『ユイカ』初の自主企画『時計草』――とたと紡いだ“今”のリアル 歓びと祝福に満ちた特別な夜!

昨年のKT Zepp Yokohamaでの初ライブ『Agapanthus』からちょうど一年。『ユイカ』が初の企画ライブ『『ユイカ』presents「時計草」#1』をゲストにとたを迎えて豊洲PITで開催した。今年1月には10代最後のライブをKT Zepp YokohamaとZepp Osaka Baysideで行い、4月には上海、広州、クアラルンプールを巡るアジアツアーも開催。そして、5月には『JAPAN JAM 2025』にも出演。ライブアーティストとして急速に成長する彼女が、今後ライフワークになりそうな企画ライブで見せたものを振り返りたい。
花言葉を用いた曲タイトルやステージを部屋に見立てることでも共通点のあるふたり。この日もカーテンを思わせるステージ両サイドのドレープ、そしてフロアランプなどの家具が設えられていた。
先攻を務めるとたは彼女の名前を知らしめた「紡ぐ」でスタートし、続く「ブルーハワイ」では早くもフロアからクラップが起きた。そして、“ベッドルームポップ”を作る彼女のイメージと深く関わる浮遊感のある「押して」と、序盤からカラフルな表現力を発揮。さらに「私が〈ねぇねぇ愛して〉と歌ったら返してくれますか?」と、「片依存」を“共依存”に変化させていくコール&レスポンスも楽しい。


豊洲PITでの初企画ライブが満員になったことを、とたは「彼女の人柄だと思います」と語る。ネット上での出会いから5年を経たふたりは、この日互いの音楽へのリスペクトをカバーで表現したのだが、とたは『ユイカ』の「恋泥棒。」をアコースティックかつチルアウトなアレンジでカバー。この曲が持つ切なさを、少しアンニュイな色に染めてくれた。恋の歌が共通点としてあるふたり。とたは、自身の曲には「お別れが多いんですが、珍しく恋の始まりを歌ってみたいと思います」と、〈小説みたいな恋をしよう/読み返す度に君を知ろう〉というラインが胸にストンと落ちる「君ニ詠ム。」を歌い、会場の誰もが聴き入る。ラストはカントリータッチの「予感」。ラブソングだが、「どこかであなたに会える」というテーマはこの日にぴったりだ。ここで叶えられた喜びに昇華されるパフォーマンスで『ユイカ』にバトンを渡した。



セットチェンジで白いソファも持ち込まれ、より部屋っぽさが増したところに、SEとともにバンドメンバーと『ユイカ』が登場する。4つ打ちのSEに早くもクラップが響き、「盛り上がっていきましょう!」の一声から「おくすり」でライブはスタート。楽隊のような素朴さもEDMタッチが混ざったユニークなアレンジも楽しい。お互いの存在が“おくすり”であり、でも摂取するほど“悪化”しそうな恋の症状、その描き方が面白いのだ。


とたのステージに触発された部分もあるのか「初の自主企画、『時計草』!」と、あらためて今回のツーマンを宣誓する言葉もテンション高め。せつない内容の「イマジナリーフレンド」もアッパーに聴こえるぐらいだが、ファンの真剣に聴き入る様子はこの曲の歌詞の物語性に深く共感しているからだろう。そして、『ユイカ』本人による「恋泥棒。」のパフォーマンスで、とたとのボーカル表現の違いを際立たせる。話し言葉の温度感に近いバースのフロウはまさに〈貴方と目が合う1秒/その瞬間に/やられた/もう抜け出せないや。〉という爆発しそうな心の内そのもので、サビに向かって熱を帯びる声が物語を加速させる。


さらに6月25日にリリースされたばかりの「花言葉は調べないで」は、ハンドマイクで心の赴くまま、身振りを加えながら動きのある表現で届けていく。王道のJ-POPの親しみやすさと転がるような歌メロが愛らしく、主人公の不器用な純粋さが声の表現でリアリティを放つ。この曲は『りぼん』(集英社)に連載中の人気漫画『青に落雷』のイメージソングとして書き下ろされたもの。作者の虹沢羽見とは「好きだから。」をはじめ、「運命の人」、「すないぱー。」のコミカライズでもコラボしており、青春の甘酸っぱい物語はお互いのファンを魅了するに余りある。MCでもこのことに触れ、実は物販でも販売しているコミックスをさらにプッシュするつもりが、開演前に売り切れてしまったのだとか。「『ライブが終わったら買いに走って!』って言いたかったけど、売り切れたので、本屋さんかAmazonで!」と関西弁全開でアピールしていたのも元気いっぱいの彼女らしい。

そして、とたの「恋泥棒。」カバーを「かっこよくなかった?」とフロアに声を求めると、「チルかった!」「めっちゃチルかったよね!」と会話が弾み、そのお返しとしてとたの「Transpose」をカバー。原曲のポストロックなムードをバンドで再現し、『ユイカ』のボーカルのハマりのよさには新鮮な驚きも生まれる。チャレンジのニュアンスは、本当にやりたいことを隠さず、アーティストであり続ける覚悟を歌う「紺色に憧れて」に自然につながり、共感がフロアのテンションをさらに上げ、「あなたの人生はあなたが主人公です。大事に大事に生きてね!」と、具体的な言葉をフロアにかけると会場は手を挙げて応えていた。

シリーズのタイトル『時計草』には熱情やリスペクトの意味があるのだと語り、第一回にはライバルでもあるとたをどうしても招きたかったと話していた『ユイカ』。そして、そのテーマに沿って今後も開催していきたいと口にする。
「LINE」の描写や“好きバレ上等”などの精神でティーンの日常をリアルに映す「一途な女の子。」でさらにもう一段盛り上がりを見せたあと、初ライブ以降の一年間で実にさまざまなライブを経験してきたことを振り返り、「今年で4歳になる曲があるんですよ」と、『ユイカ』の本格的な始まりの契機である「好きだから。」をセット。何度聴いても腑に落ちる感覚が満点なバースはアコギのアルペジオに乗せて歌い、サビでバンドサウンドが入ると会場全体が彼女のライブアーティストとしての一年、そして出会えたことへの祝福を全身で表していた。

アンコールではとたを招き入れ、ふたりのソファトークが加熱。部屋で会話するようにSNSでの出会いなどをとめどなく話したあと、この企画ライブのために書き下ろした「時計草」を初披露してくれた。隣の芝生は青く見えがちだけれど、当人は枯れた芝生を隠しているのかも。だから、あくまでもあなたの人生のヒーローはあなたであってほしいという明快なメッセージが届き、初披露にもかかわらずシンガロングも繰り返す毎に大きくなったのだった。とたを送り出し、記念すべき『時計草#1』はまるでパレードのような祝祭感を伴う「すないぱー。」でエンディングを迎えた。
2020年代の今を象徴する若いSSWの世界観を共演によって可視化した部分もあった今回。2回目以降の開催も、『ユイカ』世代のリアルを見せてくれそうで目が離せない。

























