TOMOOが救われてきたある言葉とは 「LUCKY」にも反映された“変わらないもの”と“変わっていくもの”への眼差し

TOMOO、不変と変化への眼差し

 京都アニメーションによる新作TVアニメ『CITY THE ANIMATION』(TOKYO MXほか)のエンディング主題歌として書き下ろされた、TOMOOの新曲「LUCKY」。風変わりで愛すべきキャラクターたちが暮らす、「ユートピア」のような街を舞台に繰り広げられる群像劇。その可笑しくも、ふと胸を締め付けられるような作品にインスパイアされたメロディには、日常への鋭い観察眼と人々への優しいまなざしが交差する、彼女ならではの言葉が重ねられている。

 キャロル・キングを筆頭に、TOMOOのルーツの一つである70年代シンガーソングライターを彷彿とさせるエバーグリーンな旋律を、小西遼(象眠舎、CRCK/LCKS)のプロデュースが柔らかく包み込む。乾いたアスファルトを歩くようなAメロ、風が吹き抜けるBメロ、思わず口ずさみたくなるポップなサビへと、映像の視点が移ろうように展開していく本作の制作を中心にTOMOOに話を聞いた。(黒田隆憲)(※取材は3月末)

「LUCKY」は自分の根っこにあるものが、そのまま出てきたような歌

TOMOO インタビュー写真(撮影=梁瀬玉実)

ーー新曲「LUCKY」は、TVアニメ『CITY THE ANIMATION』のエンディング主題歌として書き下ろされたものですが、原作を読んだ時にTOMOOさんはどんな印象を持ちましたか?

TOMOO:一言で言い表すのは難しいんですけど……私にとっては、作品の中の世界がひとつの「ユートピア」だと感じました。ちょっと風変わりというか、一癖ある人たちがたくさん登場していて、中には人じゃない存在もいたりして(笑)。でも、そのキャラクターたちが集まっている感じがすごく好きなんですよね。みんながボケに回っているような瞬間があって、あまりツッコミ役がいない。そういう構図も面白いなと感じました。これが現実なら、場面によってははじき出されてしまう存在かもしれないけど、『CITY』の中ではみんながちゃんとそこにいる。ただのほんわかした優しい世界というわけではないけど、自分もこの街の一員として作品の中へ入っていきたくなるような、そんな気持ちでページをめくっていた気がします。

TOMOO - LUCKY【OFFICIAL MUSIC VIDEO】

ーー曲作りはどのように進めていきましたか?

TOMOO:今回は、最初にサビのメロディが浮かびました。そのあと、「このサビにどうやって向かっていこう?」と考えながら、1番と2番のA・Bメロをざっくりメモ程度に書いておいて、メロディの語感に合わせて言葉を調整していく作業に入りました。まずAメロから少しずつ語感を整え、全体のメロディが固まったところで仮に入れていた歌詞を改めてはめ直していく流れだったと思います。

ーー公式コメントには、「さっきまで声を出して笑っていたのに、ふいになんとも言えない気持ちがぐぐっときて、自然と口ずさむままピアノに向かい、それがサビのメロディになりました」と書かれていましたよね?

TOMOO:その時読んでいた巻数的にはわりとまだ序盤だった気がするんですけど、すごくポップな気持ちと同時に、ほんの少しの寂しさが込み上げてきて。例えて言うなら、夕暮れの帰り道を友達と歩いているときにふと感じる、切なさを含んだあたたかさ、みたいな。

 あと、サビを2回繰り返す間にインストのフレーズがあるんですけど、そこも私にとってはすごく大事な部分でしたね。歌ってはいないけれど、気持ちとしては歌っているような感覚……漫画を読んだときの印象が、その部分にも重なっていて。まるで主人公の南雲美鳥みたいに身体能力が高くてアグレッシブで、ぴょん! と飛んだりくるっと回ったりするような、そんなアクロバティックな動きがあのフレーズにはあるなと。

TOMOO インタビュー写真(撮影=梁瀬玉実)

