すべてが夢のようだったーーBialystocksのリッチな演奏とボーカルに圧倒された、東京国際フォーラム単独公演

Bialystocksライブ写真(撮影=廣田達也)

 すべてが夢のようだった。Bialystocksは音楽の獣だ。いや、もっと理知的で、抑制された何かである。そう、美しい彫刻のようではないか......とにかく頭の中でいろんな形容が浮かんでは消えていく。緻密だが豪快で、柔らかいのに緊張感があり、壮大だが親密だ。そして開放的なのにどこか、密室的な気分も去来する。ひとつ確かなことがあるとしたら、彼らの音楽は刺激的であるということだろう。『Bialystocks 単独公演 2025』、東京・東京国際フォーラム ホールA公演。Bialystocksにとって最大規模のライブである。始まる前は大きい会場だと思ったが、終わる頃には狭すぎるくらいだと思った。

Bialystocksライブ写真(撮影=廣田達也)

 静謐な鍵盤と歌声で始まった「Branches」。ステージの様子は見えない。微かに漂うノイズ、暗闇の中を回転する照明、そして次第に重なっていく美しいコーラス。薄暗い会場を包むようにハーモニーが響き渡る。気分はまるで無重力。宇宙を泳ぐってこんな気持ちなのかもしれない。「花束」でステージを覆っていたレースが開き、演奏するメンバーたちが現れた。中央にはBialystocksの甫木元空(Vo)と菊池剛(Key)のふたりが並び、その後ろをゆったりと囲うように左から朝田拓馬(Gt)、越智俊介(Ba)、市原ひかり(Tp)、秋谷弘大(Gt&Key&Sax)、オオノリュータロー(Cho)、小山田和正(Dr)の6人が固める。

Bialystocksライブ写真(撮影=廣田達也)
甫木元空、菊池剛

 とにかくリッチな演奏である。散々言われていることではあるが、何度言っても言いすぎることはないので改めて書いておく。彼らのライブは音源とは全くの別物で、菊池が中心となり原曲を解体・再構築した改造版だ。アンサンブルは強靭で、音の粒は一つひとつが明瞭に響き合い、そして重なり合った音色は実体を持って迫ってくるような迫力がある。何より甫木元の声は美しく、それでいて時折荒ぶるような凄みを持って喉を震わせる。豪胆なソウルシンガーのようだ。

Bialystocksライブ写真(撮影=廣田達也)
朝田拓馬
Bialystocksライブ写真(撮影=廣田達也)
越智俊介
Bialystocksライブ写真(撮影=廣田達也)
市原ひかり
Bialystocksライブ写真(撮影=廣田達也)
秋谷弘大
Bialystocksライブ写真(撮影=廣田達也)
オオノリュータロー
Bialystocksライブ写真(撮影=廣田達也)
小山田和正

 リラックスした音色のベースとパーカッションで始まった「頬杖」は、長閑な自然が広がる映像演出が曲のニュアンスを引き立てる。朗らかな音色のトランペットは印象的で、ライブを通して市原の吹く音は効いていたように思う。静謐な演奏でしっとりと歌を聴かせる「フーテン」もなかなか良く、音数が少ない分引力があるというか、オーディエンスの意識は否応なく甫木元の声に集中していたはずだ。

Bialystocksライブ写真(撮影=廣田達也)

 どちらかと言えば張り詰めた空気を感じていたが、そんなムードは「光のあと」で霧散する。この曲の軽快なベースは何度聴いても素晴らしく、草原を疾走していくような瑞々しい爽快感が身体を駆け巡る。サビの天まで突き抜けていくようなダイナミックな演奏も好調で、ライブ前半にして凄まじい高揚感である。と思っていたら、一転して「憧れの人生」ではまどろむような音色に切り替わる。もしもBialystocksのライブで幽霊が出るならこの曲だろう。朝田のブルージーなギターは深い森へと誘うような没入感があり、次第に不穏を纏ったようにノイジーになっていくところもカッコいい。この曲の長尺のアウトロは昨年のZepp DiverCity(TOKYO)公演でもハイライトだったが、ツインギターが火花を散らした昨年のそれに比べると、この日はサイケデリック・組曲とも言えるような酩酊感のある展開に。

 呼吸を忘れて聴いていることに気づいたのはこの辺で、しかし息つく間もなく彼らのスペクタクルな音楽は続いていく。僅か数秒置いて歌が聴こえてきたのは「はだかのゆめ」である。心をほぐすような菊池の優しいピアノ、オーロラのような美しさを持った楽曲だ。なんというか、「憧れの人生」を聴いた後だと安心する音色である。「灯台」は力強いドラムが会場を丸呑みにする。この日随一の重厚なアンサンブルだったのではないだろうか。総じて言えば薄暗いステージングが多いこともあり、白い照明にパッと照らされたこの曲は鮮烈だった。アコースティックギターの音色に癒される「Thank You」も上々、「日々の手触り」「差し色」と併せて心温まる中盤である。

Bialystocksライブ写真(撮影=廣田達也)

Bialystocksライブ写真(撮影=廣田達也)

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