BTSのカムバックは成功するのか? 空白期にK-POPシーンに起きた変化から考える

 BTSのカムバックが、2026年春予定と発表された。新しいアルバムのリリースとともにワールドツアーも予定されているとWeverse LIVEでメンバー本人の口から語られたのだ。今回はグループとしての空白期と言える2022年〜2025年のあいだのK-POPシーンの変化を振り返り、BTSのカムバックへの影響について考えてみたい。

 K-POPでは女性グループと男性グループで大衆性やファンダムの動きが異なる。そのため、今回は男性グループを中心に見ていきたい。男性グループに関しては、2010年代後半から韓国内で“大衆性”より“ファンダム向け”を意識した活動が濃くなってきた印象もあり、また実際のビジネスにおいてもファンダムの動きや規模が特に重要となっている。BTSもグループを世界有数のボーイズグループにまで押し上げたのは、“ARMY”と呼ばれるファンダムの存在が主体であり、その強烈な勢いが後押しとなって一般層にまで届く大きなムーブメントとなったことは記憶に新しい。このK-POP第3世代ボーイズグループでより明確になった動きは、そのままコロナ禍前後にデビューした第4世代に継承され、同じBIGHIT MUSICに所属するTOMORROW X TOGETHERとHYBE MUSIC GROUPレーベル・BELIFT LAB所属のENHYPENなどは、いずれも2022年から2023年にかけて高いファンダム火力でアルバム初動販売数100万枚〜200万枚超えを達成。JYP EntertainmentのStray Kidsは、初動460万枚を超えるなど破格の存在感を示した。

Stray Kids "특(S-Class)" M/V

 第3世代の人気グループのNCT DREAM、SEVENTEENなども、アルバムの初動が360万枚〜500万枚超えという歴代記録に残る販売数を記録。2020年のBTS『MAP OF THE SOUL : 7』の初動販売数が約340万枚だったことを踏まえると、世界的にK-POPのアルバム市場とファンダム規模の拡大は、コロナ禍で“ヨントン”(映像通話でアイドルと1対1で対話できる特典)という国境を越えることのできる購入特典イベントが誕生したのちの2023年あたりがピークだったと言えるだろう。

 2023年は、一般的に男性よりもアルバム販売数が少ないとされる女性グループにおいても、aespa、IVE、LE SSERAFIM、(G)I-DLE(現I-DLE)と、初動販売数100万枚を超えるグループが複数現れた。おそらく、コロナ禍でK-POPアイドルに直接会える機会が韓国内でも減少し、韓国外ではほぼ皆無になるという特殊な状況により、韓国内外の“ファン活動”の熱量がアルバムの購買へと集中したことが、この時期にアルバム販売数が驚異的に増加した一因と考えられる。

aespa 에스파 'Drama' MV

 その後、コロナ禍明けと言える2023年を境にデビューしたK-POPアイドルは“第5世代”と呼ばれるようになった。2020年代に入ってから男性グループの楽曲が大衆性指標のひとつとなる音源チャートでロングランヒットすることは珍しくなったが、2023年にデビューしたBOYNEXTDOORとRIIZE、2024年デビューのTWSは音源チャートでヒットを生み出した。特に、HYBE MUSIC GROUPレーベル内KOZ ENTERTAINMENT所属のBOYNEXTDOORは今年初頭にリリースした「IF I SAY, I LOVE YOU」がロングランヒットしており、年間の音源チャートでも上位に入ることが予想されている。いずれもかつての「K-POPといえば」というイメージの派手でメリハリの効いた転調や攻めたサウンドのダンスミュージックというよりは、韓国で“イージーリスニング”と呼ばれるジャンル(一般的なイージーリスニングジャンルとは異なる)のBGMにしやすそうな、聴きやすくて耳触りの良い曲調が特徴だ。

BOYNEXTDOOR (보이넥스트도어) '오늘만 I LOVE YOU' Official MV

 また、2022年以降から現在まで新たな動きとして目立つのは、韓国の芸能事務所による海外での現地化グループデビューの増加だろう。かつては主に中国で実践されることが多かった「K-POPアイドルのシステムによる現地化グループ」だが、2016年以降続く韓国芸能の規制の影響もあるのか、近年は主に日本でその手法が実装されることが増えつつある。女性現地化グループの先駆けとも言えるNiziUを手掛けたJYP Entertainmentは、その男性バージョンとなる『Nizi Project Season 2』(日本テレビ系/Hulu)からNEXZを2023年にデビューさせた。NEXZはメンバー全員が日本出身だが、韓国籍のメンバーも含まれる。HYBE JAPAN傘下のYX LABELS所属の&TEAMは日本出身メンバー7名と韓国出身、台湾出身メンバー各1名で構成された2022年デビューのグローバルグループだが、日本と韓国両方で音楽番組、バラエティ、コンサートと活発に活動しており、韓国内でも着実にファンダムを築いている。YX LABELSからは今年J-POPボーイズグループのaoenもデビューしたばかりだ。

aoen '青い太陽 (The Blue Sun)' Official MV

 SM ENTERTAINMENT所属で国境を越えた“無限拡張”をテーマとしていたNCTからは、NCT最後のユニットとなるNCT WISHがサバイバルプログラムを経て2024年にデビュー。日本出身4人と韓国出身2人というメンバー構成で、デビュー前から日本で活動。その後に日本と韓国で同時デビューしてからは韓国内でも活動を行うことで、日本出身メンバーの割合が高い構成ながらも、日韓両方でファンダムを構築しつつある。彼らの事務所の先輩にあたり、日韓活動を知り尽くしたBoAがプロデューサーとなり、ちょうど2020年代から韓国の若年層のあいだで流行しているY2K/Y3Kといったレトロとファンタジーが融合したテイストに、さらにガーリッシュで日本的なノスタルジーと“夢かわエッセンス”を加えて発展させたような独特のイメージは、“WISHコア”と呼ばれ、アイドルファンの枠を超えたトレンドとなった。これらのグループのコンテンツでは韓国語と同様に日本語が飛び交っており、今でも地上波の一部では日本語楽曲が自粛されることもある韓国における変化を物語っている。

NCT WISH 엔시티 위시 'WISH (Japanese Ver.)' MV

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