新イベント『GOAT』で体感する次世代バンドの胎動 HIKAGE、TIVE、WORSTRASHからcoldrainまでが熱演!

新イベント『GOAT』レポート

 『KTR presents「GOAT」Supported by キメラズノボス』が9月11日、東京・Spotify O-WESTで開催された。

 『GOAT』は、『REDLINE』の主催であるKTRが原点回帰を掲げて新たに始動させたイベントだ。この情報にピンとくるロックファンも多いだろう。

 『REDLINE』は、若手インディーズバンドのプッシュを目的として2010年に始まった。15年の歴史の中で、HEY-SMITH、クリープハイプ、SiM、ROTTENGRAFFTY 、BLUE ENCOUNT、coldrain、Crossfaith、SUPER BEAVERらが出演。今やロック/ラウドシーンを引っ張るバンドばかりだが、『REDLINE』初回出演時の彼らは今よりも若く、『REDLINE』で行われる対バン、ツアー形式でライブハウスを回る濃密な日々を通じて、しのぎを削ってきた。

 「次世代バンドの誕生」という『REDLINE』が描いた夢を各バンドが体現していったことや、イベント自体の認知向上もあり、『REDLINE』は次第に大きなイベントになっていった。一方、同時期にフェスシーンが発展し、「フェス=“音楽はもちろん、それ以外にも楽しめる要素満載の一大レジャー”」というイメージが一般的に浸透。音楽そのものに重点を置く『REDLINE』が理念を貫くにあたって、イベントを大きくしていくことは必ずしも是なのか? というジレンマが生じた。

 『REDLINE』は、2024年12月に幕張メッセ 国際展示場 9-11ホールで開催された『REDLINE ALL THE FINAL 2024 〜15th Anniversary〜』で歴史に幕を下ろすことに。そして新たに、『GOAT』が始動した。そんな経緯があるため、『GOAT』は『REDLINE』の魂を受け継いだイベントとなっている。「より多くの人にバンドと出会ってほしい」という主催の想いからチケット代は無料、そして来場者によるライブの写真・動画撮影、SNSへの投稿もOKとされた。これは、ロックバンドにとっての“事件”は、ライブハウスという“現場”で起こるものだと理解し、自分自身で目撃しにきた観客を信頼した上での試みだろう。

 この日はHIKAGE、TIVE、WORSTRASHが出演。また、シークレットゲストとしてもう1組バンドが出演することもアナウンスされていた。

WORSTRASH

 記念すべき『GOAT』初回の火蓋を切ったのは、WORSTRASHだ。300組以上が応募したオーディションを勝ち抜いて『REDLINE ALL THE FINAL』に出演した彼らは、『GOAT』と『REDLINE』の両方に出演する唯一のバンド。「たった今この瞬間から『GOAT』っていう新しい伝説が始まる。歴史の一部になる準備、できてますか!?」と呼びかけてからライブをスタートさせた。彼らは、カラッとしたポップパンクを基本としつつ、ヒップホップ、エレクトロ、ラウドなどの要素を巧みに掛け合わせている。新世代ならではのミクスチャー感覚とともに音楽を鳴らしながら、「こういうロックもいいでしょ?」と笑ったり、観客のリアクションに「いいね」と親指を立てたり、クラウドサーフで流れてくる客とグータッチを交わしたり……汗と笑顔を光らせる姿が印象的だった。

『GOAT』ライブ写真
WORSTRASH

『GOAT』ライブ写真

 そんな彼らは、いろいろな人にライブを観てもらえるこの機会は、KTRがバンドに与えたギフトであり、自分たちは観客に「この距離でのライブの熱さを感じてもらう」というギフトを贈りたいと語っていた。その言葉通りのライブに、フロアの熱量は上昇。「Oh my no mind」ではWOD(ウォールオブデス)を煽り、最終曲「Teenage Vibes」ではLen(Vo)が観客の密集するエリアに飛び込むなど、感情を爆発させながらのエンディングとなった。

『GOAT』ライブ写真

『GOAT』ライブ写真

TIVE

 続いて登場したのはTIVE。関西ハードコアシーンで個性を発揮する彼らは、今回のイベントでも異質な存在感を示していた。佐伯 基(Vo)が観客に「いっぱい来てください」と告げ、ライブをスタートさせた直後、嵐のように激しく重いビート、歪むベース&ギター、シャウト/スクリーム主体のボーカルが炸裂する。あらゆる要素において極点を目指しながら4人が鳴らす爆音は、観客の血を沸騰させ、原始的な快楽を促すもの。しかし同時に、そこには単なる激しさを超えた何かがあった。MCを一切挟まず、ひたすら音楽を叩きつける彼らの姿は、まるで古代の儀式を執り行う祭司のような厳粛さを湛えている。

