クレナズム、バンドとして今一度「足元を見つめる」時期に 3曲の連続リリースは冬のツアー『脚下照顧』への道しるべ

クレナズムと“シューゲイザー”

 2025年はタイアップ楽曲やアジアのアーティストとのコラボ楽曲も含む2ndアルバム『a beautiful days』でバンドの音楽的なレンジを拡張したクレナズム。同作を携えた夏のツアーなどを経た4人は、冬のツアー『脚下照顧(きゃっかしょうこ)』を見据えた3作品「yellow」「香椎ブルー」「オレンジがひとつ」の連続リリースを行った。そこで聴けるのはバンドの原点であるシューゲイザーサウンドを軸に、今の彼らのセンスとスキルで更新されたバンドサウンドだ。改めてクレナズムらしさを問う理由を3つの新曲を軸に聞く。(石角友香)

改めて“シューゲイザー”にフォーカスする理由

クレナズム アーティスト写真

――今回の3曲連続リリースはどういう動機で始まったんですか?

しゅうた(Dr):まず、ツアーの前に曲を出したいねとなった時に、自分たちがやりたい曲を作って、できた3曲を2週間ごとに配信しましょうという話をチームでして、今回出させていただきました。

萌映(Vo/Gt):アルバム『a beautiful days』の曲は、はっきりとしたテーマが多かったし、ポップサウンドが多めだったから、ライブでもキャッチーな見せ方をしていたなという印象があるんですけど、今回「脚下照顧」というタイトルで冬にツアーを回ることが決まっていて、逆にこのツアーではまた違った私たちの姿を見せられるんじゃないかなと思っていて。

――「脚下照顧」は禅宗の考え方で「足元をよりよく見つめて自分のやり方を顧みよう」という意味だそうですね。

しゅうた:そうですね。もともとはコンセプトライブをしようとなって、テーマが自分たちの音楽のルーツであるシューゲイザーだったんですね。サブタイトルをチームの方とメンバーみんなで考えていたんですけど、その時にシューゲイザーと言えば足元で、僕の実家が禅とか仏教とかのお仕事をしているので、何か足元に関する言葉があったなと思い出して。「脚下照顧」っていうのが検索で引っかかったのでみんなに提案したら、まさしくシューゲイザーは「足元を見つめる」って意味だし、今自分たちの置かれている状況やこれからどうしていきたいのかを考える時期もあったので、このタイトルに決まりました。

――アルバムで音楽性が広がったあとに自分たちの軸を考えたくなったのはなぜなんでしょうね。

しゅうた:『a beautiful days』ではありがたいことにコラボもさせていただいたし、タイアップ曲もいっぱい入っていていろんなことができるんだって気づいたアルバムだったんですけど、やっぱり自分たちはライブバンドだという気持ちもあって。そうなった時にアルバムの曲たちもライブ映えはするんですけど、自分たちのテンポ感とか自分たちのノリ、お客さんとの熱量を交わしていくうちに、やっぱり同期音楽だとちょっと伝わりづらい部分もあるなぁ、と。冬のツアーでは僕たちの熱量を伝えたいし、お客さんの熱量ももらいたいというところで、もう1回自分たちの軸になるバンドサウンドをちゃんとやろうと話し合ったと思います。

まこと(Ba):もともと音源とライブでギャップをつけたくて。音源はらしさを出しながら綺麗に作ってライブだと爆発するように演奏して、どっちの良さも知ってもらえるように今までライブをしてきたので、音源も大事ですけどライブも大事っていう認識がずっとあったんです。もう1回ライブに対して向き合って、もっと突き詰めていこうっていう意識の変化があったというか、もっと強くなったという感じですね。

――ライブでポップな楽曲をやってみたからこそ気づいたこともある?

まこと:そうですね。ポップな曲をやっている時は自分たちも楽しくなって、人間らしくなるというか(笑)、「楽しくやろう」っていう気持ちになるんですけど、1stや2nd(アルバム)の曲をやっているときは世界観にガッと入って、それもそれで気持ちいい。だからどっちの良さも分かったうえでライブにガッと入りたいなって。特に冬になると入りたくなっちゃうんですよね。そういうのもあって冬のツアーのタイトルがこんな感じになったのかもしれないです。

――確かにクレナズムは夏と冬にツアーをしてますからね。ところでクレナズムはおのおの作詞作曲をしてコンペ形式で選ぶのが通例ですね。

しゅうた:いつもコンペ形式でオンライン上でどの曲がいいかを選んでいるんですけど、今回はチームの方も福岡に来てもらって、初めて対面で曲選考会というかお互いに作った曲を聴きました。すごく緊張しました(笑)。

――それはこれからのクレナズムをよりチームで考えようと?