ーーAメロの〈見つけた私はラッキー〉というフレーズには、自分だけが知っている相手の魅力を発見したような気持ちが込められていると感じました。

TOMOO:私自身も誰かに対して「この人、面白いな」と思うことがありますし、逆に、自分がそう言ってもらえたことで救われてきた実感も強くあるんです。「あんたヤバいね」とか「どうにかしたほうがいいよ」じゃなくて、「面白いね」と言われたことで、これまで生き延びてこられた気がするんです。〈君はぜったい面白い/気づかないのは惜しいよ〉という歌詞も、まさにそういう気持ちから生まれたものです。友達に対して「この人、ぜったい面白い」と思うことがよくあるし、その後の〈私はラッキー〉というのも、「気づけた私はラッキー、気づいてない人は惜しいね」みたいな。

ーーある種の優越感ですね(笑)。

TOMOO:(笑)。そうやって人の魅力をちゃんと見つけたいし、自分もそう見てもらえた時の気持ちをずっと大事にしています。だからこの曲は、『CITY』のエンディング主題歌であり「自分の歌」でもありますね。自分の根っこにあるものが、そのまま出てきたような気がします。

場面や瞬間を切り取ることから生まれるユニークな表現

TOMOO インタビュー写真(撮影=梁瀬玉実)

ーー〈何回でも言いたい!/君は君がいい!〉にも、「そのまま(の君)がいいんだよ」というメッセージが込められていると思い、グッときました。

TOMOO:それって実は、以前書いた「Ginger」でも言いたかったことなんです。歌詞の中に言葉としては表していませんが、リリース時にSNSで「君がいると楽しい。君が生き生きしてるともっと楽しくてうれしい」という一言コメントを添えていて。それが「LUCKY」と、芯の部分でつながっている気がしていますね。〈やっかい!でも楽しい〉というフレーズもそう。「君がいてうれしい」「そのままでいてくれるのがうれしい」という感覚です。

ーー〈ジュース〉や〈太陽〉、〈猫も杓子も走るこの街〉といった、映像が浮かぶような具体的なワードが印象的でした。

TOMOO:ジュースは、どうしても入れたかったんですよ。作中でもジュースを買うシーンが何度か出てきて、真壁まつりちゃんも買っていたし、他にもそんなシーンがあったような……当たり付きのジュースだったかな? なんだかいいなって思ったんですよね。

 最近って、自販機でジュースをあまり買わなくなっているじゃないですか、お茶とか水ばかりで……私だけかな(笑)。でも「ジュース」って響きがかわいくて、ポンポンって跳ねるような感じがして。それが『CITY』の世界観にもぴったりだなと思ったんです。キーアイテムってほどじゃないけど、自然と入れたくなりました。

ーー〈猫も杓子も〉という表現も独特でした。

TOMOO:「杓子」って、あまり普段使わない言葉ですよね? 実は今回書くまで意味もちゃんと知らなかったくらい(笑)。でも前から「猫も杓子も」という語感がすごく好きで、作中には猫的なキャラも出てくるから割と自然に浮かんできたんですよね。たとえば真壁立涌のお父さん・鶴菱は、洋食屋マカベの店長でごはんを作っているので、なんとなくしゃもじのイメージにつながりそうですし。店のマスコットキャラのマカベェも、個人的にはうっすらしゃもじを連想できなくもないビジュアルだったり……? そんなイメージもあって出てきた言葉です。

ーー作品のモチーフとTOMOOさんの日常の視点が、自然に混ざり合っているような印象もあります。

TOMOO:それはうれしいですね。普段の生活でも「この瞬間、面白いな」「なんか切り取りたいな」と思うことがよくあるし、それをメモに残しています。まだそのメモは使えてないんですけどね。何気なさすぎて「これはさすがに歌詞には使えないかも……」となることが多い(笑)。

ーーたとえばそれは、どんなメモがあるのですか?

