The Smashing Pumpkinsは今も“生きている”ことを実感ーー往年のメンバーも揃った25年ぶり日本武道館公演

　もうひとつ、この日のライブで興味深かったのが公演中盤に突如演奏された「Take My Breath Away」だ。「愛は吐息のように」の邦題で知られるこの今日は、1986年の映画『トップガン』の挿入歌として全米No. 1を記録した大ヒット曲。The Smashing Pumpkinsは原曲にほぼ忠実なアレンジでこの曲をカバーしてみせ、ビリーもギターを降ろしてハンドマイク片手にステージ上を動き回る。会場の客層を考えるとジャストな選曲かもしれないが、90年代にオルタナティブロックの権化のような存在としてシーンに君臨した彼らが2025年にこの80'sメインストリームのメガヒット曲をカバーするとは、誰も当時は想像できなかったことだろう。このへんの懐の広さも今の彼らならでは、なのかもしれない。

　「Take My Breath Away」で場の空気が和らぐと、ビリーが「ジミー、『Siamese Dream』（1993年）の曲、覚えてる？」と口にし、ジェームスがこれに「……やってみようか」と応えるリラックスモードの会話が繰り広げられる。これに続いて演奏されたのが、ビリー＆ジェームスのギターが絡み合う「Mayonaise」、荘厳なアレンジがライブにいいアクセントを加えた「Disarm」、ダイナミックな演奏でクライマックスへと導く「Cherub Rock」といった『Siamese Dream』収録曲だった。その合間にはドリーミーな「Tonight, Tonight」も織り交ぜられ、バンドの持つ多面性が凝縮されたセットリストでオーディエンスを大いに楽しませ続けた。

　ライブ終盤にはニューウェイヴ色濃厚な異色作『Adore』（1998年）から唯一「Ava Adore」も披露。ここでもオーディエンスは盛大なシンガロングで同曲を歓迎してみせる。そして、ドラマシックさが際立つ「Stand Inside Your Love」、ダーク＆ヘヴィの極地「Zero」で会場の熱量をさらに高めていくと、最後の曲に入る前にビリーとジェームスが和気藹々としたやり取りを見せることに。ビリーがレニー・クラヴィッツ「Are You Gonna Go My Way」のギターリフを軽やかに弾き始めると、ジェームスが「Let's go, Tokyo!」と叫んでみせたり、かと思えばビリーがBlack Sabbathの「N.I.B.」や「Paranoid」の名ギターリフを楽しそうに弾き続ける。すると、ジェームスは事前に用意していた歌詞を見ながら「N.I.B.」の一節を、オジー・オズボーンのごとく「Oh, yeah!」などの合いの手を交えながら歌い始め、武道館はアットホームな空気に包まれていった。

　ちょっとしたコミカルなやり取りだったかもしれないが、実はこの空気こそ今のThe Smashing Pumpkinsらしさを象徴するものではないだろうか……そう思えてならない。ライブ中盤で見せた「あの曲覚えてる？」「やってみるよ」などの会話含め、その様子はどこかシカゴでバンドを始めた頃の彼らと重なるものがある……もっとも、筆者はその時期の彼らを実際に見てきたわけではないが、「きっとこんな感じだったんだろうな」と妙に納得してしまう説得力があったのだ。こうした場面からも、今のバンドの雰囲気が良好であることがしっかり伝わったはずだ。

　そんな彼らが最後に繰り出したのが、ハード＆タイトな「The Everlasting Gaze」。バンドがこの曲をラストに持ってきたのも納得するほど、彼らが魅せる爆発力の強さとすべてを解放させるような演奏は圧倒的の一言だった。フィードバック音が鳴り続ける中、ビリーがギターを床に置いてステージを去るとライブ開始からほぼ2時間。先にも述べたように、スタートから終了までが一瞬に思えるほどの没入感で彼らのライブを楽しむことができたが、何度か彼らのステージを観てきた筆者にとってこれは初めての経験だった。

　彼らクラスになると往年のヒット曲だけでツアーを回ることもできるはずだが、カバー曲を交えてステージを楽しんだり、最新作からの楽曲を多めに披露することでバンドが現在進行形であることを示したりと、今回の武道館公演ではThe Smashing Pumpkinsが今も「生きている」ことがしっかりと伝わってきた。そう思うと、〈You know I'm not dead〉というフレーズが連呼される「The Everlasting Gaze」をラストナンバーに選んだのも、彼らならではの強い意思表示だったのだと気付かされる。

　武道館公演から数日経ったが、今もあの日の音が脳内で鮮明に鳴り響いている。輝かしい過去の思い出を更新してくれたThe Smashing Pumpkinsが、次は12年も空けることなく日本を訪れてくれることを、そして今回の記憶をさらに素晴らしいライブで上塗りしてくれることを、今から楽しみにしている。

9月18日KT Zepp Yokohama公演のライブ写真も到着！

■セットリスト
01. Glass Theme
02. Heavy Metal Machine
03. Today
04. Bullet With Butterfly Wings
05. Muzzle
06. 1979
07. Edin
08. Pentagrams
09. Take My Breath Away
10. Mayonaise
11. Disarm
12. Tonight, Tonight
13. Cherub Rock
14. Sighommi
15. Bodies
16. Porcelina Of The Vast Oceans
17. Jellybelly
18. 999
19. Ava Adore
20. Stand Inside Your Love
21. Zero
22. The Everlasting Gaze

■リリース情報
The Smashing Pumpkins（ザ・スマッシング・パンプキンズ）
ニューシングル「Chrome Jets」配信中
配信リンク：https://smashingpumpkins.ffm.to/chromejets
レーベル：Martha's Music

■関連リンク
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