BRAHMAN TOSHI-LOWはなぜ死生観と向き合い続けるのか “終わり”を受け入れ力強く前進する結成30周年

ギリシャ神話のカロンに着想を得た「charon」

──「charon」という曲はギリシャ神話に登場する、死者の魂を乗せて黄泉の国の世界に運ぶという人物がタイトルになっているということですが、これも死に関わるテーマですね。

TOSHI-LOW:小さい時から死に対する感覚的な興味はあったくせに、スピリチュアルなものにはあまり興味がないの。オバケとか死後の世界とか。全然興味がなかった。死にかけた人が帰ってくるとみんな言うじゃん、川が見えたとか。それがすごく気になって。世界中の黄泉の国って呼ばれる部分と現世の間に何があるのかなって思って調べたの。世界の言い伝え。イコール世界における宗教の分布図と一緒なんだけれども……それがみんな一緒で、大体川や水辺があって。

──へえ。三途の川というやつだ。

TOSHI-LOW:そう。一個の宗教から始まって広がったから、って言われちゃったらそこまでかもしれないけど、どこも一緒ってすごいなと思って。カタチはちょっと違うし、呼び名も違う。でも川があってそこを渡ったら天国と地獄がある。国や地域によってパターンは何個かあるんだけど、共通しているのは川があって川のところに守り役の人がいるの。日本だと、身ぐるみ剥ぎとるお婆さんがいて。

──奪衣婆ですね。銭を持たない死者が来た場合に渡し賃のかわりに衣類を剥ぎ取る。

TOSHI-LOW:で、カロンはギリシャ神話なんだけど、その中に出てくる船頭なんだよね。その川を渡るときはまだ地獄でも天国でもないの。どこの宗教も。「間」だからで、ということは神様でも悪魔でもない、カロンは。ただの仕事をしている人。で、大体それで面白いのが、先の方に乗ると降りてから先に行きやすい。だから昔、棺桶の枕の下に小銭、銀貨を入れたっていう。それを渡し賃としてカロンに渡して、その人が船のいい場所に乗れたら天国に近くなるからと。そういう神話を色々調べていた中ですごく気になっていた一人で。カロンっていうんだーって。あとはその響きかな。

BRAHMAN「charon」MV

──死ぬことは怖いですか。

TOSHI-LOW:怖くはない。寂しいなって思うだけ。だって当然なんだから。拒否しても来るんだし。

──めちゃくちゃ怖いっていう人もいるよね。

TOSHI-LOW:でも死んだら怖いか怖くないかもわからないから。だから起きていないことをむやみに怖がっても、今が怖くなっちゃうだけ。わからないんだから。

──その通りですね。

TOSHI-LOW:ただ、今みたいに誰かと喋れないんだなとか会えないんだなとか思ったら寂しい。それは生きている感覚と一緒で。

──去年、一昨年くらいからいろいろな人が立て続けに亡くなって。中には身近で親しい人もいたし。何度もインタビューした人もいたし。そういう人たちがいなくなって、もちろん悲しいし寂しい。きっと無念だろうなと思う。でも、死んだのは、我々から見たら悲しいけれど本人にとってはどうだったんだろうなぁとか。

TOSHI-LOW:ね。

──いろいろ考えると……。

TOSHI-LOW:そう。わからない。

──わからないですよね。

TOSHI-LOW:わかっているのはこっちが寂しいなっていうことだけ(笑)。その人たちにもあと、一、二回インタビューしたかったんじゃないの? っていうかもう一回、最後だったら怒らせてもいいから色々なことを聞いてほしかったし。

──ほんとだね。でもここまでの話を聞くと、今作はいろいろな制約から逃れて自分の歌いたいことを包み隠さず生の言葉で出したアルバムという印象を持ちました。

TOSHI-LOW:うん。一見、自分でも青臭く感じる言葉を使っているので躊躇しなかったかと言えば嘘になるんだけど。でもいざ書いて歌ってみると、気にしてるのは俺だけだなっていう。

──うんうん。いいですね。

TOSHI-LOW:自分らしいか・らしくないかという、変な判断をしていたんじゃないかなと。そういうところからも逃れたかった。

──自分なりの「らしさ」っていうのはこだわりでもあると思うんですけど。捨てた方がいいこだわりと、守りたいこだわりの違い、区別って何かあるんですか?

