imaseに訪れた5つの転機 ギターを買った日から4年8カ月の道のり――武道館ワンマン前に振り返る!
上京――同世代アーティストとの出会いと広がり「みんなすごくかっこいい」
――3つ目のキーワードには、「上京」を挙げました。2023年春に上京して、同世代アーティストとの出会いや交流が盛んになったことが、ひとつの転機になっているんじゃないかなと思います。
imase:なとり、jo0ji、最近だとmuque、CLAN QUEEN、Chevon、紫 今ちゃんなど、同世代の同じ時期に出てきたアーティストと仲良くさせていただいていますね。みんな個性のある音楽をやっているので刺激になります。ライブも、みんな世界観の作り方が上手くて。たとえば、CLAN QUEENは楽曲自体も統一した世界観で作っていると言っていて、それがライブにも出ているので、そのぶんパワーがあるなと思いますね。いろんなタイプの楽曲をやっている自分とは真逆というか。そういった部分の憧れはあったりしますね。
――CLAN QUEENは強烈な世界観作りが素晴らしいですよね。でも逆に言うと、imaseさんの場合は楽曲の幅広さがあるからこそ、どんなステージに立っても老若男女を楽しませられるエンタメ性の強さがあるなと思います。imaseさんがネクストBUZZアーティストを選ぶ『MEN’S NON-NO』(集英社)の連載も、千里眼の鋭さが光り続けていますね。
imase:ありがたいですね。怖いですけどね、(アーティストから)「なんであいつに紹介されてんだ!」って思われたらイヤだなって(笑)。でも、みんなに喜んでいただけて、すごく嬉しいです。シンプルに、自分がその時に聴いていて「かっこいいな」と思う方を紹介するようにしています。BLACK BERRY TIMESって知ってますか?
――知ってます、聴いてますよ。
imase:めっちゃかっこよくないですか? たぶんこれから注目されると思うんですよね。そうやって「すごくかっこいいから聴いてほしい!」と思うアーティストがたくさんいるので、ちょっとでも(たくさんの人に)知ってもらえたらなって。シンプルに自分の好きな曲をいろんな人に知ってもらえたらいいなという気持ちもありますね。
――まだメインストリームに出てきていない人たちを、どうやって見つけているんですか?
imase:そんなに意識的に探しているわけでもなくて。知り合いに教えてもらったり、仲の良いアーティストを通じて知ることが多いですね。
――めちゃくちゃ素敵な広がり方ですね。コミュニティやシーンと呼ばれるものって、メディアとかが作ろうとしてもなかなか作れるものではなくて、そうやって形成されていくものだと思うんですよね。
imase:たしかに。知り合った人が、知り合いの知り合いだったということも多いですね。みんなすごくかっこいいです。
楽曲制作――松任谷由実とのコラボで気づいた“作為的じゃない曲”の重要さ
――4つ目のキーワードは、「楽曲制作」です。2023年は7曲、2024年は1枚のアルバムと15曲(コラボ含む)をリリース、今年もすでに7曲をリリースと、デビュー以降かなりハイペースで楽曲制作をされてきたと思います。一瞬も止まることなく楽曲制作してきたことが、imaseさんが急速に吸収できている要因のひとつでもあって、音楽歴4年半にして日本武道館に立てるという成功にもつながっていると思うんですけど、imaseさんのなかで「もうネタ切れだ」「作りたいものはない」みたいに枯渇することはなかったですか?
imase:たぶん「もう作れない」みたいなことはないと思うんですけど、「ああいうものを作りたいな」みたいなものがどんどん減ってしまっている感はありますね。でも、アイデアが枯渇した苦労は今までそんなにないかもしれないです。もしひとりでアレンジまで全部をやっていたら「アイデアがない!」というふうになっていたと思うんですけど、いろんなアレンジャーの方と一緒にやらせてもらっているので、このペースでも制作面の枯渇はなかったですね。
――アレンジで協力してくれる人がいるとはいえ、ゼロイチはimaseさんが作らなきゃいけないわけだから、本当に素晴らしいなと思います。納期に苦しむこともなく?
imase:納期的な大変さはありつつ、でも遅れたことはないです。
――すごい!
imase:でも、ポップな楽曲って、なんだかんだ要素が近くなってしまいやすいのかなとは思ったり。それは自分のボキャブラリーがまだ少ないせいのような気もするんですけど。“っぽいもの”は作れるけど、それを超えるものを作らないとなとはいつも思っています。そこがすごく大事な気がしますね。正直、初期のほうが新しさはある感じがしていて。だけど、初期を追うのはあまりよくないなとも思うので、そうじゃない形での新しさが必要だなと。新しさがなくなって、「いい曲だなあ」という感覚で終わるのも、ただ出している感じになってしまうのも、作っていてもったいないので、そういう部分を超える必要がある気がしていますね。
――でも、それで言うとアルバム『凡才』以降は変化があるんじゃないですか?
