マリブル 海音、長崎原爆と向き合った「1945」に託した覚悟 佐世保から東京へ――“今”の思いを語る

長崎原爆80年に寄せて生まれた新曲「1945」の祈り、次世代の決意
——その後、7月23日には新曲「1945」を配信リリースしました。
海音:テレビ局の長崎文化放送さんから、YouTubeで『ノーモア・ナガサキ 80 YEARS from 194508091102』という特別番組を24時間配信をするから、テーマソングをマリブルにお願いできないか』という長崎原爆を題材にした楽曲の依頼をいただいて。びっくりしたんですけど、原爆には人生の中で一度は向き合いたいと思ってたので、引き受けさせていただきました。
——今年は長崎原爆から80年という節目の年でした。どうして「原爆と一度は向き合いたい」と思ったのでしょうか。
海音:もしアーティストの道を選ばなくても、長崎に生まれた以上は向き合わないといけないというか、そもそも地球で生きているからにはこういう歴史は知っておくことが大事だなと思っていて。長崎では他の県よりは学ぶ機会も多いと思いますが、それでもやっぱ怖くて、あえて向き合い切れずにいたんです。改めて調べまくって寝られなくなったりもしたんですけど、しっかり考えないと失礼に当たると思って、とことん向き合わせていただきました。
——特番に出演したメンバーも言ってましたが、自分も含めて、みんなわかっていながらも避けて通ってますよね。蓋をして見ないようにしてる。
海音:そうですね。きっとそれは長崎県民以外の方も同じ気持ちなんだろうなと思います。だからこそ向き合うきっかけを作らなきゃなと思って、ああいう歌詞を書きました。
——語り部の方から直接被爆体験を聞き、平和公園にも足を運んでいましたが、原爆と向き合ってどんなことを感じましたか?
海音:このテーマに答えはないなと思っています。その上で自分に何を言えるんだろうと考えた時に、すごい月並みな言葉なんですけど、やっぱり「今は平和で幸せ」なんだなっていうこと。そして、これから核爆弾が落ちるのは、絶対に嫌だ、っていう悔しさや焦りを強く感じました。
——『ノーモア・ナガサキ』では「なるべくわかりやすく、直接的な言葉で」と話していましたね。
海音:まずは皆さんに現状をわかってもらわないと何も伝わらないなと思ったので、なるべく直接的に書いたほうが伝わりやすいと思ったし、若い方々にも届いてほしくて。あと、事実を知って、落ち込む時に落ち込めるようにしたいなという思いもあって、挑戦的な意味も込めて直接的な表現にしました。
——詩的な表現やメタファーで誤魔化さずに、真っ直ぐに伝えるということですよね。
海音:はい。ただ、あまりにも暗すぎる曲にはしたくないし、明るすぎる曲にもしたくないし、感情的すぎる曲にもしたくなかったんですよ。なので、個人的にはいい塩梅にできたなと思っています。
——同番組では、テーマを「時計と海」だと伝えていましたね。
海音:あまりにも悲しいことが起きると、心の時計が止まってしまうというか、先が見えなくなってしまう、進めなくなってしまうなって感じて。そこから原爆で「11時2分」に止まった時計を思い浮かべて。そういうものを見ているうちに、「時計」は視覚的にもわかりやすいものなので使いたいなと思ったんです。「海」については、バンド名がマリンブルーデージーで、私自身も「海音」という名前なので、個人的にも「海」が大好きで。しかも、長崎は「海」というイメージも強いので、変わらずにずっとそこにあるものの象徴として、海というテーマは入れたいなと思ってました。
——曲を聴いたメンバーはどんな反応でしたか?
海音:感動してくれてた気がします。ふたりなりに真剣に向き合ってるなと感じました。あと、私がひとりで抱え込まないようにと気を配ってくれていたと思います。この曲の制作段階では、一緒にお泊まりして、アーティスト写真を撮ったり、レコーディングしたりしていて。ずっと一緒に過ごしていたし、深夜まで『この曲のこの歌詞、どうしよう』みたいなことを話し合いながら3人で作っていました。
——レコーディングはどうでしたか?
海音:東京で初めての場所でのレコーディングだったので緊張しました。それぞれ予定が詰まっていて、レコーディングもギリギリになってしまったんですけど、いいテイクが録れたなと思っています。あと、初めて手書きで紙に歌詞を書いて、それを見ながら歌ったんです。すごくワクワクしましたし、すずきと嶺香が「今までで一番(海音の歌が)よかった」って言ってくれたことも嬉しかったですね。
——MVでは、最後に時計の針が動いてますよね。どんなイメージでしたか?
海音:止まっていた時計を海から拾い上げて、また動き出す、というイメージです。個人の見解としては、「これからは見て見ないふりをせず、向き合おう」ということを表してるのかなって。時計はもう止まってないし、動き出しているっていうテーマも含んでるんじゃないかと思います。
——時計の周りにシーグラスがあったじゃないですか。「ずっっっと!」には〈僕らはシーグラス〉という歌詞があったので、マリブルが動き出したようにも感じました。
海音:おお! その感想は初めて聞きました。嬉しいですね。正直、シーグラスはちゃんと考えてなかったです(笑)。
——(笑)。楽曲が完成して、8月3日には佐世保GARNETで初披露しましたね。
海音:初めて行ったライブハウスがGARNETだったので、もう3年以上お世話になっています。逆に気が緩みすぎることもあるんですけど、いいところも悪いところも、全部一緒に成長してきた場所だったので、ライブはすごく楽しかったんですね。距離の近さも感じたし、慣れてるぶん、安心感のあるアットホームな空間だなと改めて感じました。ただ「1945」は初披露だったので、ちょっと緊張しすぎちゃってましたね。どう届くんだろうっていう不安もありました。でも、ライブが終わったあとに「1945」が始まってぞわっとしたとか、いい意味で褒めてくださって。それが嬉しかったです。
——そして、8月9日の特番『ノーモア・ナガサキ』への生出演と生演奏はいかがでしたか?
海音:感じることが多すぎて……ありすぎましたね。感慨深いとしか言いようがないんですけど、思った以上に一緒に向き合ってくれる仲間が近くにいたんだなっていう嬉しさもあったし、もっと届けたいという思いにもなりました。たくさんのスタッフさんや出演者さんたちが、私たちのために動いてくださっていて、その期待に応えたいといういい意味のプレッシャーもあって。こういう経験をこれからもずっと続けていきたいなと思いました。
——番組では「JKバンドからの脱却。次のステップか」っていうナレーションもつけられていましたね。
海音:びっくりしました……! でも、期待してくれてるんだな、と思って嬉しかったです。私たちはその期待に応えるために今頑張っているので、文字にしていただけてありがたかったです。


