TOSHI-LOW:でも守りたいこだわりってもうそんなにないよ。

──あ、ないですか。

TOSHI-LOW:今はそんなに。あと、ここ数年、他の人の曲をたくさん歌ったっていうのはデカいかもしれないね。急逝してしまった人のトリビュートとか。今まで単純に聴いていたものを自分が歌うっていうのはどういうことなのかなって考えながら歌うじゃん。その中で、始めは”こいつは馬鹿なのかなぁ“って思っていた歌詞が、いきなりグッときたり。

──あぁ。

TOSHI-LOW:「愛でぬりつぶせ」(The Birthdayの曲)なんて、初めて聞いた時“バカだなぁ”って思っていたの。

──(笑)。

TOSHI-LOW:なんでヒョウが出迎えるんだよ、クジラが出てくるんだよって(笑)。でも、歌うとめちゃめちゃ、特にヒョウのところが、めちゃめちゃグッとくる。

「終わるわけないよ俺たちは、じゃなくて、いずれ終わると思って動いている」

──これからご自分として、あるいはBRAHMANとしての抱負はありますか。

TOSHI-LOW:最後まで突っ走りたい。どこまで行けるかわからないけど。

──ゴールって見えますか?

TOSHI-LOW:見えてないよ。でも、ゴールを明確に決めたいんだよね。決めたがっているの、ずっと、近年。

──それは終わり方ということ?

TOSHI-LOW:終わり方は考えてる、すごく。綺麗に終われればいいけど、そうじゃないと思ってるんで。突然そうなったときにあたふたしたくない。凛々しく辞めたいと思っているから、常に終わり方は頭の中で考えていないと。でも、じゃあどうすればいいかって考えれば考えるほど、そこが見えなくなるの。一瞬で終わってしまうバンドもいっぱいあるし。そういうものに憧れたこともあったけど。

──短時間で燃え尽きるようにやりたいと思っていた?

TOSHI-LOW:そういう風に思ってたよ、ずっとずっと。たぶん初期のインタビューはそれしか言ってない。とにかく燃やし尽くして。そのために、あまりごちゃごちゃ言わないでライブをやっていた。誤解されようが何だろうがぶつけて、ぶつけて、ぶつけてってやってきたから。そのあとの方が俺にとってはすごく長い。20代、30代までの自分しか想定していなかったから。こんなに生き恥をかいて長生きするとは思わなかった。

──それはね、年を取るとみんなそう思うんですよ。

TOSHI-LOW:みんなそうなのかな。よく生きているよね、みんなね。

──「Don't trust over thirty」なんて言葉もありました。

TOSHI-LOW:ライブハウスに年を取った人なんていなかったしね、俺が子供の時は。当時日本の最年長ロッカーって、エンケン(遠藤賢司)……50歳とかだったかな。今の俺と一緒でしょ。だから、何をどう見てどう手本にしたらいいかわからない。

──MONOっていうバンドがいるじゃないですか。MONOのTakaさんに聞いたら、Takaさんには明確に計画があって。80歳になったらニューヨークのマディソン・スクエア・ガーデンでライブをやってスパッと引退すると。

TOSHI-LOW:80歳まで生きるつもりなんだ……スゲぇな。それすごいよ。俺にはないもん、その計画性。

──そう本人が言っていましたよ(笑)。

TOSHI-LOW:いいなぁ。あの人ならできると思う。

──そういうピリオドの打ち方って考えたことはあるんですか。

TOSHI-LOW:計画通りに行くんだったらいいけど、どう考えても計画通りに行きそうにないから途中で考えるのをやめちゃうの。今ってボーカルがいなくなってもやっていくようなバンドもいるし、続け方もそれぞれだとは思うし。でも自分だったらって置き換えても、俺はあまり喪失に強くないので、メンバーがいなくなって同じバンドを続けられるかどうかは自分ではわからない。

──ピリオドのつけ方はまだわからない。

TOSHI-LOW:そう。でも、誰にも言わずにスっと辞めていくことに憧れもあるというか。

──ほう。

TOSHI-LOW:俺、NUKEY PIKESが世界で一番好きなバンドなんだけど、NUKEY PIKESは普通に突然、“今日で終わります“っていって、千葉LOOKで終わったの(1997年12月)。

──あぁ。ライブを見てたの?

TOSHI-LOW:見てないよ。だって予告もないから。解散ライブでも何でもないから。ただスッと終わっていった。それが異様に残っていて。なんてかっこいいんだろうって。

──かっこいいけどBRAHMANがそれをやったら大変なことになっちゃうのでは。

TOSHI-LOW:でも、誰かのためにやっているわけではないから。終わろうと思ったら終わればいいと思う。

──まぁね。

TOSHI-LOW:ただ、それはかっこいいとは思ってるけど、自分たちに置き換えるのかと言ったら、そうでもなくて。俺たちはニューキーじゃないし。だから、何年か前からなんとなく終わりを見据えた上で終活していて。終わるわけないよ俺たちは、じゃなくて、いずれ終わると思って動いているんだけど。それに対しての具体的な方法論は見つからないから、とりあえず次に決まっているところまで一生懸命やって、そこまではできるだけ元気でみんなで走っていくしかないっていうのが今できる最大限じゃんって。で、これって超普通じゃねえか、と。バンドとして普通じゃねえかよ、というところに至って(笑)。

──(笑)。

TOSHI-LOW:みんな元気で、ちゃんとライブをやりましょうなんて、なんて普通のことを俺は言っているんだっていう(笑)。

──実際、何年先くらいまで予定は決まっているんですか?

TOSHI-LOW:ないよ。ただ、自分たちが好きなバンドがこのくらいまでやっていたなっていうのは、単純な指標にはなると思っているから。GAUZEは63までやったのか、とか、年齢の指標としてあるけどね。

──60までは頑張る?

TOSHI-LOW:60くらいまでは、考えられなくはない。でもその先は、俺はたぶん10年先までくらいしか見えない。頑張っても。だから80歳のことを話せる人は素晴らしいと思う。

──終わりはいつどんな形で来るかわからないけど、それまで皆さん元気で頑張ってほしいです。

TOSHI-LOW:本当にそう。今後人が亡くなるときって、遠くの誰かがいなくなるってことではないよね。もっと近く、自分の体が欠けるような思いになってしまうというか。チバ(ユウスケ)にしろ、ツネ(恒岡章)にしろ、血縁関係でも何でもないし、バンドとしてもいつもいつも一緒にやってたわけでもないけど。でもやっぱり生きてきた年代が近かった者って自分の一部だった気もするの、大げさに言ってしまえば。だからポロっと取れた瞬間の痛みも強い。だから、そういうことに関しては、ちゃんとアルバムに入れ込んでおきたいなって思ったし。何回も経験したから大丈夫だよ、乗り越えられるよっていうことじゃないと思う。痛みはもっと強くなっていくんだろうなって思っているし。

──TOSHI-LOWさんの歳でこういう質問は早いんだけど、年を重ねてくると、あと何枚アルバムを作れるか考えるっておっしゃるわけですよ。で、BRAHMANの場合はそもそもアルバムを頻繁に作るバンドじゃないから、この次に作っても5年後、10年後とかになることもあるわけじゃないですか。そういう中で一つ一つの作品がすごく重くなってくる。

TOSHI-LOW:本当はね、最初は「ラスト!」みたいなアルバムのタイトルにしようと思ってたの、今回。

──あ、本当に。

TOSHI-LOW:最後だなぁって思いながら。そういうのを作ろうと思って。で、曲が出そろったら、これは最後じゃねぇなぁってなって。

──あぁ、いい話じゃないですか。

TOSHI-LOW:うん。だから「ラスト前」っていうアルバムにしようかと(笑)。でもそれじゃどうにもならねぇなって(笑)。

──じゃあ、まだまだ言いたいこともやりたいこともいっぱいあるということですね。

TOSHI-LOW:結局出てくるんだよね。自分がこんなに郷愁にかられる部分を言葉にできる人間になるとは思ってもいなかったし。思った通りにいったのかといったら、全然いっていないかもしれない。ただどっちにしろ、自分の選んだ道だからって言い切れる。だから、バンドと同じで、今後何があるか全然わからないけど、目の前のことは最高の状態でやりたいと思ってるかな。

──何かに向かっているという意識はあるんですか?

TOSHI-LOW:バンドとして?