しゅうた:そうですね、チームとしてのまとまりが欲しくて。今までは顔を見ずにネット上だけで選んでいて、自分がどういう思いで作ったとかは抜きにして、純粋に曲の良さで選んでいたところはあったんですけど、対面だと歌詞やアレンジの意図を話せるし、それぞれみんなの話も聞けたので、こういう方向性で出していこうという議論ができたと思いますね。

民謡、J-POP……色のモチーフとともに加えられたエッセンス

――結果、3曲ともバンドサウンドの印象が強くなりましたね。ちなみに全曲、タイトルに色という統一感があります。

しゅうた:もともとけんちゃんのタイトルに色が入っていたんだよね?

けんじろう:「香椎ブルー」は最初からタイトルに色が入っていて、「オレンジがひとつ」は歌詞の中に入っていました。それがチームで印象的だったみたいです。二つの対比はあったんですよ。海のブルーと西陽のオレンジ、みたいな。ブルーはもともとインスピレーションがあって、北野武の映画に「北野ブルー」って言葉があるじゃないですか。その言葉の響きがめっちゃいいなあっていうのがずっとあって、そこからですね。

――「香椎ブルー」は地元の香椎浜から見える景色がテーマで、ずっと書きたかった曲だとか。

けんじろう(Gt):大学4年間を過ごした地域なので、ずっと見てきた景色に思い出がそもそもあって。この曲は夏のツアーで披露する新曲として作ったことがきっかけなんですけど、せっかくなら思い出の場所をテーマにしたいなと思って。

――シューゲイザーよりオルタナ色の強いサウンドで、しかも歌詞には少し昭和っぽい匂いもあるという。

けんじろう:萌映ちゃんからは「ちょっと沖縄民謡っぽいね」と言われました。

萌映:ボイストレーニングの先生に「この曲って沖縄を感じるね」と言われて、「ああ確かにそうかもしれない」と思って。もともとけんじろうくんの作る曲って、沖縄に限らずちょっと民謡チックなメロディをいつも生み出してるイメージがあったので、この曲こそけんじろう節が炸裂しているなって、デモが上がってきた時に思いました。

けんじろう:「沖縄っぽいね」っていうコメントは何人か友達からも言われたんですよ。夏川りみさんとか沖縄の曲が好きで聴いていた時期もあったし、もともと民謡も好きですし、その影響もあるのかもしれません。

――萌映さんはどんなイメージで歌いましたか?

萌映:大きく物語に変動があるっていうより日常を淡々と過ごしていくイメージが私の中にあったので、そんな風に歌っていくのが正解なのかなと思って、ボーカルも静かに燃え上がっているイメージで録ってみました。

クレナズム『香椎ブルー』culenasm-kashii Blue(Official Lyric Video)

――しゅうたさん作の「yellow」の曲想はどんなところから?

しゅうた:この曲はライブ映えしそうだなあと思いながら作ってたんですよね。4つ打ちのノリがいいビートで、かつドラムの音が90年代とか80年代の頃のドラムの音をサンプリングした音で作っていて。最近、平成がリバイバルしている感じがあるじゃないですか。なのでその頃の音とシューゲイザーを組み合わせたら面白いんじゃないかなと。

――こういうビート感でシューゲイザーの要素も入れるっていうことが大きな挑戦ですね。

しゅうた:シューゲイザーとJ-POPを意識したところもありましたね。やっぱり自分たちのシューゲイザーはやりつつ、新しいことをしたいなって気持ちもあったので。

――タイトルの「yellow」は色つながりなんですか?

しゅうた:もともとは違うタイトルだったんですけど、先にブルーとオレンジがあって信号っぽいなと思ったので、3つ並んだ時に真ん中にイエローがあるのがいいんじゃないかと思ってタイトルにしました。歌詞は主人公が恋をしている曲なんですけど、「この恋は進んでいいのか、ダメなのか?」と揺れ動いている気持ちを表現したかったっていうのもあって「yellow」というタイトルにしました。タイトルだけじゃなくて、歌詞も色からイメージして書いていきましたね。

――歌詞はしゅうたさんと萌映さんの共作ですね。

しゅうた:一緒に聴きながら書いたよね? 土台は僕が持っていって、信号機っていうテーマを歌詞に入れたいんだよねって萌映ちゃんと相談しながら作りました。

――主人公の揺らぎがリアルです。

萌映:「このまま進んでいいのか?」っていう注意喚起じゃないけど、そういう意味のイエローにもなるし、私もすごく考えて、「これはもっとリアルな情景が浮かぶ言葉を入れたいな」と思ってしゅうたくんと相談しながら作りました。

――ダンスロックとも言えますが、このひんやりした感じはクレナズムらしいですね。

萌映:うん。ひんやりしてます。秋から冬に変わろうとしている今の何とも言えない時期の風に当たって気持ちよくなるみたいな、そういう感覚の曲だなって思います。

クレナズム『yellow』culenasm-yellow (Official Lyric Video)

ライブごとの空気感にしかないものを大事にしたい

クレナズム アーティスト写真

――けんじろうさん作のもう1曲「オレンジがひとつ」はどういうところからの発想ですか。

けんじろう:制作だったりバイトだったり、やることが多い日々に追われていて、ちゃんと休めてないなと思ったのがその歌詞をアップした時期なんですけど、夕日を見たり美味しいご飯を食べたり、このバラエティ番組面白いなとか、忙しい中で立ち止まったときに元の自分を取り戻すタイミングがあるなと気づいたんですね。そういう日々の自分を意識しながら歌詞を進めていきましたね。

――これは皆さん共感するところでは?

