アンジェラ・アキ、自己内省で取り戻した本当の自分 楽曲制作・ライブ・恋愛……赤裸々に語るこれまでとこれから

アンジェラ・アキ、取り戻した自分自身

 ミュージカル音楽作家としてのワークに続き、アンジェラ・アキのシンガーソングライターとしての動きが活発化している。まず今年5月21日に新たなスタートとなるシングル「Pledge」を配信リリース。7月から8月にかけては11年ぶりのツアー『アンジェラ・アキ Tour 2025 -Eleven-』が全国10都市で開催された。そして11月26日にはニューシングル「Floating Planets」を配信リリース。スケール感に富んだこのソウルバラードで、彼女は自身のリアルな体験と“揺らぐ”思いを歌っている。またこれらの曲を含む待望のオリジナルニューアルバム『Shadow Work』も2026年2月11日にリリースすることが発表されたところだ。

 今、アンジェラはどんな思いでシンガーソングライターとしての活動をしているのか。そして新曲「Floating Planets」をどんな気持ちで作ってレコーディングしたのか。正直に、赤裸々に、全てを話してくれた。(内本)

勝ち負けからの解放、自身を取り戻した11年ぶりのツアー

――7月から8月にかけて全国ツアー『アンジェラ・アキ Tour 2025 -Eleven-』が開催されました。2014年以来、実に11年ぶりのツアーだったわけですが、やってみてどうでした?

アンジェラ:11年というと人間の細胞が一回入れ替わるぐらいの長さじゃないですか。4年ぶりとか5年ぶりに誰々がライブをやったというような話はたまに聞くけど、11年というブランクはやっぱりとても長い。だから、どうなっちゃうんだろうと最初は思っていて。細胞が入れ替わると言いましたけど、実際私は5年くらい前から自分自身と向き合って、人生に対する向き合い方、人間としてのあり方みたいなことをすごく変えていったんですよ。自分のなかの闇の部分……嫉妬だったり劣等感だったり欲望だったりをちゃんと見つめ、受け入れた上で人間的に成長したいという気持ちがあって。もちろんある朝起きて、“今日から人として成長するんだ!”って思ったわけじゃなく、そこまでに“もうこのままじゃダメだ”という状況があっての話なんですけど。でも向き合い方を変えようと意識しだしてから、それまで持っていた価値観が大きく変化して、大事だと思い続けてきたことはたいして大事じゃない、もっと大切なものがあるんじゃないかと気づくことができた。あのツアーは、そういう最中(さなか)でのものだったんです。だから、ツアーをする、ライブをするという行為自体は11年前と同じなんだけど、それをやっている人間の中身があの頃とは違うので、ありとあらゆる面で感覚が違っていたという。

――その感覚の違いをもう少し具体的に話すことはできますか?

アンジェラ:デビューしてから日本での活動休止までは、ある意味ライブというのは勝ち負けであって、自分が楽しむためのものではないと思っているところがあったんです。だから何組か出演するイベントだったら、そのなかで一番でありたいと思っていたし、100点の内容をプレゼンテーションするべきだと思っていた。完璧なものを見せたかったんです。100点未満の出来だったら、それは0点と一緒なんだ、みたいな。だから私のライブはエンターテインメントとしてすごくしっかりした、隙のないライブだったと思うんですよ。そういう作り方をしていたから。完璧なものを提供するということに集中していたから。じゃあどうしてそういう集中の仕方をしていたかと考えてみると、それができない自分には価値がないと思っていたからなんですよね。でも、それは違うんじゃないか。自分が楽しくなかったら意味がないんじゃないか。そういう思いにようやく至ったのがこの5年ぐらいで。100点のライブでも50点のライブでも人間としての私の価値は変わらない、もっと言えば歌っていてもいなくても変わらないんだということを何年かかけてずっとワーク(自己の内面に向き合う心理カウンセリング)してきたんです。勝つとか100点を目指すという考えをまずは手放そうと。

 そうして迎えた今年のツアーで、私は毎回ステージに出る前に15分くらい瞑想をしたんです。雑念や自我といったものがないピュアな状態でステージに出ていきたかったから、空洞の筒のようなものに自分がなることをイメージした。そうして演奏をしたら見事に楽しかったし、一緒にやっているミュージシャンたちとのコミュニケーションが昔の何倍もうまくとれたし、何よりお客さんの表情が本当によく見えた。私はもともと緊張しいで、11年前まではステージに出てから本調子になるまでに3曲分くらいかかったんですね。でも今回は11年ぶりのライブだったにも関わらず、1曲目の4小節めくらいで緊張が解けて、そこからはすっきりした状態で歌えたという。それが一番大きな変化だったな。今までステージに立っていたアンジェラ・アキとは別人のような感覚があった。ああ、私はしっかり自分と向き合うことをして、やっと自分になれたんだなって。そう思えたのが本当に嬉しかったんです。しかも10公演、全部そのモードでやれたから。

