I.N.A.「心の中にそれぞれのhideが生きている」 hide with Spread Beaverを再構築した記念ライブの舞台裏

「5月2日はhideの命日だけどもう命日というのはやめよう」

ーーそしていざ本番。ステージに立ったときの実感はいかがでしたか?
I.N.A.:長年の経験のせいか緊張することはなく、平常心のままだったんですよ(笑)。でも今までとは感覚に違いがあってね。
ーーというと?
I.N.A.:1998年からずっと、雲の上のhideと繋がって二元中継、みたいな感覚でやってきたんですけどね。そこを松本裕士さん(hideの実弟)が「今回はhideさんに帰ってきてもらいましょうよ」と言ったんです。帰ってきてもらって一緒にステージをやりましょう、と。
ーー事前に、そういう話があったんですか。
I.N.A.:それをメンバーだけじゃなく、ライブに関わるスタッフ全員に僕がお話ししたんです。「今回はこういう意識でやっていくのでみなさんで共有してください」って。だからみんなそういう気持ちでやっていたと思います。
ーーあの全パートの融合感の背景にはそんな気持ちの統一があったんですね。
I.N.A.:はい。そこがまずこれまでとは全然ちがいましたね。あと、個人的には感傷的な部分がなくなった。うち以外の通常のバンドはボーカルがいて、ギターがいて、ベースやドラムがいて、みんなそこで音楽をやっている。hideの生前ももちろんそうだった。みんながいかに楽しくやるかだけを考えて演奏してる。今回はライブが進んでいくうちに、hideがいるとかいないとか関係なくなってきて、ピュアに音楽を楽しめたっていう感じでした。
ーーそのあたりは、他のメンバーはどうだったんでしょうね?
I.N.A.:直接話はしていないけど、SNSでKIYOSHIくんやD.I.E.ちゃんが言ってることを見ると、感じていることはシンクロしているなと思いましたね。あと、今回、hideの存在が神様になったような気がしたんですよ。
ーー神様?
I.N.A.:神様と言ってもロックの神様ですけどね(笑)。世界にはいろんな宗教があるけど、共通しているのはそれを信じている人の心の中に神様がいる、ということ。それに近い感じで、hideを好きな人の心の中にそれぞれのhideが生きている。お客さん、スタッフ……千人いたら千通りのhideが。ライブ中にそういう気づきがあったんです。おもしろかったのはKIYOSHIくんのMC。5月2日はhideの命日だけどもう命日というのはやめよう。祭りにしよう、って。祭りって祀った神様をーー。
ーー降ろして祝う。
I.N.A.:そうそう! あのMCを聞いて「うわっ、シンクロしてる」ってなった。たぶんお客さんも似たようなことを感じていたと思うんですよね。だからこその一体感というか。そこがこれまでやってきたのとは一番ちがう部分だったかな。


ーー名実ともに本人はステージに降りて来ていたのかもしれませんね。
I.N.A.:そんな感覚がありました。
ーーちなみにひさびさにやって「やっぱりhide with Spread Beaverだな」と感じた部分ってあります?
I.N.A.:途中でグダグダになる部分とか(笑)。D.I.E.ちゃんのコーナーとかのね。
ーーあれも即興で?
I.N.A.:ほとんどは。ああいうの、練習とかしないじゃないですか(笑)? あと、段取りが多すぎてけっこう飛ばしちゃったりもしたんだけど、そこはみなさん第一線で30年以上やってるのでなんとかなっちゃうのがすごかった。
ーー見てる側には全然わかりませんでした。
I.N.A.:今回、WOWOW用にミックスしていて、「演奏力、すごいな!」とも思いましたけどね。還暦の人たちが出す音じゃない(笑)。それどころか「これ、昔より激しくないか」と思うところもあったり。JOE(宮脇“JOE”知史)なんて叩く量、すごいじゃないですか? 20代でやってたことを60でやってるんですからね、もう尊敬しかありません。
ーー今時のメジャーなバンドにはない激ハードな曲も多いですしね。
I.N.A.:年齢を重ねるにつれて、ちょっとテンポを落としたり、キーをさげたりしている人も多いなか、hideの曲は映像との同期が最優先で、それができないからがんばってやるしかない(笑)。


