森口博子と『GUNDAM SONG COVERS』――“最終章”のその先へ! デビュー40年目の今、挑戦と感謝を語る

“大人のためのガンダムソングカバーアルバム”と題された、森口博子によるアルバムシリーズ『GUNDAM SONG COVERS』。全3作品がリリースされている本シリーズのスピンオフ作品として、全編オーケストラアレンジによる最新作『GUNDAM SONG COVERS -ORCHESTRA-』が6月18日にリリースされた。
本作には、代表曲「水の星へ愛をこめて」「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」のセルフカバーをはじめ、「銀色ドレス」や「遠い記憶」など歴代のガンダムソングが多数収録。オーケストラアレンジが楽曲の新たな魅力を引き出している。しかし、なんと言っても一番の主役は森口の歌声だ。オーケストラを牽引し、楽曲のメッセージを届けるその歌唱は、今年デビュー40周年を迎えるキャリアとほとばしる“ガンダム愛”の成せる技だろう。
インタビューでは、自身にとって“新しい挑戦”だったと語る本アルバムの制作秘話から楽曲リリース当時の思い出、デビュー40周年を迎えての想いまで幅広く聞いた。(編集部)
ファンの熱量が生んだ“最終章”のその先
――『GUNDAM SONG COVERS』シリーズは、2022年リリースの第3弾『GUNDAM SONG COVERS 3』で“最終章”と銘打っていたので、今回のスピンオフ作品『GUNDAM SONG COVERS -ORCHESTRA-』の報に触れた時は「こうきたか!」と、思わず膝を打ちました。
森口博子(以下、森口):ありがとうございます! 3部作で“最終章”とお知らせしたものの、ファンの皆さんからは「もっと歌ってほしい」というお声をたくさんいただきまして。鳴り止まないアンコールに、私もスタッフも驚きと喜びでいっぱいでした。そこで「何かできないか?」と考えていた時に持ち上がったのが、“オーケストラアレンジで歌う”という企画。これまでとはまた違ったアプローチでガンダムソングを表現できる、新しい挑戦ということで取り組ませていただきました。
――まず気になったのは、やはり選曲です。森口さんはご自身としても多数のガンダムソングを歌ってきたわけですが、今回はそのなかから「水の星へ愛をこめて」(『機動戦士Zガンダム』オープニングテーマ)、「銀色ドレス」(『機動戦士Zガンダム』挿入歌)、「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」(『機動戦士ガンダムF91』主題歌)の3曲をセルフカバーしています。
森口:そもそも『GUNDAM SONG COVERS』シリーズは、2018年にNHK BSプレミアムで放送された『発表!全ガンダム大投票』のガンダムソングス部門で、デビュー曲の「水の星へ愛をこめて」が1位、そして初めての『NHK紅白歌合戦』初出場楽曲になった「ETERNAL WIND ~ほほえみは光る風の中~」を3位に選んでいただいたことから始まった企画なので、この2曲は絶対に外せない原点のようなものです。今までとは違うアプローチで楽しんでいただける自信もありました。
――「銀色ドレス」はデビューシングルのカップリング収録曲ということで、今年デビュー40周年という意味でも感慨深い選曲です。
森口:歴史の深い楽曲ですが、タクティカートオーケストラの皆さんの演奏によって、
このアルバムのなかで、驚く程一番キラキラした世界に仕上がったと思います。この曲は『機動戦士Ζガンダム』の挿入歌として作中でたった一度しか流れていないのですが、ファンの皆さんのあいだではすごくインパクトの強い楽曲として、受け止めているというお声をたくさんお聞きするんですが、たまにライブで歌うと(会場の)湧き上がり方が違うんですよ。オンエアされたのは第20話だったので、「水の星へ愛をこめて」よりも先に放送されたんですよね(「水の星へ愛をこめて」は第24話からオンエア)。その意味では私にとって本当に最初の楽曲なんです。
――言われてみれば確かにそうでした。
