森口博子と『GUNDAM SONG COVERS』――“最終章”のその先へ! デビュー40年目の今、挑戦と感謝を語る
水木一郎、堀江美都子から学んだ“アニソンを歌う時に特に大事なこと”
――オーケストラカバーという意味では、中島美嘉さんの「FIND THE WAY」(『機動戦士ガンダムSEED』エンディングテーマ)の選曲も素晴らしいなと思いました。
森口:もう、ぴったりですよね(笑)。オーケストラ企画となった時に、「絶対に外せない!」と思って。原曲をアレンジした島健さんとは、お仕事をさせていただいたこともありますし、島さんのアレンジも大好きなので。それをオーケストラのエネルギーでさらに広げていけば、絶対に美しくなるという確信があったんです。出来上がりも素敵な世界になりました。
――初カバー曲のなかでも意外性がありつつ、素晴らしい仕上がりになったのが、2022年に亡くなられた鵜島仁文さんの「FLYING IN THE SKY」(『機動武闘伝Gガンダム』オープニングテーマ)です。
森口:とてもレンジの広い楽曲で、本当に難しかったです。鵜島さんとはガンダムファミリーとして、いろんなイベントでご一緒させていただいたので、旅立ってしまったのは本当に寂しくて……。ご自身の出番が終わっても楽屋に帰らず、ステージの袖で私の歌を聴いてくれて、終わったあとには嬉しくなる感想を伝えてくださる優しさが忘れられないです。シャイだけど、歌う時には熱い想いをぶつける鵜島さんの世界を、よりたくさんの方に知ってほしい気持ちと追悼の意味も込めて、今回カバーさせていただきました。
――オーケストラの分厚い音にも負けない、魂のこもった歌唱で感動しました。あらためて、今回の「ETERNAL WIND」のセルフカバーについても詳しく教えてください。この曲は以前にも「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~ 2015 Ver.」として、ストリングスをフィーチャーした新録版を発表していました。
森口:「水の星へ愛をこめて」の“35人の森口博子”によるアカペラバージョンを作った際に、40周年を迎えた時には「ETERNAL WIND」の“40人バージョン”を作ろうと、心のなかで決めていたんです。でも、その前にオーケストラ企画の話が出たので、「これは絶対にやらなくてはいけない!」と思って。2015年バージョンもすごく好評だったので、今回はそれをさらに進化させてエネルギーを増幅させました。歌い方もオーケストラに合わせて、ポルタメント(滑らかに徐々に音程を変える技法)やたおやかさ、より大きな世界観を意識しつつ、3コーラスあるうちの1コーラス目はオリジナルのイメージを残すようにしていて。そこから後半に向けて徐々に世界が広がっていくアプローチになっています。
――やはり原曲のイメージは大切にされているのですね。
森口:アニソンを歌う時に特に大事なのは、やっぱり原曲通りに崩さずに歌うこと。それは“アニキ”こと水木一郎さんや堀江美都子さんの背中を見て直接学んできたことで、しっかりと心に刻み込んでいます。ただ、自分でも気づいていなかったのですが、「ETERNAL WIND」の最後のフレーズ〈熱い瞳に やきつけて〉をライブで歌う時、いつの間にかエモーショナルになってしまって、一音だけ少しフェイクを入れるような歌い回しになっていたんです。そのことをボイトレの先生に指摘されて、自分でも「えっ!?」と思って(笑)。
――ライブで何度も歌っている楽曲なので、徐々にその歌い方が染みついていたんでしょうね。
森口:なので、今回のレコーディングに向けて、基本に立ち返って歌う練習をして。そうしたらライブでも自然と原曲の歌い方になっていたんですね。その日の公演後、ファンの皆さんが「今日の『ETERNAL WIND』、最後のフレーズがオリジナルの歌い方になっていて感動しました!」と言ってくださって。「今まで気づかないでごめんね……」と思いながらも、すごく嬉しかったです(笑)。そのことがあってから、「ETERNAL WIND」に限らず、オリジナルに忠実に歌う気持ちがさらに深くなりました。
――すごく素敵なお話ですよね。また、今回は初のMVが制作されたことも大きなトピックです。
森口:私のオリジナルのなかで一番のヒットした楽曲なのに、MVはリリースから34年にして初めてになります(笑)。2日間にわたって撮影したのですが、1日目に楽屋でメイクをしている際、オーケストラの音源を聴いていたんですが思わず号泣しました。こんなに美しくてゴージャスな演奏とともに34年越しでMVを丁寧に作っていただけること、大勢のみなさんと携わっていること、そしてファンの皆さんもきっと待ってくれていたことを思うと、私は本当に幸せ者だなと感じて、いろんな思いで涙が溢れてしまって。本番では泣きませんでしたが、涙を拭きながらメイクを仕上げた撮影初日のスタートでした。
――MV、本当に感動しました。オーケストラに囲まれて歌唱するシーンはもちろんですが、個人的には、序盤に登場する森口さんが光の道を進んでいくようなカットに、森口さん自身の歩みも感じられてグッときました。
森口:すごく嬉しいです。あのシーンは実はもともと撮影プランにはなかったのですが、どうしても自分の歩いている後ろ姿を撮りたいと監督にお伝えして、1日目の最後に時間と戦いながら撮ったんです。そうしたら、プロデューサーのサム(寒川大輔)が「蛍光管を並べて、そこを歩いてみるのはどうですか?」とアイデアを出してくれて。印象的な冒頭のシーンになりました。薄暗い雰囲気も〈闇のかなた〉という歌詞ともピッタリ。その部分のカットは背中から見ると暗闇の彼方に向かっているようでもあるし、横から見るとこれまでの長い道のりを表しているようでもある。いろんな想像をしていただけると嬉しいです。
――ガンダムの世界観に照らし合わせると、それこそモビルスーツがカタパルトから出撃するイメージとも重なりました。
森口:わかります! 「行くぞ!」という気持ちだけではなく、いろいろな想いを背負って行くんですよね。ああ、その見方も素敵ですね。今、鳥肌が立った(笑)。
――(笑)。最初は純白のドレス衣装で、2コーラス目にオレンジの衣装が登場、3コーラス目から深紅の衣装に変わるところにも、何かこだわりがあるのでしょうか。
森口:白い衣装は、歌詞に〈ガラス色の雪〉とあるように、真っ白な雪や平和の象徴として、シンプルなドレスにしました。実は白いドレスも2種類着させていただいていて、ところどころで差し込まれるソロのリップシンクのシーンでは『F91』に登場するセシリー・フェアチャイルドのユリの花を思わせるデザインのドレスを選ばせていただきました。そしてオレンジの衣装はセシリーのノーマルスーツから着想を得ています。3コーラス目に登場する最後の赤い衣装のシーンはオーケストラの演奏とともに世界がガラリと変わり「圧巻!!」という感想がたくさん届いています。ガンダムF91の肩に記されている文字の赤でもありますし、『F91』自体が家族の執着を描いた作品なので “家族愛”の象徴としての赤。もちろん、観る方それぞれの形で受け止めていただいて構わないので、楽しんでいただけると嬉しいです。