――実際のところ、そうした向き合い方の変化がそのままボーカルに反映されているようでした。

アンジェラ:11年も経つと昔のスタッフがみんな偉くなっていたりするんですけど(笑)、私が久しぶりにツアーをやるとなったら、そういう人たちみんなが「アンジーともう一回やりたい」と言って戻ってきてくれたんですよ。で、そういうスタッフみんなに言われたのが、「声、どうしたの?」「なんか昔の10倍くらいうまくなったように聴こえるんだけど」って。それくらいあの頃は勝ち負けに拘って必死に歌っていたんでしょうね。今は肩の力を抜いて歌えていて、そうすることで本当の強さが歌に出るようになった。それは自分なりの解釈ですけどね。

――でもそうなんでしょうね。そういう歌唱表現への変化が確かに感じられました。加えてセットリストの新旧の曲のバランスもとてもよかった。昨年の『アンジェラ・アキsings「この世界の片隅に」』の曲を歌い、過去の代表曲も歌い、カバーも2曲やって、新曲の初披露もあった。過去のおさらいではなく、今の自分はこうですよというところをしっかり伝える内容だったのが素晴らしいなと思いました。

アンジェラ:よかったぁ。実を言うと、あのツアーをやる前に新しいアルバムを出す予定だったんですよ。だけど制作スケジュール的にそれが難しくなって、一旦白紙にしようかとも考えたんですけど、でも新しいアルバムがなくても新しい自分を見せることはできるなと思ったので。ドラムの玉田豊夢さんとか、ギターの田中義人さんとか、そういう素晴らしいミュージシャンを迎えて、新しいバンドの形でやってみることにしたんです。

――あのツアーの本編最後に歌われたのは5月に配信された新曲「Pledge」でした。新しいアルバムを作るにあたって最初に出来たのがこの曲だったそうですね。

アンジェラ:そう。確か2023年の春ぐらいだったかな。ミュージカル(『この世界の片隅に』)の曲を作り終えて、ワークショップみたいなことをやって、ちょっと曲を書き直したりしていた頃。ちょうどその1年前くらいに私は離婚して。その数年前からカウンセリングに通いながら自分と向き合うことをしてきたので、まあミュージカルの曲作りも一段落したことだし、ここで自分の内面を素直に反映させた楽曲を作ってみようと思って作ったのが「Pledge」だったんです。こう見えて、私は今まで感情を押し殺して生きてきたところがあるんですよ。痛みとか苦しみにやられそうになっても、それを感じていないふりをして自分を騙し、で、たまに爆発するみたいな。そういうパターンで生きてきた。それを変えたくてカウンセリングに通うようになり、かじかんで麻痺していた手をお湯につけたら少しずつ温度を感じられるようになっていくみたいに自分らしさ取り戻せていって……というのがこの5年くらいの私だった。だから、もう二度と自分を手放さない。そう思って、その誓いの歌を作ろうと、この歌を作ったんです。

――自分のために作った歌だった。

アンジェラ:そう。そういうふうに作ることがもうずいぶん長い間なかったから、ちょっと不思議な感覚でしたね。この10年の間には鈴木雅之さんのために曲を書いたり、由紀さおりさんに曲提供したりとかはしていたけど、私の内面を曲にして出したいという気持ちになることがなかったから。必然的に出てきたって感じかな。

――〈私であることを 私に誓って〉という歌詞でこの曲は終わりますが、その思いがまさしく新しいアルバム制作の起点になったわけですね。

アンジェラ:そういうことになりますね。もうアルバムもほとんどできていて、最後の仕上げの段階まで来ているんですけど、聴いたら驚くと思いますよ。「アンジー、こんなの世の中に出していいの?」って(笑)。普遍性みたいなものやヒットのための方程式みたいなもの、そういうことをまったく考えないで作っているアルバムだから。私が私のために作っているアルバムなんですよ。今言ってくれたように、そのスタート地点にあるのが「Pledge」なんです。

――この曲と共にリボーンしたわけですね。

アンジェラ:そうそう。リボーンするつもりで書き始めたわけではないけど、結果、リボーンの曲になったという。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる