宇多田ヒカルは不完全な人生を祝福する 「Electricity」リミックスやツアー写真展に滲む“繋がり合う美しさ”

タイプの異なる「Electricity」リミックスが意味するもの
ところで、『SCIENCE FICTION』というタイトルには、そもそもどういう意味があるのだろう? これはあくまで筆者の感覚にすぎないが、“人と人が分かり合う”なんてよく考えてみると奇跡的なことだな、と常々思う。全く違う容れ物に入っている魂同士が繋がり合うなんて、まるでSFみたいだな、などとも思うわけだけど、SFとはつまるところ、人間の想像力が生み出す物語でもある。そう思うと、その想像力こそが私たちの間の壁を取り払う力なのかもしれない……『SCIENCE FICTION』という言葉に、筆者はそんなことを勝手にイメージしていた。
昨年のベストアルバム『SCIENCE FICTION』収録の「Electricity」は、そうした人と人が通じ合うことのきらめきやパワーを感じ取れるナンバーだ。その3つのリミックスが、このタイミングで立て続けにリリースされている。1つ目は、ロンドン拠点のDJ/プロデューサーで、ケレラとのコラボの経験もあるKaren Nyame KGによるもの。ルーツであるアフリカンビートを大胆に持ち込み、地底から響くような低音で原曲の流麗なトラックをパワフルに生まれ変わらせている。
2つ目はベネズエラ出身のプロデューサー、アルカによるもの。スクリュードした音色にチョップされたビートを絡めた前衛的なトラックメイクが唯一無二な存在ではあるが、このリミックスでも宇多田の声を変調させながらメロディとはズレたビートを組み合わせ、流動性の高いトラックに作り変えているのが面白い。3つ目は近日リリースとのことだが、いずれにせよ、どのリミックスも全く違うタイプの人選で、まさに人と人が通じ合う奇跡を体現するかのようなコラボレーションだと言えるだろう。
そして現在、新曲「Mine or Yours」がコカ・コーラ社「綾鷹」のCMにて放映中。ミドルテンポのアコースティックギターとストリングスの生音にリラックス感を漂わせつつ、立体的な音像が魅力的なナンバーで、近年続いていたハイパーポップ的なアレンジとはまた違った感触。音源リリースも待ち遠しいところだ。
人間の不完全さを愛し、人と人が繋がり合うことの力を信じ、どんな人生をも祝福する。それがきっと、宇多田が長く愛され続ける理由の一つなのだと筆者は思う。デビュー25周年を超え、“国民的な”アーティストとしてますます愛される宇多田ヒカルの今後からも目が離せない。
◾️写真展概要
『HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024 NINE STORIES』
会期:2025年3月7日(金)〜3月30日(日)
会場:New Gallery(東京都千代田区神田神保町1-28-1 mirio神保町 1階)
開館時間:12:00〜20:00
主催:U3MUSIC / EPIC Records Japan / New Gallery
クリエイティブディレクション:Sohei Oshiro (Chiasma)
展示構成:torch press
※写真展では、一部作品のオリジナルプリントを販売中。
展示詳細:https://newgallery-tokyo.com/ninestories_exhibition
◾️楽曲情報
「Electricity (Arca Remix)」
配信中:https://erj.lnk.to/CwOF5S
「Electricity (Karen Nyame KG Remix)」
配信中:https://erj.lnk.to/Oj6fGe






















