杏子、今見つけたBARBEE BOYSとの向き合い方 「ずっと自分探し」――音楽を通して追い続けた存在理由を語る

杏子、“自分探し”の旅を語る

 解散はやむを得ないことだったが、時間が5人に変化をもたらしていったのだろう。外部からの働きかけで単発の活動をするうちに、バンドとしての熱が再燃したのだろうか。2019年に5人のインタビューをした際に、コンタがこんなことを言っていた。

「突然ライブをやって、そのおまけにCDを作るってことじゃなくて、パーマネントの活動をして、音も作っちゃいたいなあというのがあって。それを勢いで言ったらみんなの賛同を得られた。(中略)それまでの、ライブだけ賑やかしでやるとか、なんか消化不良だなという気が俺はずっとしてたから、試しに(大声で)『どうかね、集まって何かやんねえか』というのを言ったら、みんなの気持ちもスケジュールも、たまたま合って。今までは、そういう気持ちがあっても、言うに言えないというか、言い出しかねてる感じもあったし」(※1)

 これを契機に2018年に合宿をして楽曲制作をし、さらにレコーディングを開始、前述した29年ぶりの新作『PlanBee』を2019年にリリースした。その時のことを杏子はこんなふうに振り返った。

「『PlanBee』を制作して、『演りたい時に会って、やればいいんじゃない?』みたいなスタンス、距離感がわかったのね。男子4人はいつものレコーディングだったと思うんだけど、私、バービーの時はいつもドキドキしてたんです。『合格点出るかな?』『合格点出ますように!』って。で、『PlanBee』のレコーディングは横浜のハウススタジオみたいなところで、スタジオに行ったらソファでイマサがギターを弾いていて。そこで『こんなんできたよ』って聴かせてくれたのが『あり〜がとう』という曲で。夏だったから、コンタの誕生日を祝ったり、私の誕生日を祝ってくれたりしたんだけど、『こんなことやるバンドだったっけ?』って。私は作業が終わったらパッと帰っちゃうけど、男子たちはいつまでも音楽談義してて、なんか部活の部室みたいだった。『なんて心地好いレコーディングなんだろう!』って思うぐらい。それから国立代々木競技場 第一体育館でライブをやって、『集まりたかったら集まろう』みたいないい距離感になって」

 素晴らしくバランスのいいバンドになったような印象を持つが、杏子はそこにちょいと一言加えた。

「でも、そう感じたのは、もしかしたら私だけかもしれない。そもそも(BARBEE BOYSは)男子のバンドだったから。私は途中からおまけみたいに乗っかっちゃったから。それに慣れるまで、やっぱり時間がかかりましたね」

 ステージでの彼女は、ソロであれ、BARBEE BOYSであれ、自信に満ちた強気の女性シンガーに見えるが、内面は繊細で気遣いの人なのだ。バンドのなかで自分の立ち位置を見つけるのも実は時間がかかった。

「バンドに自分のいる意味があると思えたのは、3作目『3rd BREAK』のレコーディングの時かな。引っ掛ける声が期せずして出て、『こういう歌い方ができる自分は、もしかしたらこのバンドにいる存在理由があるのかな?』って。その時に、そう一瞬思えたの。デビュー当時はスタート地点が違ってたから、男子に追いつくのが精一杯な感じがずっとあった。5作目『√5』のレコーディングをニューヨークでやって、帰ってくる時に空港のロビーでディレクターに『私、このままこのバンドにいていいのかな?』って相談してたもん(笑)」

 何年もレコーディングやツアーで寝食をともにするメンバーであっても、どこか心もとない思いを彼女はずっと抱えていたようだ。「まあ、いいか」などと思えない真面目さが、当時の彼女の悩みを深くしていたのだろう。

「そう、真面目なの。ロックというカテゴリーに入っちゃったけど、基本が真面目だから、やらかしどころがないっていう(笑)。ステージに立ったら変わったことをしなきゃいけないんじゃないかとか、悩んだりもして。でも、そこで自分が思ったのは、死ぬ時に『私ってこういうものだったんだ』というふうにわかればいいんだ、って。それは、人としても、ミュージシャンとしても。だから、絵本の『ぼくを探しに』(シェル・シルヴァスタイン)みたいな、あの感じかな。ずっと自分探し。今もそう」

 ソロとなって30年を超えた今はどうなのだろう。ソロアーティストとしても自分を探しているのだろうか。

「バービーが解散したあとは、故郷に帰って、まずスーパーOLになってやろう、と。母たちは『お嫁に行ってちょうだい!』って言われてたし、それも『オッケー!』って感じだったんだけど、バンドをやめるってアナウンスしたら、意外やありがたいお誘いがいっぱいあったので、『ライブができるんだ!』の一心で。エピックからシングルを出すことになったんだけど、ソロになって、学ぶことが多かった。いかに“バンド”っていう枠に頼っていたか。それはレコーディング然りで。ソロになって、詞を自分で書くようになって、曲作りへの取り組み方がすごく変わったと思います」

 “BARBEE BOYSの杏子”として培っていたものを、“ソロアーティストの杏子”としてどう折り合いをつけるか。そこでも自分探しは続き、落ち着くまでは時間が必要だった。

「ソロデビューが『DISTANCIA 〜この胸の約束〜』というポップな曲だったから、『杏子はロックを捨てた』とか言われましたし。でも、アルバム『Naked Eyes』をトータルで聴くとロックだし、『じゃあロックとはなんぞや?』って自分で思ったりもしたし。でも、自分の芯がブレなければいいんだと思えたのが、4作目『TOKYO DEEP LONDON HIGH』かな。『やっぱり自分はロックが好きだな』『好きなものを貫いていけばいいんだ!』ってやっと思えた」

 作品ごとに新たな実験をしながら、現在まで12作。2021年にリリースした『VIOLET』は、BARBEE BOYSの再開を経て、今の彼女が表現したいことが詰め込まれた。プロデュースにSuperflyや木村拓哉など多くのアーティストを手掛けてきた作曲家・プロデューサーである多保孝一を迎えた華やかで堂々とした作品だ。

「制作がちょうどコロナ禍で、一年かかったのかな? 私が多保さんに『今あえてロックをやりたいんです』って言ったら、『ロック、終わってますよ』って多保さんに言われて(笑)。多保さんは『グラミー賞』を観て、そう感じたらしくて。それで、お互いにいいと思う音楽を話し合ったんです。せっかく多保さんとやるんだから、その新しい境地を見たいなと思って」

 ソロデビュー30周年となった2022年には、再び多保と組んでアニバーサリーシングル『30 minutes』を配信でリリース。今も歌い続けている。それでも彼女は今も自分探しを続けているのだろうと思う。その向上心が彼女を輝かせ続けているのだ。

※1:https://realsound.jp/2019/12/post-463637.html

■公演情報
『Kyoko Billboard Live 2025 “Just Today Vol.3”~KYOKO EXPO~』
10月28日(火)Billboard Live OSAKA
*1st stage:OPEN 16:30/START 17:30
*2nd stage:OPEN 19:30/START 20:30

<チケット>
BOXシート:19,500円
S指定席:9,200円
R指定席:8,100円
カジュアル:7,600円
*詳細はこちら

10月31日(金)Billboard Live TOKYO
*1st stage:OPEN 16:30/START 17:30
*2nd stage:OPEN 19:30/START 20:30

<チケット>
DXシート DUO:20,600円
DUOシート:19,500円
DXシート カウンター:10,300円
S指定席:9,200円
R指定席:8,100円
カジュアル:7,600円
*詳細はこちら

杏子 オフィシャルサイト:https://www.office-augusta.com/kyoko/
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