トリプルファイヤー 吉田靖直×んoon JC『FUJI & SUN』特別対談 “アゲアゲではない”独創的な音楽を作る両者の共通点

『FUJI & SUN』特別対談

 2025年で6回目の開催を迎える『FUJI & SUN’25』。富士山を間近に望む圧巻のロケーションで、極上の音楽とキャンプを堪能できるこのキャンプフェスに登場するのが、トリプルファイヤーとんoonという異なる個性を持ちながらもどこか響き合う2組である。

『NEC presents FUJI & SUN ’25』フライヤー

 トリプルファイヤーは昨年10月、およそ7年ぶりとなるアルバム『EXTRA』を発表。んoonも同年11月に初のフルアルバム『FIRST LOVE』をリリースした。今回は、それぞれのバンドからボーカリストの吉田靖直とJCによる対談インタビューを行った。音楽的ルーツの違いや創作のアプローチ、そしてフェスという「非日常」の場がもたらす解放感までーー飾らない語り口のなかで、互いの音楽への共鳴とリスペクトが浮かび上がる。静かな熱とユーモアに満ちた、濃密なクロストークをお届けする。(黒田隆憲)

生きていく上でのテンション感が遠くない気がする(吉田)

トリプルファイヤー 吉田靖直×んoon JC
トリプルファイヤー 吉田靖直×んoon JC

ーーそもそもおふたりは、これまでお話しされたことってありますか?

JC:イベントで顔を合わせることはけっこうありましたよね。ちゃんと話したのは、2019年の『mitsume presents "WWMW"(わくわくミツメまつり)』のときが初めてだった気がします。

吉田:ああ、そうでした。それまでは、意外と普通の対バンでも一緒になる機会ってなかった気がします。

JC:あの頃ちょうど私たちも、ほぼはじめて大きなステージに立てて、自分たちが好きで聴いていたバンドの方々と、一緒に出演できるのがめちゃくちゃ嬉しくて。しかも『WWMM』のときのトリプルファイヤーがめちゃくちゃ良かったんですよ。メンバーみんなで「かっこいい!」と盛り上がっていました。

 私、トリプルファイヤーは『エキサイティングフラッシュ』(2012年)の頃からずっと聴いています。「次やったら殴る」とかは、「怒りのマントラ」みたいにして聴いていた時期もあって。

吉田:ははは、それはすごい(笑)。

JC:バンドの演奏もめちゃくちゃ良いし、その上に吉田さんの声が乗ると、「浸透圧」がすごくて。気持ちよくリズムに乗っている中で、吉田さんの声がふわっと入ってくるから、なんか好きです。

吉田:ありがとうございます。でも、僕らからするとんoonってものすごく高いレベルのことをやっている音楽集団という印象なんですよ。なので、トリプルファイヤーみたいなバンドはみなさんに刺さらないんじゃないかと思っていました(笑)。

JC:いやいや、そんなことないです。めちゃくちゃ刺さってます。

吉田:本当ですか……? 演奏の上手い人を見ると、ちょっとビビっちゃうところあるんですよね(笑)。

JC:私たち、遠征で車移動するときは絶対トリプルファイヤーを流しています。うちのメンバーって、みんな聴いている音楽のジャンルが違うから、シャッフルにしていろんな音楽を聴いていると誰かしら不機嫌になるんですけど(笑)、トリプルファイヤーだけはみんな喜んで聴いてます。

ーー音楽的には、それぞれかなり異なるサウンドを鳴らしていますが、聴いてきた音楽やルーツ的な部分で、共通点のようなものを感じます?

吉田:んoonはどこか、2000~2010年代の香りがしますね。たとえばサンダーキャットらBrainfeeder周辺のフィーリングを取り入れているような……。僕らももちろんそういう音楽は聴いてきていますけど、語れるほど詳しいわけではなくて。

 初期はもっとポストパンク寄りだったのが、だんだんギターの鳥居(真道)くんが民族音楽にハマっていって、最近だとクンビアとか、ダブっぽいレゲエのリズムとか、そういうものを取り入れていったんです。なので、んoonに感じる民族音楽的な要素と、うちらの最近のサウンド傾向って、どこか近いところにあるかもしれないなと。

JC:なるほど。うちはメンバーそれぞれ聴いている音楽がバラバラなんですけど、私もクンビアやレゲエ……レゲエといってもUKダンスホールのような踊らせるサウンドに惹かれる傾向があって。トリプルファイヤーの『EXTRA』は、これまで以上にビートが気持ちよくなっていたし、音の一つひとつが際立っていて。ギターのサウンドも含めてとにかくかっこいい。本当に。

吉田:いやあ、そんなに言ってもらえると照れますね(笑)。上手なタイプのバンドじゃないので……(笑)。

JC:そういえば、Talking Headsに再度ハマってしばらくそれしか聴かない時期があったんですよ(笑)。で思ったのが、彼らってうまいのに、うまくないのに、うまいみたいな、どこかぎこちなさがあってそこがすごく好きで。『EXTRA』を聴いていてそのぎこちなさの魅力を同じように感じていました。

吉田:わかります。実はちょっとお手本にしているところもあるんですよ(笑)。「相席屋に行きたい」は、鳥居くんがTalking Headsの楽曲もリファレンスにしてるみたいで。やっぱりんoonのみなさんって音楽的な要素もそうだけど、生きていく上でのテンション感が、自分たちとそんなに遠くない気がするんですよね。会ったときの雰囲気とか。いわゆるアゲアゲではない感じ、というか……。

JC:とてもよくわかります。うちら全員、「暗いね」と言い合ってます。自分では「明るい曲だな」と思ってデモを聴かせると、「暗くない?」とみんなに言われたりして(笑)。そんなふうに自分の感覚と周囲とのズレにびっくりすることはけっこうありますね。

吉田:僕は、アゲアゲに憧れているところもあるんですけどね。たとえば声をめちゃくちゃ張り上げてみるとか、そうやってテンション上げていけば、性格そのものも変わるかもしれないと思っていろいろ試したこともあるんですけど……実際やってみると、5分ぐらいで「あ、無理だわ」となる。

JC:(笑)。「お酒を飲んだらたのしいね」の曲みたいな感じですか?

吉田:まさにそれです。ただ、いろいろやってみても結局そんなに変わらない。変わりたい気持ちはずっとあるんですけど、なかなかね……(笑)。

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