TOMOO:「飛蚊症」のこととか(笑)。ブルーライトの画面を見てると、視界にもやっとしたものが見えるじゃないですか。あれを見ながら、「これは歌詞に使えるかも」と思ったんです。思ったんですけど、「飛蚊症」という単語を歌詞に入れるのはさすがに無理かなって(笑)。でも意味ありげに感じません? 治す方法がないわけでもないけど、特に生活に支障をきたさなければ「飛蚊症」をそのままにしている人って多いと思うんですよね。それって、替えの効かないレンズが、どうしたって少しずつぴかぴかの新品のままではなくなっていくみたいだし、「誰にも気づかれず少しずつ起きてる変化」として喩えられないかなと。

ーーそれ、めちゃくちゃいいですね。

TOMOO:話しちゃったから、もう使えないですけどね(笑)。あと、炊飯器とか。

ーー炊飯器?

TOMOO:たまにご飯を炊飯器に入れっぱなしにして、48時間くらい経っちゃうことがあるんですよ(笑)。保温状態のままだと意外と持つじゃないですか。それって、ずっと温め続けてる片想いみたいだなって思って。「もう出すタイミングを失ったけど、まだ温かいし、捨てられない」という(笑)。

ーーこれまた詩的でユニークな比喩です。

TOMOO:これももう使えない(笑)。でも、そういうことは日常の中でいつも考えています。

TOMOO インタビュー写真(撮影=梁瀬玉実)

ーー〈いつもと同じフリで/去年と違う夏だ〉や〈今日も 明日も 100年後も ねぇ〉といったフレーズには、時間の流れのなかで変わっていくもの、あるいは変わらないものへの眼差しを感じました。

TOMOO:私、本質的なものって時間を超えていく気がして、不滅なんじゃないかって感覚をずっと持っているんです。たとえば〈100年後〉って、自分はもう生きていないかもしれないけど、それでもこの言葉を使いたくなる。変わらないものへの信頼と同時に、変わっていくものへの敏感さも、自分の中に昔からある感覚なのだと思いますね。

 『CITY』の世界は、そういう意味でも魅力的だなと。完成された、変わらないような空気もあるけど、実際には物語の中で季節が夏から秋に移り変わっていくし、登場人物たちもこれからどんどん変化していく予感がある。その「変わらないもの」と「変わっていくもの」が同居している感じがすごく好きだし、きっと私は『CITY』のそういうところに惹かれていたのだなと。それが歌詞にも反映されたのかもしれないですね。

ーー今回も小西遼さんとタッグを組まれましたが、アレンジ面で特に意識されたことはありますか?

TOMOO:A・Bメロはあまり豪華にせず、「乾いた道を歩いている感じ」を出したいと話していました。気温はちょっと高めで、夏のアスファルトを歩いてるようなイメージ……ベースサウンドも「キーマカレーっぽく」とリクエストしています。

ーーキーマカレー?

TOMOO:そう(笑)。汁気多めのシャバシャバではなく、ひき肉とスパイスがぎゅっと詰まってるような、あのドライな質感……。ベースやドラムも音がちゃんと分離していて、それでいて乾いてる。そこにちょっとだけファンキーさも加えたくて。南雲美鳥の雰囲気と、そういう少し跳ねる感じが似合うなと。あくまで私の感覚ですが(笑)、冷たくてソリッドな音や、ウェットでエモーショナルなサウンドとは少し違う方向を意識しています。

ーーたしかに、70年代っぽいサウンドにも聴こえました。ドライな質感がそう感じさせるのかもしれませんね。

TOMOO:サビは逆に、思わず口ずさみたくなるような、王道のアニメ主題歌っぽさを出したくて。なので、「ここはもう思いっきりポップにしましょう」と小西さんにお願いしました。大勢で「わーっ」と盛り上がる雰囲気も、ちゃんと詰め込めたと思っています。

 で、2番以降はちょっと「秋風」が吹くような雰囲気を出したくて。BメロやAメロの上物のサウンドも、風がひゅうっと吹くような感じにしたんです。映像に例えると、最初は地面を歩く目線だったのが、だんだんと横から並走するような視点に変わって最終的には空から見下ろしてるようなイメージ。

ーークレーンで引きの映像を撮っていくような感覚ですね。

TOMOO:まさにそれです。視点が広がっていくようなサウンドを目指しました。

TOMOO インタビュー写真(撮影=梁瀬玉実)

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