『VOCAROCK PARTY!』開催記念対談 Vol.1：キツネリ×Δ、次世代を担うべき存在――シーンに示す新たな挑戦！
ボカロファン必見のライブイベント『VOCAROCK PARTY!』が10月12日に開催される。
出演者は、Adoや平手友梨奈が所属する事務所クラウドナインにゆかりのあるボカロPの伊根、小ノ寺 空 / Δ（デルタ）、キツネリ、てにをは、みきとPの5組。ボカロシーンを代表するボカロPを始め、次世代を担う注目のボカロPが共演を果たすこの日は、ボカロファンにとってまたとない貴重な機会になること間違いなし。そこで、このライブ開催に向けて、出演者たちの対談を2回のシリーズでお届けする。
第1弾は、グミ山とN-Roachによる2人組ユニットのキツネリと、最近は小ノ寺 空としてシンガーソングライターの活動を始めたΔの2組の対談。クラブ現場でよく一緒になるというこの2組に、それぞれの制作やお互いの作品の印象、そしてイベントへの意気込みについて話してもらった。（荻原梓）
ボカロの美学「“何を”言っているかよりも“誰が”言っているか」
――まずはキツネリさんの2人がボカロPを始めたきっかけを教えてください。
グミ山：始めたのがコロナ禍に入ってすぐの3年前くらいです。もともと音楽が好きで自分でも作ってみたいと思い、最初は遊び程度な感じで作っていました。N-Roachとは大学での知り合いで、音楽が好きなことは知っていました。
――最初から2人でやろうと？
グミ山：そうですね。自分的にはあんまりしっかりやろうみたいな感じではなかったのと、一人だと投げ出しそうだったので、とにかく人と一緒に組んだほうがいいかなと思っていました。だから長くやるというよりは、一曲作るために一緒にやろうみたいな軽いノリでした。
――2人ともボカロ好きで共通していたんですか？
グミ山：そうではないですね。ただ2人とも音楽が好きでした。2008年〜2010年頃のボカロはなんとなく聴いていたんですけど、その後は離れていて、ちょうど僕たちが音楽をやろうとなった頃にYOASOBIさんのブレイクがあったりして。ボカロシーンが盛り上がっているという印象は持っていました。なので「ボカロ流行ってるしどうせだったら一緒にやらない？」くらいの感じで始めたんです。
――Δさんはどうですか？
Δ：作曲のきっかけは学生時代にあります。中高で仲の良かった友達が軽音楽部で、自分は別の部活だったんですが楽器の演奏ができたので、たまにその友達のバンドに呼ばれたりしていました。一度コピバンをやってみたところ耳コピなど多用して編成なども変則的だったそれがうまくいって、オリジナル曲をやろうという話になったんです。当時は自分は曲を作れるとは思っていなかったんですけど、いざやってみたら意外と楽しく、ただ色々な事情で発表の場もなく話自体がなくなってしまったんですが、その頃にはデスクトップミュージックが楽しくなって、割とのめり込んでいきました。最初の作曲はガレバン（GarageBand）で始めて、ボーカルを立てる前提で歌ものを作っていました。ただ、今でこそ歌っていますけど、当時は自分が歌うという発想も機材もなく、ボーカロイドを聴いて育ったからボカロへの憧れもあり、好きな『v flower』を購入して、ボカロを始めた感じです。
――楽曲制作で大切にしてることは何ですか？
N-Roach：“ポップスを作る”ということをテーマにしているので、最終的には笑えるものにするということを気をつけています。自らの作品なので何を言ってもいいとは思うんですけど、怨念とか出てきたり、攻撃的にならない、誰にでも分かりやすいものになればいいなと思っています。
――遊び心みたいなことでしょうか？
N-Roach：それもそうですし、あまり深刻にならないということを大事にしてます。
グミ山：あと「2人とも飽きないように頑張ろう」ということは話してます。飽きたらすぐに投げ出しちゃうような人たちなので、なんとか新しいことをやりたいなというのは常に思っていますね。
――飽きるというのは音楽制作にですか？ それとも取り組んでいるジャンルみたいなことですか？
グミ山：どっちもですね。音楽制作っていうとちょっと極端かもしれないですけど、でも本当に「一年くらいやらなくていいか」ってなったり、曲を出さないことも全然あったので。そうならないように新しいことに取り組んだり、メッセージの部分も変えていこうとしています。
――Δさんはどんなことを大切にしていますか？
Δ：自主制作について意識していることが強いてあるかと言えば、自分の好きなものを作るということですね。音楽で情景が浮かんだ原体験があり、自分でも何かしらの聴後感を求めて、例えば記憶や視界を切り取るような表現を試みていることが多いです。クライアントワークでも自分が好きだと思えるものを提供できるように心がけています。自分が作った昔の曲を後から聴き直した時に、制作した当時と今とでは当然好みは変わっているんですけど、俯瞰でもいいなと思えるものを作り続けてこれているのは嬉しいことだと思っています。
――ボカロ音楽やボカロカルチャーの魅力は何だと思いますか？