『GOAT』ライブ写真
TIVE

『GOAT』ライブ写真

 熱狂した観客によるクラウドサーフやステージダイブが多発するなか、前に乗り出して歌う佐伯は、前方の観客にマイクを向けることも多い。佐伯と観客がマイクを奪い合っては叫び合っているような光景が強烈だった。言葉では説明しきれない、理屈を超えた圧倒的な体験。そんな激動の中で披露された最終曲のタイトル「触れるものすべてと血を通わす」が、既存のフォーマットや社会の常識に抗い、自己の表現を追求するバンドの生き方、最も純粋な状態で観客とぶつかろうとするライブの在り方を象徴していたように思う。全6曲、短い時間の中に凝縮された強烈な衝撃は、終演後も会場に余韻として残り続けた。

『GOAT』ライブ写真

『GOAT』ライブ写真

coldrain(シークレットゲスト)

 ここで、シークレットバンドのセッティングのため、ステージが紗幕で隠される。そしてセッティングが完了すると、幕越しにバンドメンバーのシルエットが浮かび上がり、場内に歌声が響いた。この歌声の主はMasato(Vo)。そう、シークレットゲストはcoldrainだ。『REDLINE』の伝説の一端を担ったバンドの登場に、観客は興奮と驚きを隠せない。そして鳴らされた1曲目、coldrain史上最もメタルな曲「NEW DAWN」はライブハウスの至近距離だとなおさら凄まじく、フロアは狂騒の渦と化した。

『GOAT』ライブ写真
coldrain

『GOAT』ライブ写真

 この日彼らは、自身が若手だった頃の曲と紹介した「Die tomorrow」など全8曲を披露。MCではMasatoが「この企画、今日で1回目らしいですけど、どんどん続いて、『BLARE FEST.』(coldrainの主催フェス)のメインステージに出られるようなバンドが出たら、一緒にやれる仲間が増えたらいいなと思います」とこれからの若手バンドへ眼差しを向けたが、とはいえ手を差し伸べるのではなく発破を掛けるのが彼らのやり方であり、アグレッシブなライブが続いた。そして最終曲は「The Revelation」。言葉以上に雄弁なその圧倒的なライブ自体が、会場にいた若手バンドたちへの最大のメッセージであり、挑戦状でもあった。

『GOAT』ライブ写真

『GOAT』ライブ写真

『GOAT』ライブ写真

『GOAT』ライブ写真

『GOAT』ライブ写真

HIKAGE

 そしてラストには、北海道札幌発、ラウド/パンクシーンに新しい風を吹かせるHIKAGEだ。coldrainの直後とは痺れる出演順だが、これで怖気づくようなバンドではない。強靭なリズム隊、グランジ/オルタナの要素を感じさせるロック魂全開のツインギター、GEN(Vo)の目をギラつかせながらのスクリーム――どれも“攻め”の姿勢を感じさせる。「『やりづれえっす』『なんで俺らがトリ?』……なんて言うわけねえだろ! 先輩方潰さないと、俺たちで新しいシーンを作らないと、いつまでも変わらないからさ」という言葉通りのライブに、観客は熱狂した。盟友バンドとともに無料ライブ『P.H.S』を行っているHIKAGEは、無料ライブがいかに難しいかを理解している。その上で「だからこそ、今日ここに来た人が『ロックシーン最高だからみんな遊ぼうぜ』って(他の人たちを)連れてきてほしい。一緒に上がっていきたいんで、協力してください!」と語るなど、ともにシーンを作っていこうと観客に繰り返し伝えていたのが印象的だった。

『GOAT』ライブ写真
HIKAGE

『GOAT』ライブ写真

 その激しいサウンドとは裏腹に、メンバーが爽やかな笑顔を浮かべていたのは、仲間と認識する観客の盛り上がり、理解ある姿勢を実感していたからだろう。ライブ終盤では、GENがフロアに飛び込んで、観客に身を預ける。そのまま始まった最終曲の「SiCK」まで、終始気持ちのよいライブだった。

『GOAT』ライブ写真

 『GOAT』初回は、4組それぞれが異なる個性とエネルギーでライブハウスを沸かせた一夜となった。その多様性に富んだラインナップと観客の熱狂が、『GOAT』というイベントの可能性を示していたように思う。『REDLINE』の魂を受け継ぎながら新たな歴史を紡ぎ始めた『GOAT』が、今後、次世代ロックシーンにどのような化学反応を起こしていくのか。今から楽しみでならない。

『GOAT』ライブ写真

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