歌い手界の新星・それの井戸――稀有なその歌声はどこで生まれたのか? これまでと今、そして未来を語る

誰かをびっくりさせたり、喜ばせたりするのが好き。手法が歌だっただけ
――その大変さを含めてそれの井戸さんは歌い手活動を楽しんでいる気がします。
それの井戸:それはありますね。やることがいっぱいあったり、バタバタしてる時のほうが楽しいかもしれません。
――そのなかで、歌い手としてのやり甲斐はどんな時に感じますか?
それの井戸:「井戸ちゃんの動画からこの曲を好きになった」みたいに言ってもらえるとすごく嬉しいです。あとは、視聴者さんを意識し始めてから私のなかのやり甲斐が大きくなったので、趣味で投稿しているものでも私のことを待ってくれてる人がいるのがやっぱり嬉しくて。期待に応えたいと思いますし、そういう思いもどんどん強くなってます。
――今回のImgramox Musicからのリリースも、そんな視聴者さんの期待に応えた結果のひとつになると思います。あらためて、今回のリリース経緯を教えてください。
それの井戸:『歌コレ2025春』のルーキー部門優勝がきっかけで、ご連絡をいただいて。私自身も『歌コレ』で1位を獲ったばかりで気持ちが盛り上がってる時だったので、最初すごく驚いたというか戸惑ったんですけど、せっかくなら挑戦してみようと思って、お受けしました。『歌コレ』で優勝しても自分の意識そのものはあまり変わらないし、“歌ってみた”の活動自体にもそこまで変化はなかったんですけど。やっぱりこういう機会をいただけることや、周囲の環境が変わるんだというのはあらためて感じて、ありがたいなと思いましたね。
――楽曲はnikiさんの「-ERROR」ですよね。選曲もご自身が?
それの井戸:はい! もともとすごく好きな曲ではあったんですが、実は当初この曲を歌うつもりはなかったんですよ。かなり難しい曲だし、尊敬される歌い手さんたちがすでにカバーしていましたし。
――差し支えなければ、それはどなたですか?
それの井戸:おひとりは、街風めいさんですね。『歌コレ2024秋』の時の動画です。この動画で初めて「-ERROR」という曲を知ったんですが、「訴えかける歌ってこれだよな」「私にはまだこんな歌は歌えないな」ってすごく衝撃を受けて、ご本人にも熱烈なラブコールを送りました。私は、自分のよさを出せない歌は歌わなくていいと思っていて、完成されてる“歌ってみた”を聴くと、「これ以上私がこの曲にできることはない」「自分がやりたいことは全部この人がやってしまった」って心地好い諦めを感じてしまうんです。
そこから「-ERROR」という曲を好きになっていろんな動画を観るなかで、りぼんぬさんの“歌ってみた”を聴いたことで、少し考え方が変わったというか。街風めいさんの「-ERROR」とはまた違った解釈があるな、と感じたんです。この曲のよさをひとつだけに決めなくていいことに気づかされて。もっと曲や歌い方を研究して、めちゃくちゃ歌が上達したらいつか挑戦したいと考えるようになりました。
――ちょっと意外なお話な気もします。「好きな曲だし歌いたい!」という単純な気持ちにはならないんですね。
それの井戸:歌い手という同じ土俵なので、そのぶんいろいろ考えちゃう部分もあるかもしれないです。たとえば、男性と女性で同じ曲をカバーしても多少色の違いが出るじゃないですか。なので、ウォルピスさんがカバーしてる曲なんかは、まだまだ実力が追いついていないことは百も承知で、それでも私なりのよさを出そうと思ってカバーできるんですけど。私が「これをやりたい!」っていうイメージまっすぐなカバーの“正解”みたいなものを出されると、「もうこれ以上、私が味付けするものはもうない」「これを聴けば満足できちゃうよね」みたいな気持ちになっちゃうんですよね。
――そう悩んだうえで挑戦的な選曲をしたぶん、かなりいろんな面に力を入れての収録になったと思うのですが。
それの井戸:もちろん『歌コレ』の作品を聴いてオファーいただいた話だったので、期待に沿えないことはしたくないと思っていて。あとは当然普段の投稿以上に大勢の方のお力を借りて制作するので、たくさんの方が携わってくださるぶん、背筋が伸びる収録にもなりましたね。ただそのうえで、歌に関してはいちばんにその場の感情をなるべくダイレクトに表現しようと思って。歌詞だけのイメージにとらわれずに、曲調やメロディが1番、2番、そしてラストにかけてどんどん高まる感じというか、そのダイナミクスを表現したかったんです。今までは歌詞の内容を自分なりに解釈して、それに合わせて歌を練習するやり方が自分の主流だったんですけど。今回はあえて細かい部分にとらわれすぎず、疾走感、ドライブ感みたいなものを最大限出すようにしました。なので、正確なメロディやリズムから当然わずかにズレがあるんですが、そのズレがこの曲の“味”として聴こえるといいな、と。楽曲を聴く際はぜひそこを意識してもらえると嬉しいです。
――もちろんそのなかにも、それの井戸さんなりのベストなアドリブ感があると思うんです。それは当然、なかなか狙って出せるものでもないというか。なのでそのぶん、かなりテイク数を重ねたんじゃないですか?