N-Roach：世の中が、“何を”言っているかよりも“誰が”言っているかを重要視するようになってきている気がしていて、コンテンツやメッセージを作ったとしても、それが受け手に届くまでに「誰が言ってるんだ」「お前が言うなよ」と叩かれる風潮があると思うんです。でも、自分たちは歌わないので、そこの障壁を突破していけるのがいいかなと感じます。作ったものの純度を高めて、音声合成ソフトという歌声を使っていろんなものを隠してコンテンツ化できる。それはほかにない強味なんじゃないかなと思います。
グミ山：あとは、「売れたい」とか「メジャーに行きたい」という気持ちの人から、ただ「今日あったことを表現したい」というだけの人まで、とにかくいろんな人がいるのが魅力ですよね。いろんな年齢だったり、いろんな音楽ジャンルとか文化的なバックボーンを持った人が、みんな音楽をやって音声合成ソフトに歌わせて作品を出している。それも何千人という規模の人たちが。それだけでめちゃくちゃ面白いと思うんですよ。普段、日常で知り合う人で家で音楽を作っている人ってあんまりいないと思うんです。ボカロPの中には、何かしらの信条の違いで喧嘩している人もよくいるんですけど、それでもみんな音楽をやっている時点で結構面白いなって思うんです。そもそもお金を稼ごうと思ってボカロをやっていたとしたら、多分あんまり効率的じゃない。それなのにあれだけの人が創作に向き合って頑張っているのが好きだし、音楽を作って、絵を描いたり、描いてもらったりして、動画にして出すという、みんなが同じフォーマットに揃えているというのが面白いなと思います。
Δ：2人の言ったことに尽きるのですが、ローチ（N-Roach）さんの言ったことは自分にも思い当たることがあるし、グミ山さんの言う、いろんな好みや思考を持つ人がいる中で、音声合成ソフトが共通言語になっているというのも魅力だと思います。全然違う人生を歩んできた人が音声合成ソフトでゆるく連帯できる。それがボカロの魅力だと思います。
――キツネリさんとΔさんはプライベートで交流はあるのでしょうか？
Δ：クラブの現場でお会いすることがあります。
グミ山：共通の知り合いの中によくイベントを企画してくれる人がいて、そのクラブイベントで会うことが多いです。
Δ：そうですね。見に行ったら、そこにいつもいるみたいな感じ。あとDJの練習をローチさんに教えていただいたこともあります。
――お互いの作品にはどんな印象を持っていますか？
Δ：2人って楽しそうでいいなあって（笑）。
グミ山＆N-Roach：ははは。
Δ：キツネリさんの制作フローって、どうやっているんですか？
グミ山：本当に曲によりますね。お互いに詞も書くし、メロディも書く。最終的なアレンジは僕がやるので、そういう意味では最後は僕が曲として落とし込むんですけど、それ以外の部分は2人でやります。なんとなくのデモの段階からお互いに作って、何ラリーもしていくうちに、どっちが作った感じでもないものになっていくんです。
――Δさんはキツネリさんの作品でいちばん好きな楽曲は何ですか？
Δ：順当に「HYPERMARKET」とか「MaDiVA」はめっちゃアンセムだなと思っています。でも、一曲だけ挙げるとしたら「赤色3号」かもしれないです。タイトルを見て「何これ？」ってなって、曲を再生して一秒で理解するみたいな、そういうタイトルセンスすごいなって思います。韻の心地よさもすごくて、歌詞もめちゃくちゃいい。それが上質なよれよれビートに乗っていて、効果音の使い方もめちゃめちゃ天才。“キツネリでしか吸えない栄養”って感じがします。本当に好きですね。
グミ山：嬉しいです（笑）。Δさんの印象は、僕らと比べるとちゃんとしているなって思います。
Δ：でも、ポップスのフォーマットに則ってちゃんとした作りをしているのはネリさんのほうだと思いますよ。
グミ山：いやいや、センチメンタルな要素だったり僕らにないものがΔさんの曲にはあるんです。たとえばトラックは、ほかのボカロ音楽にはないくらいボトムがちゃんとしていて「こういう音楽が好きなんだな」っていうのが伝わってくるんです。僕が好きな曲は「アンダードッグ・ファンク」なんですけど、それで言うとこの曲は逆に僕ら側なのかなっていう。
Δ：たしかに、そうですね。
グミ山：全体的に楽しい感じだったり、ビートの感じがほかの曲はイーブンのものが多いけど、この曲はファンクって要素を出してますよね。だから本当はもっと引き出しがあるんだろうなと感じているんです。結構僕らとは違いもあるけど、共通しているクラブミュージックの好きな部分も感じますね。
N-Roach：テクニカル以外のところで言うと、自分の表現を諦めずに作っているのは素敵だなと思います。僕はロジックを積み重ねて、こういうのが適切かなっていうのを考えたりするんです。でもΔさんはそうではないアーティスティックな作り方してるのかなと。それが素敵だなと思っています。
Δ：めっちゃ嬉しいです。ありがとうございます。キツネリさんの曲は、お2人でやっているからこそだと思うんですけど、バランス感があって、聴いた時の印象は属性として光。明るいなって思っています。滲みでてくる設計思想みたいなところとか、レイドバックしたチルな感じとか、まとまりがすごいなと思います。