ーーみなさん、個人練習とかもしてたんでしょうかね?
I.N.A.:僕自身、けっこう練習したんですよ。パーカッションに関しては2年間ぐらい触ってなかったんで最初はぜんぜん手が動かなかった(笑)。だから2月から毎日基礎練習して、4月くらいになってようやく曲の練習。KIYOSHIくんも1カ月間、毎日hideの曲を練習してたって言ってたし、K.A.Zはセトリの全曲を譜面に書いたって。書くことで曲を覚える、というのもあるんでね。みんなそれぞれのやり方でやってたみたいです。
ーーステージからお客さんのことは見えてました?
I.N.A.:けっこう見てました。若い人が多かったですよね。「ぜったいにオマエ生まれていなかっただろ」っていうぐらいの人たちが(笑)。親子連れも多かったですけどね。
ーーそんなライブのオンエアに向けて、I.N.A.さんはどんな関わり方を?
I.N.A.:音の方はもちろんのこと、映像の方もかなり細かくチェックさせてもらいました。映像編集の人と何度もやりとりしてライブ感、バンド感が出るように。僕はライブが終わったあともhide関連のDJイベントやっていて、当日の感想をお客さんから聞いていたんですよ。そこで「真ん中のスクリーンにhideがいて、左右のスクリーンにメンバーが映ってるバンド感がすごく良かった」とか聞くと、それを編集の人に伝えたり。そうやってお客さんの声をより反映した作りになっています。
ーー取材前にダイジェストを見せてもらいましたが、ライブ当日以上に拡張現実感がすごかったですね。よほど注意深く見ないとバンドの中にhideさんもいるかんじで。
I.N.A.:スクリーンの中のhideと生で演奏してる我々をさらにオーバーラップさせてますからね。ほんと現実かどうか分からなくなっている。あと、hideのことを初めてWOWOWで見る人のことも考えました。知らない人からすると「え、hideのライブ? どうやってんの」ってものじゃないですか。そこをどう紹介するのか、ってことで導入部分を考えたり。

ーーありがちな質問ではありますが、見どころについて。
I.N.A.:実際のライブを見たことのある人、今回のライブに来てくださった人はもちろんのこと、さっき言ったように「hideっていう名前は聞いたことあるけど……」ぐらいの人にも見て体験していただけたらいいな、って思いますね。こんなことやってたんだ、って。
ーー未だにフォロワーが現れないほどの新しさをね。
I.N.A.:hideって、いつ見ても聴いても新しい、っていうのは未だに言われるんです。ビジュアルも、音楽も、あんなのはあとにも先にもhideしかいなかった。だから流行って終わりじゃなくいつまでもワン&オンリーなんじゃないですかね。15年ぐらい前からかな、生前のhideを知らないクリエイターの人たちが「コラボしたいんですけど」っていう案件が多くなったんです。これって、亡くなって30年近く経つ今現在でもhideが通用してるっていうことですよね。そんなアーティストって他にいます?僕自身は「hideは未来人だった」っていうことで辻褄を合わせてるんですけど(笑)。
【WOWOW番組情報】
特集名:hide生誕60周年記念特集 音楽と映画で味わうhide
<ラインナップ>
『hide Memorial Day 2025 hide with Spread Beaver “REPSYCLE” ~Life is still going on!!~』
2025年6月29日(日)午後6:00~
WOWOWライブで放送/WOWOWオンデマンドで配信
※放送・配信終了後~1カ月間アーカイブ配信あり
『hide 50th anniversary FILM JUNK STORY』
2025年7月6日(日)午後1:30~
WOWOWライブで放送/WOWOWオンデマンドで配信
※放送・配信終了後~9月30日(火)までアーカイブ配信あり
『TELL ME ~hideと見た景色~』
2025年7月6日(日)午後3:40~
WOWOWライブで放送/WOWOWオンデマンドで配信
※放送・配信終了後~6週間アーカイブ配信あり
hide Music Video Collection
2025年7月6日(日)午後5:35~
WOWOWライブで放送/WOWOWオンデマンドで配信


