それの井戸:はい、結構重ねました。「これまたダメですね」「もう一回お願いします!」って。スポ根の部活みたいな感じでしたよ。「もう一本お願いします!」って(笑)。
――(笑)。今までのお話でも、かなりそれの井戸さん自身のストイックさが随所で垣間見えたというか。その点でも、それの井戸さんらしさが如実に反映された歌になったんですね。
それの井戸:事前に練習してる時も、カラオケで「-ERROR」だけを30回ぐらい連続で歌ったりしてたんですよ。ただその時、同行してくれてる友人に途中で「なんか飽きてきたな」って言われて(笑)。その子ももともと「-ERROR」がすごく好きなんですが、そう言われて「飽きさせちゃいかん!」と思ったんですよね。そう言われるまでは比較的ずっと決まった歌い方をしてたんですが、そこから歌い方を固定せずにその場その場で思いついた歌い方に切り替えていったんです。「さっきと同じ歌い方をしない」という意識でやってると、自分のなかでも無理やり新しい引き出しをどんどん開けることに繋がって、結果的にはそれがすごくよかったな、と。感覚としてはもう千本ノックですよね(笑)。私自身も楽しかったし、友達も途中からめちゃめちゃ楽しんでくれて。それがすごく思い出に残ってます。
――先ほども少しお話にありましたが、ストイックではあるものの、それの井戸さん自身はそれをすごく楽しんでいる印象があります。ご自身のことをストイックだとはあまり思ってないですよね。
それの井戸:誰かをびっくりさせたり、喜ばせたりするのが好きなんですよね。結果として手法が歌だっただけで。そのための準備や練習は惜しまないというか、準備段階も含めて好きなんです。
――「昔は飽きっぽくていろんなものに手を出す」とも話されていたなかで、それだけ情熱を注げる歌に出会ったことは感慨深いものもある気がします。
それの井戸:自分でも正直、こんなに続くとは思ってなかったですね。その点に関しては私も自分をあまり信用していないので(笑)。
――(笑)。初投稿から現在1年半ほどですが、今後もまだまだ続けていけそうでしょうか?
それの井戸:今回のような機会や『歌コレ』っていうイベントは、新しいリスナーさんにも出会える本当にありがたい場だと思ってて。今までのリスナーさんにも感謝しつつ、一方で現状に満足することなく、今後も私の歌を聴いてくださる方を増やしていきたいです。何より自分を飽きさせないためにも、こうしていろんな目に見える形での成長を続けていきたいですね。やっぱり一個ずつでもいいことがあると、「もうちょっと続けてみようかな?」と思えるので。いちばんは自分の飽き性と戦いながらやってるというか(笑)。自分に新しい景色をどんどん見せるためにも、この活動を続けていきたいです。
――最後にリスナーさんへのメッセージをお願いします。
それの井戸:私は、自分の“歌ってみた”に「こうやって聴いてほしい」という正解をつけないようにしていて。いろんな方がいろんな聴き方で感想をくださるのが本当に嬉しいんです。感想までいかなくても、「なんかわかんないけどめちゃくちゃいい!」みたいなのもすごく嬉しいので。ぜひ皆さんの好きな時に、好きな場所で、日常のそばに今後も私の“歌ってみた”を置いてもらえたらと思います。
■リリース情報
Digital Single『-ERROR covered by それの井戸』
配信中
配信URL:https://imgramox.lnk.to/ERROR
それの井戸 X(旧Twitter):https://x.com/soreno_ido
YouTube:https://www.youtube.com/@soreno_ido




