萌映:私も予定を詰め込みすぎて後で「うわぁ!  やらかした」って思ってしまうタイプなので(笑)、この曲が上がってきた時に自分のためにある曲かもしれないって思えるぐらい、すごく優しいなって思いました。

――「香椎ブルー」を作った人とは思えないぐらい違うタイプのメロディで。言葉数も多いし短い音でリズミカルなので、こういうメロディがけんじろうさんから出てくる驚きがありました。

けんじろう:前まではオケを全部まるっと作って、その上に自分の好きなメロディを乗せていく作り方だったんですけど、ここ半年ぐらいはセクションごとに作っていって。だからセクションごとにメロディが際立っている感じがあるかもしれないです。今までの作り方だとどこかしら前に作った曲の候補だったり、自分の癖みたいなものが乗っているんですけど、作り方を変えたからか、新鮮に聴こえるって言われると嬉しいです。あと情報量が多いのはたぶん、クレナズムの曲の決め方がコンペ形式じゃないですか。コンポーザーが一人のバンドじゃないから、自分の中で1曲に詰め込みたいものがあって、だからどの曲も情報が多くなっているのかなと今思いました。

――アンサンブルは案外重厚ですよね。

けんじろう:確かに。僕がデモ段階で作ったときはもうちょっと高かったんですけど、萌映ちゃんの一番素敵なキーに合わせるってなった時に、キーをトランスポーズするんです。それでグッと下げた時にベースの音符もそのまま下がって、でも5弦ベースで弾けるようないい感じだったので、まこっちゃんにはそのままお願いしたんですけど。

――このベースサウンドを聴くとまことさんがライブで5弦ベースを弾いている感じが見えますね。

まこと:ギタリストが作るベースラインってギターのフレーズなので、ライブで弾けるかどうかわからないぐらいなかなか染みつかないんですよね。一生懸命弾かないとダメで、指がちぎれるぐらい練習してレコーディングしました。ライブまでにもっと練習しないとちょっとまずいなって感じなので、頑張ります(笑)。

クレナズム『オレンジがひとつ』culenasm-Sunset Glow(Official Lyric Video)

――改めてこの3曲が出たことによって「今のクレナズムはこうだ!」と言語化できるとしたら?

しゅうた:ツアーの抱負にもなるんですけど、僕的にはほんとに自分たちが気持ちよくなれるし、お客さんも楽しい、気持ちいいっていう音楽ができたらいいなと思っています。シーケンスとか同期があると、演奏をここまでで終わりにしなきゃとか、決まっていた場所が多かったんですね。でもお客さんが盛り上がっているんだったらアウトロをアイコンタクトで伸ばしてみるとか、そのときの空気感にしかないものを大事にしたいなと、この3作品を出した時に思いました。実際、ライブではそういうことができるんじゃないかなと。

萌映:もともとこの3作連続リリースが決まったのも、ツアーに向けてだったので、この3曲たちが来てくれる人にとって道しるべになるようなものになればなと思って始めたのがきっかけで。道しるべを辿ってきてもらって「脚下照顧」というタイトルを掲げた私たちをより楽しんでもらえたらなと思うんですけど、しゅうたくんが言った通りで、シーケンスを使わない音楽もやれたらなと思っているので、そうなると音源とはBPMが違ったりするんですよね。自分たちの心拍数とかの影響も出るんじゃないかなと私は思っていて、それがライブ感に繋がるんじゃないかなと。そういう部分をより感じてもらえたらなと思っています。

■リリース情報
「オレンジがひとつ」
2025年11月12日 (水) リリース
配信リンク:https://orcd.co/sunsetglow

「yellow」
2025年10月29日(水)配信リリース
配信リンク:https://orcd.co/culenasm_yellow

「香椎ブルー」
2025年10月15日(水)リリース
配信リンク:https://orcd.co/kashii-blue

■ツアー情報
『クレナズム 冬のバリよかワンマンツアー 2025 「脚下照顧」』
11月24日(祝)大阪 梅田 Shangri-La
12月5日(金)恵比寿 LIQUIDROOM
12月21日(日)台北Legacy Taipei

チケット:https://eplus.jp/culenasm/

企画︓ オクトーバーミュージック / 奏 -KANADE-
制作:奏 -KANADE-

■関連リンク
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