imase:ああ、たしかに。『凡才』以降のほうが、いろんなジャンルへのチャレンジはある気がします。『凡才』の前まではミニマム寄りの世界観でしたけど、「Dried Flower」、「アウトライン」、「FRIENDS!!!」とかは広がった感がありますね。「Soyokaze」みたいなオーガニックなものもあったり。
――それに合わせて歌詞も、同世代やZ世代を代弁するものや生活に寄り添うものから、全年齢の人間の人生を歌うものが増えてきているんじゃないかなという気がします。
imase:うん、その通りですね。
――それは意識的に変化させたもの? それとも、世界観が広い音に導かれて歌詞も広がっている感覚ですか?
imase:楽曲のテーマや音が変わっているからというのもあるとは思うんですけど、初期のほうは今よりSNSを意識していたから、そっち寄りの歌詞になっている気がして。今はタイアップがあったり、あとはライブもあったりして、SNSのみの意識からは外れていったのかもしれないです。
――テレビやCMで聴いてくれる人や、ライブで対面する老若男女の人たちへ届けることをより意識するようになっていったと。
imase:そうなっている気がします。でも、だからこそ狭い範囲の人への歌詞というか、狭く深く届けることも大切だなと思ったりします。
――それはきっと、世界観が強い曲とライブへの憧れに通ずる想いですよね。でも、隣の芝生は青く見えるから(笑)。SNSで刺さるかどうかは、今も曲を書く時に頭の片隅にはあるものですか?
imase:あります。でも、今のSNSはAメロバズりが多いなと思っていて。サビっぽいサビが伸びているイメージがあまりないんですよね。TikTokの初期はサビが流行っていたと思いますけど、今はサビっぽいサビはあまり流行らない気がしています。でも、ライブではサビっぽいサビじゃない曲を使いにくいですし、CMもサビっぽいものがよかったりすると思いますし。「ムズいよなあ」と思いながら、上手くバランスを取りたいなと思っていますね。でも、SNSで聴いてもらうことはずっと意識しています。
――『凡才』以降、歌い方も意識変化を感じるんですけど、ご自身ではどうですか? しっかり言葉を届ける曲も増えて、imaseさんのなかにはいろんなタイプの曲があるとは言え、最近の「名前のない日々」とか――これは名曲だと思いますけど――“新しいJ-POP”を作ろうとしてできた曲も増えたんじゃないかなと思って。
imase:その通りだと思います。地声で張った声をより使うようになりましたね。ファルセットだとR&Bとかソウル寄りになっちゃうのかなと思って、そういう歌い方や曲調だと初期の頃に似通っちゃう部分もある気がして。力のある歌い方が増えたのは、ライブで歌うことを考えるようになったのも大きい気がします。最近の曲もそうですし、「Happy Order?」とかもそうなんですけど、J-POP的なものをかなり意識して作るようにはなりました。音の要所では洋楽を取り入れつつ、J-POPにすることを意識していますね。でも、どういう曲調が自分に合うのか、まだ探っている部分もあります。それこそ、まだ活動を始めて4年半なので。どうすればJ-POPのなかで自分らしさを出せるのかというチャレンジをしている感じです。
――通例で言えば、活動を始めて3、4年って、まだ自分はどういう音楽を作りたいのかを模索している時期ですよね。トレンドのなかでいかに自分らしさを出すのかというチャレンジは、アーティストを続ける限り、永遠に終わらないものだとも思いますし。それで言うと、ずっと第一線で活躍されている松任谷由実さんとの“文通”の制作を通して、何か学んだことはありましたか? これもひとつの転機になりそうですよね。
imase:このコラボは本当に、自分の人生において光栄すぎますよね。一生自慢できる(笑)。学んだことはいっぱいありますね。ユーミンさんが「作為的じゃない曲が素敵よ」とおっしゃっていて、その通りだなあって。作為的な要素って、どうしても聴き手に伝わっちゃうと思いますし。SNSでウケる要素も作為的な感じや意図が見えちゃうとよくなくて。みんなが好むのは、手作り感やその人の“好き”が込められているものだったりするから、そのひとことにすべてが詰まっているなと思いました。ユーミンさん、いろんな話をしてくださったんですけど、すごく面白くて。MVが「月にいるユーミンさんと文通する」という内容で、「月に行かなくても地球にも月に似ている場所があるのよ」って教えてくださったり。それこそ、ユーミンさんはこれまでとんでもない数の楽曲をリリースされているにもかかわらず、枯渇せずに延々に出まくるアイデア力と瞬発力がすごいなと思いました。インプットの量がハンパないんだと思います。音楽以外の芸術にも造詣が深いし、知識量もすごくて、言葉一個一個に重みがある方だなと思いますね。