新着MVランキング：「Casket Girl」に見るFujii Kazeのカリスマ性　遊び心と凝ったディテールが滲む作品に

MV Chart Forcus

　毎週更新される「YouTube Music Charts」ウィークリー ミュージック ビデオ ランキングより、MVをはじめとした音楽関連の新着動画から上位10作品／楽曲を取り上げ、ランキング化＆レビューしていく連載「MV  Chart  Focus」。11月21日〜11月27日のウィークリー新着のTOP10は以下の通り（※1）。

1位：Fujii Kaze「Casket Girl」MV
2位：Number_i「LAVALAVA」Official Visualizer
3位：Official髭男dism「Sanitizer」MV
4位：如月千早「約束」THE FIRST TAKE
5位：DOMOTO「愛のかたまり」Promotion Movie
6位：BE:FIRST「夢中」Live Mix
7位：Eve「Underdog」MV
8位：Stray Kids「DIVINE」MV
9位：STARGLOW「Moonchaser」from『BMSG FES'25』DAY1
10位：MAZZEL「Only You」Special Live Performance

ダンサー・バンドメンバーの従えて歌い踊る藤井 風

　今回取り上げるのは、Fujii Kaze（藤井 風）「Casket Girl」。今年話題となった英語詞をフィーチャーしたアルバム『Prema』からの5本目となるMVだ。サムネイルだけ見ると、一瞬カート・コバーンと見紛うような金髪と眼光に驚かされるが、内容は1970年代のアメリカで放送されていたと思しき音楽番組を模したパフォーマンス映像と、ロードムービー風の場面とで構成されている。グランジとは対極と言っていいグラマラスなパフォーマンス映像には、いかにもビデオカメラで撮影したような独特のにじみのある画面と、フィルム風のリッチな画面が交差する、凝った演出が取り入れられている。

　司会者のイントロダクションを終えた冒頭にはご丁寧にスキャニメイト風のエフェクトが出迎える（Earth, Wind & Fireの「Let's Groove」が一番わかりやすいだろうか）。ゴーゴーダンサーが踊り、バンドメンバーの熱演を従えながら歌い踊るFujiiの姿はいかにもカリスマ的だ。

　一方、モーテルの一室から始まるFujiiとひとりの女性を主人公とするロードムービーは、道中で怪しげなひとりのヒッチハイカーの男を拾ってから不穏な展開を見せ、低予算ホラー映画のような不条理な（あるいはバッドトリップのような）エンディングを迎える。さらには、このロードムービー自体もまたテレビ放映されていたもので……と、メタフィクションというか、自己言及的な入れ子構造がおまけとして挟まれる。

　テレビや映画といったメディアを通じて描写されてきた、1970年代アメリカ的な世界のなかに入り込みたいというアーティストの希望を存分に叶えたような映像だ（撮影自体はメキシコで行われたそうだが）。遊び心もあればディテールも凝っている。しかし、そのディテールへのこだわりが強く出過ぎている、という印象も正直否めない。すべてはメディアを通じた表象でしかないというシニカルなメッセージという線もありかもしれないけれど、“至上の愛”をタイトルに掲げるFujiiに、そんなシニシズムはあまり似合わないだろう。

　もっとも、MVなのだから楽曲の世界観の見せ方は自由だが、筆者としてはあの作り込みのまま、音楽番組風のカリスマ的パフォーマンスをたっぷりと見せる選択肢もあったのかもな、とも思ってしまった。やはりシンガーとしての姿が最も輝いている。

※1：https://charts.youtube.com/charts/TopVideos/jp/weekly