RADWIMPS「賜物」に凝縮された20年の歩み “日本の音楽”への接近、人間讃歌としての深みを紐解く

RADWIMPS「賜物」に凝縮された20年の歩み

 今年メジャーデビュー20周年イヤーを迎えるRADWIMPSが新曲「賜物」を配信リリースした。RADWIMPSが新曲を発表するのは2023年の「大団円 feat.ZORN」以来で、野田洋次郎(Vo/Gt/Pf)と武田祐介(Ba)の2人体制となってからは最初の楽曲。そんな重要な1曲は3月31日から放送が開始されたNHK連続テレビ小説『あんぱん』の主題歌で、『アンパンマン』を生み出した漫画家 やなせたかしと暢の夫婦をモデルに、生きる意味も失っていた苦悩の日々と、それでも夢を忘れなかった2人の人生を軸とした物語を彩っている。野田は2020年放送の『エール』に役者として出演しているが、RADWIMPSとしてNHK連続テレビ小説の主題歌を手がけるのは今回が初めてだ。

 ドラマの制作統括であるチーフプロデューサーの倉崎憲は「やなせ夫妻をモデルにした“朝ドラ”を描くにあたり、人生は決して喜びだけでなく誰にでも哀しさや愁いもあって、それを深く体現してくれるアーティストはRADWIMPSさんだとオファーさせていただきました」とコメントしていて、野田は「昨年春にオファーをいただいてから、手紙のように少しずつ届く脚本を読ませてもらいながら曲を育てていきました」「『朝、出たくない布団から這い出す力が湧くような“効き目”があること』『のぶに負けぬ瑞々しい生命力を持った曲であること』『挑戦と冒険をすること』を主眼に作りました」とコメント(※1)。まさに「賜物」はRADWIMPSにとって「挑戦と冒険」の1曲であり、20年の歩みを内包しながら未来を描き出すような1曲だと言っていいだろう。

[あんぱん] 主題歌 RADWIMPS「賜物」オープニング(ノンクレジットVer.) | 朝ドラ | NHK

 楽曲の基盤となっているのはファンキーなリズムセクションで、これは「朝、出たくない布団から這い出す力が湧くような“効き目”があること」という野田の言葉と合致するもの。もともと“ファンク”はRADWIMPSの楽曲の重要な構成要素の一つであり、Red Hot Chili Peppersをはじめとしたミクスチャーロックの影響を受け、武田のスラップを駆使したグルーヴ感のあるベースプレイが“RADWIMPSらしさ”を担ってきた。「賜物」での音色やフレージングはVulfpeckのジョー・ダートあたりを消化している感覚もあるが、〈人生訓と経験談と占星術または統計学による〉と歌われるパートはリズムも歌唱も歌詞も実にRADWIMPSらしく、「おしゃかしゃま」や「DADA」といった彼らの代表曲を連想した人も多かったであろう。

 しかし、楽曲全体の印象はミクスチャーというよりも、むしろシティポップに近いものだと感じる。メインの上モノはカッティング主体のギターと流麗なストリングスで、ドラムにしてもロック色はやや控えめだ。RADWIMPSは2023年から2024年にかけて初のワールドツアーを開催し、アメリカ、ヨーロッパ、アジア、オーストラリアを回ってきたわけだが、その中で「世界で聴かれる日本の音楽」としてのシティポップを意識するようになったのかもしれない。「真夜中のドア〜stay with me」(松原みき)、「プラスティック・ラブ」(竹内まりや)、「フライディ・チャイナタウン」(泰葉)といったシティポップの名曲たちの要素を抽出しつつ、それとRADWIMPSがもともと持っていたミクスチャーロックのテイストを融合させ、他にはない音楽を作ること。それこそが「賜物」における“挑戦と冒険”が端的に表れている部分ではないかと思う。

 シティポップ的なムードにおいては、全編でフィーチャーされているストリングスの存在も大きく、筒美京平にも通じるアレンジはより歌謡曲に近い雰囲気も感じさせる。やはり朝ドラというのは国民的な作品であり、“日本の音楽”を強調する意味でも、歌謡曲〜シティポップ的なムードへの接近は必然だったのかもしれない。なおかつ、弦のアレンジは楽曲の後半に向かうに連れて、より壮大なオーケストレーションへと変化していき、これは2016年の『君の名は。』以降、新海誠とのコラボレーションで『天気の子』、『すずめの戸締まり』と、映画の劇伴を作り続けることで手にした音楽家としての技量が発揮されていると言えるだろう。

RADWIMPS - 賜物 [Official Music Video]

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