森口:しかも使用されたのは、フォウ・ムラサメがカミーユ・ビダンを守って宇宙に返してあげる、敵の立場でありながら自分を犠牲にしてまでも守ってあげるシーン。ショッキングでありながらも、犠牲の上に成り立つ命や役割があることを描いた、何とも言えない気持ちになる場面なんですよね。そのシーンにこのキラキラした楽曲が流れると余計に悲しくて、そういった意味でも心に残っている曲なんだと思います。実は私が人前で披露したのも、デビュー曲よりも「銀色のドレス」のほうが先だったんです。ラジオの公開録音だったのですが、すごくドキドキしながら歌った思い出が今でも蘇ってきます。
――この曲の作詞はガンダムの生みの親、富野由悠季監督ご本人(井荻麟名義)ですからね。ご自身の楽曲以外のラインナップに目を向けると、今回は過去の『GUNDAM SONG COVERS』シリーズでも取り上げた楽曲の再カバーが3曲あります。
森口:以前「めぐりあい」を『GUNDAM SONG COVERS』でカバーした時は、全部アカペラだったんですよね、“30人の森口博子”による多重録音で。この曲は本当に美しくて、淡々と始まるAメロから、サビで輪廻転生のように駆け上がっていくところが、オーケストラに絶対ハマると思っての選曲です。
――『GUNDAM SONG COVERS 2』で取り上げた、奥井亜紀さんの「月の繭」(『∀ガンダム』エンディングテーマ)も、オーケストラアレンジにぴったりのセレクトです。
森口:前回、私がコブシをまわして歌ったら、とっても評判がよくて。「こんな歌い方もできるのか!」というコメントをたくさんいただいたんですよね。私は子どもの頃から演歌も好きで、ボイストレーニングで石川さゆりさんの歌とかを歌っていたら、ポップス歌手になるにはコブシをまわしすぎているって、演歌禁止令を出されたこともあったくらいなんです(笑)。でも、今回はそのコブシのある歌い方をオーケストラに乗せたら、さらに神秘的かつ美しい世界になるんじゃないかと思いました。
――原曲も菅野よう子さんによる神秘的な曲調に合わせて、奥井さんが民族音楽的なアプローチで歌っていたので、森口さんのコブシをきかせたアプローチも絶妙でした。
森口:奥井さんの声が柔らかくて包まれるような感じで、すごく素敵ですよね。ガンダム30周年コンサート(『Soul G ~すべての戦士に捧げる音楽祭~』)で初めて生で聴いた時に、あらためて素敵な歌だなと思いました。敬愛する菅野さんの楽曲はレギュラー番組「AnisonDays」でもカバーさせていただいたことがあるのですが、幻想的で美しくて、音の運びも独特で、唯一無二の世界観を放っているんです。ここには、私自身の「大好き!」を選曲に込めました。
――そして、今回初めてカバーする楽曲が4曲。なかでも椎名恵さんの「遠い記憶」(『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』エンディングテーマ)は、きっと待っていた人も多かったのではないでしょうか。
森口:椎名さんの曲は以前にも「いつか空に届いて」をカバーしたことがあるのですが、この曲は素朴で、あたたかくて……「何の欲も出さずに歌うべき曲だ」と思って。このメロディの持つあたたかさをそのまま届けたかったので、あえて癖がでないように気をつけて、ピュアな気持ちで歌いました。
――米倉千尋さんの「10 YEARS AFTER」(『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』エンディングテーマ)も名曲です。
森口:〈10年後の/あなたを みつめてみたい〉という歌詞が素敵ですよね。10年後もそばで笑顔を見ていたいと思える関係性というのは、年齢を重ねると本当に大事なものだと感じるので。10代や20代の頃と50代になってからとでは、この言葉の感じ方が変わると思うんです。きっと当時からこの曲を聴いていた人も、今はこれからの10年後を思った時に、一日一日の大切さを痛感しながら聴く年齢なんじゃないかな、と。
――まさに“大人のためのガンダムソングカバーアルバム”というシリーズ全体のコンセプトに寄り添った選曲ですよね。そういえば、米倉さんとは最近コンサートでご一緒する機会が多いですよね。
森口:そうなんです! しかも、ちっひー(米倉)がこの曲を歌ってくれるんですよ。だから、楽屋で「この曲を今度レコーディングするんだよなあ」と思いながらご本人のエネルギーを浴びていました(笑)。ちっひーもきっと、この楽曲をもらった当時とはまた違った意味合いを感じつつ、ステージで歌っていると思うんです。そういう部分を含めリスペクトを大事に歌いました。