避難所生活からバークリーへ aiko、木村カエラ、柴田聡子らを支えるベーシスト まきやまはる菜の“後悔しない”生き方

まきやまはる菜の“後悔しない”生き方

MHRJ、木村カエラ、柴田聡子……ポップスフィールドへの挑戦

まきやまはる菜 インタビュー(撮影=茉那実)

――その後にコロナ禍になってしまって、一時期はライブができない時期があったと思いますが、それを経て活動の範囲が広がったのはどんなきっかけだったのでしょうか?

まきやま:コロナ禍は本当に仕事がなくて、家で練習してても鬱々としてきちゃうから、「ちょっとだけ日光に当たっておこう」くらいの気持ちで、ベランダで練習した動画をInstagramに上げまくっていた時期があったんですよ。その動画を観てくれて、自分に初めてサポートの依頼をしてくれたのがMHRJさんで。それがきっかけでサポートとかをいろいろさせていただくことになったので、ラッキーだったなと思います。

マハラージャン -比べてもしょうがない [Official Live Video]

――ポップス方面に活動が広がっていくのは、まきやまさん自身が望んでいたこと?

まきやま:そうですね。歌モノというか、サポートはやりたいなとずっと思ってて。お恥ずかしい話なんですけど、どデカいステージでベースをかき鳴らしたいっていう夢がずっとあったんです。それは「プロになりたい」って決めた中学生の頃からずっとあったので、ポップスの仕事はそれを叶えるひとつの方法でもあるなと思ってました。

――それでいうと、僕は去年まきやまさんも出られていた木村カエラさんの武道館を観せてもらってて。

まきやま:そうだったんですね! ありがとうございます。めっちゃ泣いてたやつですね(笑)。お恥ずかしい。

――あの日は夢のひとつが叶った日でもあったわけですね。

まきやま:本当にそうですね。私、カエラさんのことが好きすぎるんです(笑)。アーティストとして本当にかっこいいなと思いながら、いつも背中を見てベースを弾いているんですけど、人となりも本当に素敵で、尊敬の塊みたいな存在。先輩でもあるし、お姉ちゃんみたいな人でもあるし、そんな人と一緒に初めて武道館に立てたっていう、その全部が嬉しくて。だからずっと涙腺にきてたんです(笑)。

木村カエラ - 20 Years of Special Medley "いつか見えるよRAINBOW"

――ただ武道館に立てただけじゃなくて、カエラさんと一緒に立てたのが大きかった?

まきやま:大きかったですね。しかもカエラさんの大事な周年のタイミングで、武道館でベースを弾かせていただいたのも本当に光栄なことでしたし。ありがたさと、嬉しさと、いろんな気持ちでやったライブで、絶対一生忘れないライブのひとつですね。

――ちなみに、以前は本名の「牧山羽留奈」で活動していたと思うんですけど、いつから「まきやまはる菜」に変わったんですか?

まきやま:コロナ禍になるまでは本名で活動してたんですけど、画数が全然よくないらしいっていうのはずっと知ってて。で、コロナ禍になって、まだそんなに仕事もないし、認知もされてないから、母から「今じゃない? 名前変えたら?」って言われて、今の名前は母が考えたんです。

――“菜”だけ漢字なのもお母さんのアイデア?

まきやま:そうです。“菜”で画数を調整してるらしくて。だから本名の“奈”じゃなくて“菜”なんです。

――この名前になって実際仕事が増えてるわけで、やっぱり画数って大事なんですね(笑)。最近で言うと、柴田聡子さんのバンドでの活動も非常に印象的です。

まきやま:聡子さんのバンドではみんなで実験的に音楽をやっているというか、バンドに近い形で音楽をやらせてもらっていて。聡子さんの音楽はすごく面白くて、ポップスだけど、フォークソングでもあるし、R&Bスタイルをフルに使ってもいるし、最近だとみんなアフリカ音楽にハマりだしたり、曲のヘッドアレンジを毎回いろんなジャンルから引っ張ってくるんですよ。パーカッションをみんなでやる時間があったり、本当に“研究”っていう感じ。

柴田聡子 - Side Step

――岡田拓郎くんをはじめ、バンドメンバーみんな面白いですもんね。

まきやま:岡田さんもそうだし、鍵盤の谷口(雄)さんもそうだし、ドラムの浜(公氣)さんは長野県で「CELLAR RECORDS」っていうレコードショップをやっていらして、みんな本当にレコードが好きなんです。ライブのときもギリギリまでレコ屋にいて、毎回バサッ!って買ってきたり、本当に音楽の知識がものすごいチームなんですよね。今ツアー中なんですけど(取材は7月下旬)、今回4日間リハーサルがあって、そのうち3日半くらいは新曲のアレンジに費やしていて。みんなでいろんな音楽を引っ張り出してきて、出てくるワードが「これは何年代のなんとか」みたいな、さすがレコードの人たちだなって、毎回すごく勉強になっています。そこに私もこれまで聴いてきた音楽、それこそミシェルとかの要素もつぎ込みながらやってますね。結局1、2曲のアレンジに3日半くらい費やして、最後の半日に「ヤバい、通さなきゃ!」って。そこで一回だけ通して今ツアーを回ってます(笑)。

――柴田さんのアルバム『Your Favorite Things』のなかで特に好きな曲を挙げてもらえますか。

まきやま:「白い椅子」かな。聡子さんが最初に弾き語りのデモを送ってくれて、コード譜ももらって、みんなでスタジオでアイデアを出していって。自分で言うのも変なんですけど、「白い椅子」はめちゃくちゃいいベースライン考えちゃったなと思っています(笑)。イメージとしては、ルートがメインじゃなくて、和音というか、コード弾きも入れたら面白いんじゃないかなと思って、ごちゃ混ぜにした結果、生まれたのがあの曲のベース。コードを入れるチャレンジで言うと、もうひとつが「目の下」のイントロ部分だったり、あのアルバムは思いついたものをどんどんやって、実験的に作った部分も多かったですね。

aikoから得た学び「プロフェッショナルを本当に感じた」

まきやまはる菜 インタビュー(撮影=茉那実)

――TAIKINGさんのバンドに参加するようになったのはどういう経緯だったんですか?

