Yves、グローバルを舞台に進化するK-POPガール LOONAの活動停止から新たな出発、そして未来へ

「K-POPは韓国にとどまらないグローバルなカルチャーだ」という言葉がすっかり自然に響くようになったこの時代。この流れを語る上で欠かせないのが、2016年デビューのガールグループ LOONA(今月の少女)だ。独創的な世界観を基盤に韓国国内よりもむしろグローバルなファンダムで大きな反響を呼んだ同グループは、K-POPの新たな潮流を生み出した存在として注目を集めた。しかしコロナ禍を経て本格的に羽ばたく前に所属事務所の争いに巻き込まれ、活動停止を余儀なくされ、多くのファンに惜しまれつつ歩みを止めることになった。
それでもメンバーたちは前に進んだ。ARTMS(HeeJin, HaSeul, Kim Lip, JinSoul, Choerry)、Loossemble(HyunJin, YeoJin, ViVi, Go Won, HyeJu)、そしてChuuとYvesがソロデビューを果たし、それぞれが新たな章を切り拓いた。とりわけYvesは2024年よりPAIX PER MILと歩み、わずか1年余りで3枚のEPを連続リリース。グループ期のアイデンティティを引き継ぎつつ果敢な挑戦を重ねたサウンドは高評価を獲得し、ソロアーティストとして唯一『2025 第22回 韓国大衆音楽賞』「最優秀K-POPアルバム」部門にノミネート。さらに「Billboard」「NME」の年間K-POPリストにも名を連ねた。
アルバムと並行して北米・南米・ヨーロッパを横断するツアーを成功させ、現在はアジアとオセアニア各地を巡るツアーを展開中。混乱の中で幕を開けたソロ活動だったが、短い時間の中で積み重ねた音楽とステージ経験は、Yvesというアーティストを確かに成長させた。今回のインタビューでは、LOONA活動停止後に彼女がどう自分の色を見出し、どんな未来を描いているのかを聞いた。(soulitude)※本インタビューは8月に開かれた『2025 COSMIC CRISPY TOUR ASIA & AUSTRALIA』ツアーの日本公演後に行った。
LOONAは終わっていない

ーー今回の東京公演は、ソロデビュー後初の日本公演でした。
Yves:はい。LOONAとしてのコンサート以来、約3年ぶりのステージで、ソロとしては初めての日本公演でした。
ーーグループ時代と比べて、どんな変化を感じていますか?
Yves:ソロ活動を始めたばかりの頃は、正直、すごく大変でした。ソロとして初めて臨んだデビューショーケースのステージは、まるで無人島にひとり取り残されたような心細さがあって……。そこで初めて、ステージでの立ち振る舞いや観客との向き合い方を、グループ時代とは変えていかなければならないと痛感しました。以前はメンバーと一緒にシナジーを生み出す感覚でしたが、今は自分のエネルギーを何倍にも引き出して届けなければなりません。その分プレッシャーや責任も大きくなりましたが、ライブを重ねるうちに少しずつ自信がついてきたと思います。
ーーソロになっても、りんごなどグループ時代のキャラクターや世界観を引き継いでいるのが印象的ですね。
Yves:Yvesというキャラクターや世界観はLOONA時代から大好きでした。新しい活動の方向性も自然と重なっていたので、迷わず継承することにしました。特に、Yvesを象徴する“りんご”が持つ「反抗」や「冒険」の意味は、アーティストとして進んでいきたい私自身の姿勢とも一致しているので、大切にしながら活動に取り入れています。
ーーソロ転向の際、アイドル時代と線を引いて新たなスタートを切る方も多いのではないでしょうか。
Yves:私たちの場合は自分たちの意思で離れたわけではないんです。どうしようもない状況の中でそうならざるを得なかったので、メンバーもファンの皆さんも本当に悲しくて、混乱したと思います。だからこそ、その後の活動でも既存のファンをできるだけ傷つけないことが大切だと感じました。この思いは、今それぞれのやり方で活動しているメンバー全員に共通しているはずです。LOONAは完全に終わったわけではなく、いつでも再び集まれる可能性を残しているんです。
ーー実際に、LOONA出身メンバーによるグループLoossembleの楽曲「Strawberry soda」も手がけました。
Yves:友人に曲を贈りたい気持ちがずっとありました。メンバー一人ひとりのパートを思い浮かべてメロディを作り、歌詞には私たちに起きた出来事を比喩で込めました。そのため、曲調は明るいけれど、どこか切なさも滲んでいます。大変な時期を共にした仲間への思いを託した楽曲です。
ーーK-POPアイドルとして活動を始めて良かったと感じる点はありますか?
Yves:K-POPアイドルは非常に体系的なシステムの中で、長い年月にわたる厳しいトレーニングを経てデビューします。その環境で学べることは本当に多かったと思います。歌やダンスの基礎に加え、8ジャンルのダンスや多様なスタイルの楽曲に触れました。さらに、短い準備期間で評価を受け続ける中で、急なライブやレコーディングにも動じず対応できる力が身につきました。
ーー応援してくれていたファンの存在も、ソロ開始の大きな支えになったでしょうね。
Yves:それはLOONAで初めてデビューしたときにも感じたことでした。LOONAは一人ずつメンバーを公開して完成するプロジェクトで、私は9人目でした。先に発表されたメンバーのおかげで「自分を待ってくれている人がいる」と思ってスタートできました。ソロ活動を始めたときも同じで、信じて待ってくれるファンの存在が新しい挑戦の後押しになっています。本当に感謝しています。
Yvesの挑戦、そして進化

