経って、東京に戻ってきたときに、「音楽活動をしたいんだけど、ギター手伝ってもらえない?」っていうとこから始まりました。で、最初にドラムの高橋直希と3人でスタジオに入って、起市はベースを呼ばずにライブをしようとしていたんですけど、直希と「さすがにやばくね?」ってなって(笑)。それで直希がベースのコンちゃん(今野颯平)を呼んでくれて、今のメンバーでずっとライブもレコーディングもしていますね。

 面白いなと思うのが、直希とかコンちゃんは、僕が普段いる界隈と全く違う、ジャズの界隈とかにいる人なんですよ。直希は今大橋トリオさんのサポートもやってますし、コンちゃんもシンリズムさんや碧海祐人さんをサポートしていたり。そういう人たちと一緒にやることが僕はあまりないので、最初は「ハマるのかな?」と思っていたんですけど、直希のジャズの要素に自分のオルタナな要素を乗っけると、それだけであんまり聴いたことがないサウンドになるんです。なので、自分たちの存在というか、サポートミュージシャンの存在がいちばん顕著に出てるのは、起市の現場かなと思っています。

――秋好さんにとってもかなり新鮮な現場だと。

秋好:めちゃめちゃ面白いです。僕の周りは同期を使ってのライブが多いんですけど、起市のときはクリックもないですし。直希のドラムに合わせるんですけど、やっぱりジャズの人特有の、そのときの空気感でライブをする感じが面白くて、だから、直希に負けじとデカい音で目立とうとか、そういう発想になっていく(笑)。もちろん同期には同期の良さがあるんですけど、今はyetiも同期なしで、フィジカルでできるようになろうという方向なんですよね。ただ同じフィジカルでやるとしても、直希くんは本当に独特というか、やっぱりセッションで培ってきたものがあって、いつも刺激になります。

――Ivy to Fraudulent Gameとも関わりは深いですよね。

秋好:僕はもともとIvyのファンで、音作りの影響とかめちゃくちゃ受けてて。ドラムの福ちゃん(福島由也)の作る曲と歌詞もすごく好きで、『行間にて』(2016年)が出たときは、「自分と同年代でこんなすごいことをやっている人がいるんだ」みたいな衝撃を受けて。ライブは基本的にircleの仲道(良)さんが弾かれているんですけど、レコーディングで呼んでくれることも多くて、一緒に作品を作れるのはありがたいなと思います。ちょうどIvyのサポートを始めたときは、「自分の良さってなんだろう?」みたいな、ちょっと迷っていた時期で。でも、Ivyのメンバーが「秋好くんには秋好くんの音があるよね」って毎回言ってくれるんですよ。自分の好きな人たちにそう言ってもらえるのはすごくでかくて、自信になったので、Ivyのサポートに参加させてもらえて本当によかったですね。

秋好佑紀

――最近はHakubiのサポートも始めたんですよね。

秋好:Hakubiは今年の9月からサポートで参加させてもらってます。音源だとギターが1本しか入っていない楽曲があったりするので、ライブアレンジでギターをもう1本足しています。自分がいる意味がちゃんとあるものにする、その感じをやっと最近掴めてきたかなって。ボーカルの片桐さんとベースの(ヤスカワ)アルくんが、自分の持ってきたフレーズに対して「いいですね」って言ってくれるので、嬉しいですし楽しいです。もともとHakubiもかっこいいなと思って聴いていたので、好きな人に呼んでもらえるのは純粋に嬉しいし、シンガーソングライターとバンドのサポートは結構違うので、そこの難しさもありつつ、期待に応えたい気持ちでやっています。

――自分のバンド外で活動することによって得るものがあって、それをyetiに持ち帰ったり、もちろんyetiの経験が外で活きたり、そういう相互作用がありますよね。

秋好:今自分はそれによって音楽活動ができている、みたいなところがありますね。しかも自分みたいな、いわゆるオルタナ、残響系っぽいギタリストで、自分のバンドもやりつつサポートもやってる人はそんなにいないから、それが今の自分の個性になってるのかなって。バンドをやってる人って、「このバンドだけをやらないといけない」みたいな風潮がまだあるのかなって思うけど、でも僕は全然やっていいと思うんですよ。

――それこそジャズの界隈とかでは普通だけど、オルタナ系だとまだ少ないかもしれない。でも秋好さんがいたり、この連載では今ART-SCHOOLをサポートしているやぎひろみさんにも話を聞いたことがあったり、そういう存在がすごく重要だなって。

秋好:サポートでも音楽をやる場所を増やすのは、所属しているバンドにも絶対いい影響があります。だから、本人にやる気があったらバンドマンはサポート業をなるべく許してあげてほしいなと思いますね。サポートをやるなら、その優しさに甘えずに精一杯活動して、ちゃんとメンバーへの感謝を忘れずにいれば全然いいのではと。うちのメンバーもサポートのことをすごく理解してくれていて、それは本当にありがたいです。何をやるにも悩みは絶対にありますけど、音楽もバンドも自由なものだと思うので。そういう意味でもバンドマンのひとつの指標になれたらいいなと思います。

――ではこれからもyetiという軸がありつつ、いろんな場所でギターを弾きたい?

秋好:それはこの先も変わらないと思います。あと公表はしてませんが、今は別プロジェクトに参加したりしてます。自分が目指してるのは、ドラマーですが柏倉(隆史)さんみたいな存在というか、曲を聴いたら、「あの人の音だ」ってわかるような人になりたいです。いわゆるオルタナだけじゃなくて、それこそ直希がやっているようなジャンルだったり、いろんなジャンルを吸収して、「めっちゃ残響系っぽいギタリストなのに、このジャンルもできるんだ」って思ってもらえるようにもなりたいです。“オルタナ”は、本来メインストリームに対してのカウンターじゃないですか。今は自分の好きなジャンル感のものを聴く人が増えてきて、一昔前よりはメインの方にいるなと思うんですけど、やっぱりカウンターでありたいんです。

 自分はキタニのおかげで、フェスだったり、アリーナでライブをさせてもらえてるんですけど、次の日に、別のアーティストで下北沢のライブハウスに出たりしてます。こういう行き来をする人ってオルタナティブロック界隈ではあんまりいないと思うから、ライブハウスでもやれて、ポップシーンでもやれる、垣根を壊すようなギタリストになりたいですね。

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