FRUITS ZIPPER 櫻井優衣、ソロデビューの必然性 夢を諦めなかった下積み時代、自身を磨き続けたアイドル人生

櫻井優衣にとって2025年9月19日という日は、長く歩んできたキャリアの先に必然として訪れた節目だった。ソロデビュー曲「キミのことが好きなわたしが好き」をリリースし、ソロアーティストとして新たな道を踏み出したのである。
2013年、小さなライブハウスから始まったアイドル人生
彼女のアイドル人生は2013年、小さなライブハウスから始まった。下北沢ガーデンでのお披露目ライブに立った当時、まだ観客との距離は近く、音響や照明の環境も限られていた。そこで培われたのは、限られた条件下でいかにパフォーマンスを成立させるかという現場感覚と、ひとりの観客にまで届く表現力だった。その後も複数のグループを経て活動を継続。ソロシングルのリリースやモデル活動にも挑みながら、キャリアの幅を広げていった。
決して平坦な道のりではなかった。移籍やグループの解散、活動の停滞といった局面もあったが、彼女は立ち止まらなかった。常に次の舞台に向けて準備を続け、挑戦を積み重ねてきた。その背景には、華やかなステージの裏側で日々自分を磨き続ける姿勢がある。筆者が取材した『MARQUEE Vol.159』のソロインタビューでも、ベランダの窓や電子レンジの反射を利用してまで自分の姿を確認していたと語っていた。日常のわずかな瞬間すら練習の機会に変えていく徹底ぶりは、櫻井がアイドルとして歩みを止めずに成長を続けてこられた証でもある。
歌唱面の要、FRUITS ZIPPERでの役割
10年以上という長い年月をかけて培われた経験は、後に大きな飛躍へとつながる。2022年、FRUITS ZIPPERに加入すると、それまでの努力が一気に花開いた。わずか3年で東京ドームという大舞台に到達しようとしているグループの成長の裏に、櫻井の存在は欠かすことができない。
FRUITS ZIPPERの音楽は、キャッチーでありながらも、激しいダンスと安定した歌唱を両立させる難易度の高い構造を持っている。その中で櫻井は、歌唱面の要を担う存在としてグループを支えてきた。ステージの熱気が最高潮に達しても、彼女の声はぶれることなく楽曲の軸を保ち続ける。これは単に声量があるということではない。体幹の強さ、呼吸の安定、ピッチコントロールの確かさといった複合的な技術が備わっているからこそ可能な表現だ。
同時に、櫻井は高いアイドル性を兼ね備えている。安定した歌唱力に裏打ちされたパフォーマンスは、ただ技術的に優れているだけではなく、観客を惹きつける華やかさや存在感を帯びている。笑顔や仕草の一つひとつがステージ全体を明るくし、グループの世界観をより魅力的に伝えているのだ。
観客が無意識に安心して音楽に身を委ねられるのは、彼女の歌声が常に基盤を支えているからだ。その安定感は、グループの信頼性を担保する要素として大きな意味を持ち、全国ツアーや大型フェスといった大規模なステージにおいても、FRUITS ZIPPERのパフォーマンスを成立させる要因となっている。
ソロ曲「キミのことが好きなわたしが好き」での挑戦
そうした安定感の上に築かれたのが、ソロデビュー曲「キミのことが好きなわたしが好き」である。この楽曲は自己肯定感をテーマに、繊細で内省的な感情を描いたナンバーだ。大人数で一体感を生み出すFRUITS ZIPPERの楽曲とは対照的に、ソロでは聴き手と一対一で向き合う親密さが求められる。
ここで櫻井が挑んだのは、勢いに頼らず、抑制と解放を自在に操る歌唱だった。フレーズごとに感情を細やかに積み重ね、声色や強弱を丁寧に変化させる。グループでは全体のエネルギーに合わせることが最優先されるが、ソロでは個の感情の流れを中心に据える。その違いを意識した表現は、彼女がこれまでに培った技術を新たな形で活かしたものだった。
特に楽曲後半に向けて見せる表現の広がりは、長い時間をかけて積み重ねてきた経験があってこそだろう。グループでは再現性の高いパフォーマンスを支え、ソロではその瞬間ごとの感情を大切にする。櫻井の歌声は、その両方を自在に行き来できる稀有な存在へと育ちつつある。
改めて櫻井優衣の10年を振り返ると、それは少しずつ段階を重ねながら進化してきた歩みだった。小さな会場で観客と直接向き合いながら養った基礎体力。いくつものグループを経験する中で自然と身につけた柔軟さ。FRUITS ZIPPERでの大きな飛躍によって求められるようになった、大規模なステージでの安定感や集中力。そしてソロで挑戦した、繊細な感情の表現。そのどれもが無駄になることなく積み重なり、今の櫻井を形作っている。11年という時間は、ただ長さを重ねた年月ではなく、次の段階を見据えて少しずつ自分を磨き続けてきたプロセスだった。
2024年10月、櫻井は『櫻井優衣 10th ANNIVERSARY LIVE 2024.』をZepp DiverCityで開催した。ソロとして大規模な会場に立ち、観客を惹きつけたことは、個人としての集客力と表現力を確かに示す出来事だった。Zepp DiverCityは、国内アーティストにとって中堅からさらに大きなステージへ進むための通過点でもある。その場所を単独で埋めたことは、櫻井がソロアーティストとして確かな足場を築いた証明である。
これからは、FRUITS ZIPPERのメンバーとして全国の大舞台に挑みながら、ソロではより自分自身の世界観や内面を映し出す表現に磨きをかけていくはずだ。グループとソロ、両方の経験を行き来することで、彼女のキャリアはさらに豊かに広がっていくだろう。櫻井のソロデビューは、偶然ではなく、積み重ねてきた努力と経験が必然に変わった瞬間だった。
FRUITS ZIPPERの櫻井優衣、そしてソロアーティストの櫻井優衣。グループの一員としても、ソロアーティストとしても、新たなロールモデルとなる存在へと歩みを進めている。
■リリース情報
櫻井優衣 「キミのことが好きなわたしが好き」
2025年9月19日(金)配信リリース
好評配信中:https://sakurai-yui.lnk.to/kiminokotoPR
歌詞:https://www.uta-net.com/song/380112/
