ーーソロ活動を始めてから、新しくファンになった方も少なくないと聞きます。
Yves:正直、最初から新しいファンがすぐに急増するとは思っていませんでした。デビューからもう8年目になるので、新人のような鮮度で一気に注目されるわけではないと感じていたからです。でも活動を重ねるほど、「ソロの音楽を聴いてファンになった」と言ってくださる方が少しずつ増えていくのを実感しています。そうした方々を見ると私自身も刺激を受けますし、少しでも新しい姿を見せたいという気持ちで、常に新人のような心構えで活動しています。
ーー最初は「無人島にひとり残されたようだった」と話していましたが、短期間で大きな成長を遂げた実感はありますか。
Yves:最初の頃とは比べものにならないくらい、自分を信じられるようになりました。心の余裕も出てきて、以前ほど緊張もしなくなりました。この1年余りでEPを3枚リリースし、音楽番組に何度も出演し、フェスティバルにも立ち、さらに北米・南米・ヨーロッパツアーも経験しました。今はアジアとオセアニアを回っていて、本当に多くのことを学ばせてもらっています。
ーーすべてのボーカルパートを担うようになって、どんな変化がありましたか。
Yves:LOONAは12人組だったので、私のパートは限られた部分だけでした。でも今は、メロディからコーラス、アドリブまで、すべてを一人で歌い上げています。録音に丸一日かかることも普通にあります。その中で自分の声の魅力を引き出しながら、表現の幅やボーカルのスペクトラムがかなり広がってきたと実感しています。
ーーパフォーマンス以外でも、意見を発言できる場面が増えましたか。
Yves:もともと私は自由でいることが好きで、コントロールされるのは苦手でした。グループ活動のときはそれがストレスになることもありましたが、やがては慣れていきました。でもPAIX PER MILに来てからは、むしろ「もっと積極的に意見を聞かせて」と言われる環境で、少しずつ自分の意見を伝えられるようになりました。
ーーそのためか、自身のストーリーが音楽に濃く反映されていますが、制作はどのように進めていますか。
Yves:繰り返されるループを断ち切る決意、新しい挑戦、混乱の中での方向性、そして世界との時差――すべては、私自身の体験から生まれた物語です。同い年のプロデューサーと、音楽だけでなく日常のことまでたくさん話すのですが、そんな何気ない会話からアルバムのアイデアが自然と生まれてきます。私の感情や考えを共有すると、彼がインスピレーションを得てトラックを作り、そこから曲が育っていきます。最初からアルバムに入れることを前提にせず、自然なやり取りの中で形になっているような感覚です。
ーー大手事務所ではなかなか難しいやり方ですが、今のレーベルはYvesさんの性格や方向性に合っているようですね。音楽以外の部分にも関わっているのでしょうか。
Yves:ビジュアル面でも意見を出しています。音楽を聴きながら「こういうイメージで表現したい」と感じたビジュアルを集めてムードボードを作り、A&Rやビジュアルチームと話し合うんです。特に衣装については、母がずっとヴィンテージショップを営んでいたこともあって小さい頃から影響を受けてきたので、私自身も関心が高くて積極的に意見を伝えています。とはいえ独断で決めるのではなく、チームで議論を重ねて最善の形を作り上げていくんです。パフォーマンスに関しても同じで、たとえば「Viola」という曲はエレクトロ要素の強いハイパーポップですが、そこに私はヒップホップスタイルの振付を提案したことで、新しい表現として今の形が生まれました。
ーーTikTokのViralチャート1位「DIM」をはじめ、これまでの楽曲からも実験性が際立ちます。今回のEPでもK-POPの枠を超える試みが多いですね。
Yves:自分が語りたいことを、自分がやりたいスタイルで表現するのが一番だと感じています。そうしたら、人によっては少し難しく感じられるような挑戦的な楽曲にも、意外と前向きな反応をたくさんいただけました。その経験が、さらに表現の幅を広げたいという思いにつながったんです。今回のEPでも、ボーカルが前面に出ないトラックや、変則的なアレンジのトラックなど、一般的なK-POPではあまり見られないタイプの楽曲にも、自信を持って取り組むことができました。平坦な道には見えないかもしれませんが、それこそが今の私が歩みたい道なんです。



















