ミッツ・マングローブが語る、岩崎宏美の“世代を問わない魅力” 名曲を歌い継ぐ意義、本人との交流エピソードも

ミッツ・マングローブが語る岩崎宏美

ミッツが選ぶ、岩崎宏美ソングのベスト3

――では、ミッツさんが好きな岩崎宏美ソングのベスト3を挙げていただけますか?

ミッツ:「決心」「未完の肖像」「熱帯魚」あたりでしょうか。ごく初期のシングル曲だと「ドリーム」のイントロなんて痺れますね。「想い出の樹の下で」も好きです。アルバムの方は、あまりに数が多くて隅々まで聴けていないのですが……。

――まず「決心」(1985年、カメリアダイヤモンドCMソング)から魅力を教えていただけますか。

ミッツ:「決心」は、リアルタイムで観たり聴いたりしていたのを覚えています。歌詞や曲調もどストライクです。このあたりで髪型も変わられて、『NHK紅白歌合戦』で被っていた縦長の帽子や、80年代中盤ならではのメイクも印象的でした。初めて宏美さんにお会いした時、「決心」が収録されているアルバム『戯夜曼』のLPにサインをいただきました。

――そして、次に「未完の肖像」(1984年)を挙げられるなんて、さすがミッツさんと驚きました! というのは、「未完の肖像」は、デビュー10周年記念シングルとして、デビュー作「二重唱(デュエット)」と同じ作詞 阿久悠、作曲 筒美京平、編曲 萩田光雄という組み合わせで作られたのですが、あまりに複雑な構成やハイレベルな歌唱のため、初めてオリコン週間TOP50を逃した(最高54位)シングルだったんですよ(岩崎宏美自身も、今回のBOX付属のブックレットにて「こんな難しい曲、あり得ない」と語っている)。

ミッツ:「未完の肖像」ってシングル曲だったんですか!? 筒美京平さん作品の中でも、特に“狂気”を感じるジェットコースターのような楽曲ですよね。あのスピード感と、果てしない展開、さらには台詞と小説とエッセイをミックスしたような歌詞。あれをしっかり自分の起伏と優雅さで歌う姿は、まさに“岩崎宏美の真骨頂”じゃないでしょうか。ドナ・サマーだって、もっと慌てたり感極まったりしそうなレベルの曲ですよ。

――パンチの効いたコーラスは筒美京平作品で起用されることの多い沖縄出身の女性3人組 EVEですよね。

ミッツ:EVEの英語に匹敵するスタジオミュージシャンは、後にも先にも日本にはいません。EVEのコーラスって、80年代の流行歌の“刻印”みたいなもので、ひょっとするとあの時代の高揚感の半分はEVEの歌声でできていたんじゃないかと思うぐらい。それにしても、「未完の肖像」をシングル曲にする気概は、果たして今の音楽業界にあるのかどうか。おそらくないでしょうね。

――そして「熱帯魚」(1977年)は、筒美京平作曲のシングルが8作続いた後、3年目から大野克夫作曲の「悲恋白書」、川口真作曲の「熱帯魚」、三木たかし作曲の「思秋期」と、異なるヒット作曲家の楽曲を歌っている時期の作品。「熱帯魚」は特に岩崎さんの歌声が情熱的ですね。

ミッツ:川口真さんなんですね。「あれ? なんか引っかかる」と思ってクレジットを見ると「川口真」。私たち星屑スキャットのデビュー曲でもある「マグネット・ジョーに気をつけろ」というギャル(1970年代後半に活動した3人組アイドル)の曲も、「なんか妙にクセの強い曲だけど、これって筒美京平ではないよね?」と思ったら、やっぱり「川口真作曲」でしたし。

 「熱帯魚」も、例えばThe Three Degreesが歌いそうなブラックテイスト満載で、実際に三声のハモリがガッツリついているので、20年前の星屑スキャットにとっては「なんでカバーしないの?」と周りも本人たちもいつも言っていた曲なのですが、若気の至りでしょうか。ここまでの“おあつらえ向き”に迷いなく飛びつく素直さがあったら、もっと早く成功していたでしょう。20年の間、「いつになったら『熱帯魚』歌おうかね?」と今でもメンバー内で話題になるくらい、まるでわざと置き忘れた宿題のような存在です。そういえば、宏美さんは、八神純子さんたちと3人でCDをリリースなさっていますよね?

――はい、2011年、岩崎宏美さん、八神純子さん、そして松千の花田千草さんの3人からなるユニット THE★THREE SOUL PIGREES名義で、シングル『ピンクと呪文』をリリースしておられます。そのカップリング曲「真夜中のドア」は、この3人バージョンもサブスクで人気なんですよ。

ミッツ:宏美さん、以前から「コーラスグループをやりたい」「誰かの右か左に立って歌ってみたいの」とおっしゃっていましたからね。

新宿二丁目界隈でも語り草になっている“岩崎宏美の伝説”

――情熱的な歌だったら「シンデレラ・ハネムーン」のカバーも似合いそうですね。

ミッツ:「シンデレラ・ハネムーン」は、『阿久悠歌謡祭』(2011年/『明治大学創立130周年記念音楽祭 阿久悠歌謡祭「愛よ急げ」』) に出演した際、先方から曲のリクエストをいただいて歌ったことがあるのですが……玉砕した大変苦い思い出のある曲です。あんなに3人で歌割りするのが難しい曲はなかった。さらにバックコーラスも3人で交代で担って、やめりゃいいのに原曲にはないハーモニーまでつけて……。

――さらにハードルを上げられたのですね。

ミッツ:自分たちの実力と3人でできる限界を教えてくれた曲でもあるので、むしろ「シンデレラ・ハネムーン」があったからこそ、今のグループのメソッド開発が進んだと言ってもいいかもしれません。それにしても本人たちが一番驚いたぐらいの玉砕っぷりだったので、まあ一種の“トラウマ”にはなっています。歌詞も一瞬でも迷宮入りしてしまうと、そこからドミノ倒しのように一気にすべてが崩れていくような曲でしょう? 「〈好みの煙草〉をあと何本吸うつもりなんだこの男?」みたいな。

岩崎宏美 /Hiromi Iwasaki- シンデレラ・ハネムーン/Cinderella Honeymoon

――そういえば、ミッツさんはよくテレビで「『紅白歌合戦』の岩崎宏美『シンデレラ・ハネムーン』は必見!」みたいにおっしゃっていたような……。

ミッツ:『紅白歌合戦』(1978年の『第29回NHK紅白歌合戦』)での「シンデレラ・ハネムーン』は、後半に向けてどんどんバンド演奏が高速化していくという伝説回ですね。他にも普段よりテンポがあり得ない速さだった歌手や曲(松田聖子「青い珊瑚礁」や中森明菜「十戒(1984)」など)はありましたが、そもそも出だしからかなりの速さで始まって、さらに途中から3段階、4段階ぐらいスピードが上がっていくというのは、1978年の「シンデレラ・ハネムーン」だけでしょう。さすがにご本人も、あれは今も鮮明に覚えているらしく。でも「曲の主導権を握っているのはあくまでボーカルよ! 負けてたまるか! エイッ!」という、生放送の尺と果敢に戦い抜く勇姿は、今も新宿二丁目界隈では語り草になっています。

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