Faulieu.が切り開くガールズバンドの未来 自己表現とアイデンティティの確立――覚悟のツアーを振り返る

4人組ガールズバンド・Faulieu.の多彩な世界観が詰まった名刺代わりの1st EP『My name is Faulieu.』を携えたツアーの東京公演が8月30日に代官山UNITで開催された。
2023年の始動以来、バンドとして新しいチャレンジを続け、濃い時間を過ごしている4人だが、2025年はアミューズに所属してから初のシングル「Voyage」を編曲・プロデュースにT$UYO$HI(The BONEZ/Pay money To my Pain)を迎えて制作し、初のドラマタイアップとなった『子宮恋愛』(読売テレビ/日本テレビ系)で「愛煩い」を書き下ろし。さらに1st EP『My name is Faulieu.』ではメンバー全員が曲を作れるという強みを大発揮し、バラエティに富んだ作品を完成させた。より自己表現とバンドとしてのアイデンティティを深めるなかでの、今回のツアーである。
夏らしさやロックンロールを象徴するカラフルなネオン管が飾られたステージに、SEとクラップに迎えられてそれぞれの個性が表れたTシャツやフットボールシャツを着た4人が登場。Mimori(Dr/Cho)の4カウントで始まったのは、これぞギターロックとも言うべき「紡ぐ」だ。オーディエンスとともに叶えたい夢を背筋を伸ばして届けるような今のFaulieu.にふさわしいこの曲に続いたのは、これまた旅立ちをイメージさせる「Voyage」。疾走感と同時にアンサンブルのボトムの強さが痛快で、5弦ベースを弾くAyano(Ba/Cho)のロートーンがここぞとばかりに効いている。Canaco(Vo/Gt)がハンドマイクに持ち替えてクラップを煽ると、90sのミクスチャーロック感がキッズの気分を思い出させてくれる「Days」に突入。幅広い世代のオーディエンスのなかには、Dragon Ashなどのアーティストとの接点を感じた者もいたのではないだろうか。ガールズバンドには珍しい曲作りのアプローチと、それを昇華できるバンドの骨太さに見入ってしまう。


MCでCanacoが「東京はホーム感がある」と、ツアーで日本をめぐり、再びこの土地に戻ってきた安堵と、これまで節目のライブを東京で行ってきたことが重なるのだろう。だが、4人に気負いは見られない。彼女の歌い出しからトップノートで突き抜ける「聲」が繰り出され、さらに調子を上げていくのがわかる。Kaho(Gt/Cho)のみずみずしいフレージングが眩しい季節を表現する「またね」と、あふれ出す若い恋心を綴るナンバーで、ライブハウスの景色も塗り替えた。さらに視界が拓けるようなSEでひときわ大きな歓声が上がり、バックにタイトルが映し出された「YOLO!!」は、音源以上に演奏の緩急にミクスチャーロックのタフな部分が見え、ビートがブレイクする場面ではCanacoとMimoriが絡みのアクションも見せたことでさらに盛り上がり、オーディエンスのシンガロングのボリュームも上がった。


テンポよく演奏を続けてきたのち、初めてのドラマタイアップである「愛煩い」の曲作りへの向かい方や難しさも話したうえで、バンドにとって手応えのある経験だったことがCanacoの言葉からは伝わってきた。ドラマの表面ではなく普遍的な心情に昇華したことを思いながら味わう「愛煩い」の演奏は、“サスペンスロック”をモダンなアウトプットで表現するヘヴィでスリリングなベースや研ぎ澄まされたギターのオブリガートなど、随所に散りばめられていた。そこからマイナーのグルーヴィーな体感が「隠れんぼ」のファンクネスに自然と繋がったのもいい。ドラムのMimori作詞曲で彼女の持ち味が活かされているのはもちろん、4ビートや2ビートに拍が変わるアレンジもバンドのポテンシャルを感じさせるもので、ライブ全体のいいフックになっていた。いずれ生のホーン隊との演奏も観てみたいと思わせる、いいアレンジなのだ。

暗転したステージからパワフルなドラミングが轟き、ギターのタッピングやよく動くベースラインなど、プレイヤーとしてのスキルも堪能できる「ヨマイゴト」へ。アウトロからAyanoのスラップのソロで繋ぎ、分厚いバンドサウンドが16ビートで跳ねる「エンドロールの前に」が圧を持って迫ってきた。それでいて背景はピクセルアートのレトロゲーム調なのも面白いバランス。演奏の抜き差しがユニークな「ロンリーコンプレックス」、4つ打ちでアップテンポの「下の名前で呼ばないで」と、マイナーかつグルーヴィーなナンバーが続いたこのブロックは、Faulieu.の作品とプレイヤービリティの相関を存分に見せてくれた。しかも、6曲をシームレスに演奏する構成力は彼女たちが重ねてきた時間と努力の濃さを裏付けていたと思う。


濃く激しいタームのあと、ステージにエレクトリックピアノが運び込まれ、フロアがざわつく中、Canacoが「激しいだけがFaulieu.のライブではないので」と、ツアーの国内公演ファイナルかつ東京でのライブならではの趣向で音楽を届けることを伝える。これから演奏するのがCanacoの祖父が亡くなったことをきっかけに書かれた曲であること、「あとになって『ああすればよかった』『こうすればよかった』という後悔はあるけれど、自分が忘れないでいればいい」と気づいたのだという。その気づきを、曲にすることはその最たるものだろう。Ayanoが弾くエレピの優しいフレーズに乗るCanacoのファルセットも心に響く。途中からバンドサウンドが合流し、スケールの大きなバラードへと拡張されていった。

本編最後のMCで、Canacoは今年は初めてのタイアップや『SUMMER SONIC 2025』への出演、ワンマンツアー開催と初めて尽くしだったこと、そしてメンバー4人がそれぞれ作詞作曲を手掛けた1st EP『My name is Faulieu.』の制作で、よりバンドがバンドらしい次のフェーズに入ったことをあらためて話してくれた。そこから、「Hikari」を最初の「ラララ」のコーラスのシンガロングを促しながらスタート。この曲のストリングスも、いつか生で聴いてみたい。きっとそのスケールを今現在も獲得していっているのは明らかだからだ。本編ラストは、夏の終わりを告げる歌い出しが切ない「ナツソラ」で、J-POPの王道をまっすぐ行くメロディと、それを支える大きな演奏の頼もしさをオーディエンスに残すエンディングとなった。


EP『My name is Faulieu.』を軸にこれまでのFaulieu.を一望するような新旧を交えたセットリストで展開した本編に続き、アンコールでもそれを凝縮した「妄想少年」、「君のまま」、「SPICA」の3曲を披露。2023年以降の活動を振り返る映像も映しながらのそれは、すでに2026年に向かう彼女たちの意思表明でもあった。なお、本ツアー後にはふたつの対バンライブ、そして毎年恒例になりつつある12月のワンマンライブ『Faulieu. Presents "Merci 2025”』の開催も発表された。このライブで重大発表も行うのだという。引き続き彼女たちに注目していきたい。

■セットリスト
01. 紡ぐ
02. Voyage
03. Days
04. 聲
05. またね
06. YOLO!!!!
07. 愛煩い
08. 隠れんぼ
09. ヨマイゴト
10. エンドロールの前に
11. ロンリーコンプレックス
12. 下の名前で呼ばないで
13. マボロシ
14. Hikari
15.ナツソラ
En 01. 妄想少年
En 02. 君のまま
En 03. SPICA