まきやま:コロナ禍のとき、最初にMHRJさんに仕事をいただいて、そのすぐあとくらいにTAIKINGさんからも仕事をいただきました。これは偶然なのですが、MHRJさんもTAIKINGさんも、(バンドで)ベースを弾かれてたのがHSU(Suchmos/SANABAGUN.)さんだったんです。なんだか縁を感じました。

――途中でrpmの話をしましたけど、やっぱりSuchmosが出てきて、そこからジャズ、ソウル、R&B系のプレイヤーがポップス方面でも活躍する流れができましたよね。今年からSuchmosは再始動したわけですが、まきやまさんから見てどんな存在だと言えますか?

まきやま:Suchmosは私たちの世代にとってすごく大きくて、“Suchmos”っていうジャンルなんじゃないかなと思っていて。やっぱり出てきたときは衝撃だったし、ポップスの界隈であんなにR&Bのスタイルを落とし込んだサウンドはなかったですよね。Jamiroquaiとか、海外ではもちろんヒットしていたけど、日本であのスタイルで大きくなった本当に唯一無二のバンドだったんじゃないかなって。で、その影響を受けた子たちがまたバンドを組んで、ポップスをやるっていう流れもできて。

――その中でも特にHSUくんの存在は大きかったわけで、ベーシストとして刺激を受ける部分も多かったでしょうね。

まきやま:「ベースってかっけえ!」ってなる人というか。曲を聴いていて、ついついベースに耳が行っちゃうような、存在感のあるベーシストだったなと思って。本当に全曲ベースがめちゃくちゃキャッチーで、リフとしてすごく前に出てくる。「STAY TUNE」もまずみんなベースを歌っちゃうみたいな、フレーズを生む天才だと思いますね。

まきやまはる菜 インタビュー(撮影=茉那実)

――今年はaikoさんのツアーへの参加も大きなトピックだったかなと。

まきやま:そうですね。3公演やらせていただいたんですけど、めちゃくちゃ濃かったです。ずっと聴いてきたアーティストだったし、まさかご一緒できると思っていなかったので、本当に嬉しかったですね。本人のストイックすぎるくらいの音楽への向き合い方、ファンへの向き合い方、ベースを弾きながら背中を見てて、もうすさまじくて。プロフェッショナルを本当に感じた瞬間でした。本編が二十何曲あって、アンコールがあって、そこで終わらずにダブルアンコールがあって、本番のステージ上でご本人が思いついた曲を何曲かやって。全部で3時間超えのセットになるんですけど、もうすごかったですね。ずっと集中していたんですけど、遊び心にも溢れていて、全力でライブを楽しむことをあらためて思い出させてもらったり、とにかく濃い時間でした。

――今後のご自身のキャリアについては、どんな展望を持っていますか?

まきやま:今後ももちろんサポートとして呼んでいただいた仕事はどんどんやっていきたいんですけど、自分の作品も作りたいと思っていて。PAJAUMIのバンドとしての活動が終了したこともあって、あらためて自分の音楽と向き合うことの必要性をずっと考えていて。なので、これは自分に対する宣言でもあるんですけど(笑)。

――言葉を残しておくことで、自分に発破をかける(笑)。

まきやま:使っちゃってすみません(笑)。でも、自分の作品は作っていきたいなと思います。

――9月には熊本で、ひさしぶりにリーダーバンドでのライブがあるんですよね。

まきやま:私に日野賢二さんをつないでくれた方が呼んでくれて。自分のリーダーライブをやるのは4年ぶりくらいなんですけど、そこに向けて楽曲を作りたいなって。4年前にやったライブが結構評判がよくて、YouTubeに上がっているんですけど、なぜか海外の方に多く聴かれているんですよ。それをまたやりたいなと思ったので、同じメンバーでやります。

Live at Portovino - まきやまはる菜/太田卓真/Seiya Onasaka - November 7th 2021

――ドラムがPAJAUMIでも一緒だった小名坂誠哉さんで。

まきやま:あと太田卓真さんという素晴らしいキーボードの方とのトリオで熊本でやって、いつか東京でもやりたいです。そのときはオリジナルメインでできれば。

――オリジナルはどんな方向性になりそうでしょうか?

まきやま:自分のルーツにあたるジャズやR&Bを活かしつつ、近年は歌の方とご一緒させていただくことが多くなったので、ボーカリストを迎えた形もやってみたいし、自分がやってきたいろんなものを組み合わせたような音楽が作れたらいいなと思います。今はまだ模索の段階なので、9月のライブの話も最初いただいたときは結構悩んだんです。しばらくリーダーライブをやっていなかったし、インストのライブもやっていないですし、若干避けていたところもあって。でもこんな機会はなかなかないので、自分のチャレンジ的なライブでもあるし、いいきっかけにしたいなと思っています。

まきやまはる菜 インタビュー(撮影=茉那実)

※1:https://realsound.jp/2024/08/post-1729997.html

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