──バンドとして、個人としてでもいいですけど。

TOSHI-LOW:向かっていっている、のかな……。終わりが近いというのは、子供の時からのものなのでどうしようもない。子供の時に楽だったのは、世紀末で終わると思っていたから、地球が。

──あぁ、『ノストラダムスの大予言』。

TOSHI-LOW:だから2000年まで生きれば、どうせ地球は終わっちゃうからいいやって思ってたの。そうしたら終わらなかった。長い余興だよね、この25年。つらい(笑)。

──でもそうは言いつつ、BRAHMANはここまで続けてきて。これから先も前に進んでいこうっていう意欲はあるわけだから。ちゃんとそれが作品にもなっている。結成30年のバンドが出したアルバムにしてはすごいアルバムですよ、こういう言い方をしたら失礼かもしれないけど。

TOSHI-LOW:いやいや、全然、嬉しい。嬉しいよ。

──すごく前向きなパワーのあるアルバムだから。自分の昔のパターンを繰り返している感じでもないし、ノスタルジーでもない。かといってこれが遺言だっていう、そういう達観した感じでもないし。

TOSHI-LOW:まぁ、腹を括っている部分はある。今はバンドとして良い状態だと思っているよ。だからやっぱり、みんな元気で、できるだけライブをやっていくしかない(笑)。

■リリース情報
「charon」
2025年2月7日(金)配信リリース
配信:https://brahman.lnk.to/charon

アルバム『viraha』
2025年2月26日(水)発売
アルバム予約:https://brahman.lnk.to/viraha

<収録曲>
1. 順風満帆
2. 恒星天
3. 春を待つ人
4. charon
5. SURVIVOR’S GUILT
6. Slow Dance
7. Ace Of Spades
8. 知らぬ存ぜぬ
9. 最後の少年
10. 笛吹かぬとも踊る
11. WASTE

完全生産限定盤(TOY'S STORE 限定販売作品)
PPTF-8168~8170 22.000円(税込)
・ニューアルバムCD
・2DVD
Disc1:六梵全書 Six full albums of all songs Documentary
Disc2:30th Anniversary Best Live Selection
・プレミアムボックス
・30周年記念写真集 (2015-2024) 184P / カメラマン:三吉ツカサ (Showcase)
・30周年記念トリプルコラボレーションTシャツ

~BRAHMAN × 河村康輔 × KEIICHI IWATA × VIRGOwearworks~
・30周年記念メダル

初回生産限定盤
TFCC-81117~81118 4.400円(税込)
・ニューアルバムCD
・2DVD
Disc1:六梵全書 Six full albums of all songs Documentary
Disc2:30th Anniversary Best Live Selection

初回仕様通常盤
TFCC-81120 3.300円(税込)
・ニューアルバムCD

■ライブ情報
『BRAHMAN tour viraha』
2025年3月18日(火)神奈川 川崎CLUB CITTA’ Guest: ANGER FLARES
2025年3月23日(日)新潟 LOTS Guest: サンキュー
2025年3月25日(火)石川 金沢EIGHT HALL Guest: アダムとイヴ
2025年3月29日(土)青森 QUARTER Guest: kallaqri
2025年3月30日(日)岩手 盛岡CLUB CHANGE WAVE Guest: locofrank
2025年4月5日(土)宮城 仙台RENSA Guest: GREAT INVADERS
2025年4月11日(金)京都 磔磔 Guest: KiM
2025年4月13日(日)兵庫 神戸Harbor Studio Guest: EGG BRAIN
2025年4月15日(火)岡山 CRAZYMAMA KINGDOM Guest: HAWAIIAN6
2025年4月17日(木)島根 出雲APOLLO Guest: A.S.S.
2025年4月19日(土)香川 高松MONSTER Guest: The Dahlia
2025年4月20日(日)愛媛 松山W studio RED Guest: LEARNER BOYS
2025年4月22日(火)岐阜 CLUB ROOTS Guest: DUB 4 REASON
2025年5月22日(木)愛知 名古屋DIAMOND HALL Guest: 九狼吽
2025年5月24日(土)大阪 Namba Hatch Guest: bacho
2025年5月25日(日)広島 CLUB QUATTRO Guest: キュウソネコカミ
2025年5月28日(水)北海道 旭川CASINO DRIVE Guest: SLANG
2025年5月30日(金)北海道 札幌PENNY LANE 24 Guest: THE KNOCKERS
2025年5月31日(土)北海道 小樽GOLDSTONE Guest: 花男
2025年6月5日(木)福岡 DRUM LOGOS Guest: 惡AI意
2025年6月7日(土)熊本 B.9 V1 Guest: BUILD
2025年6月8日(日) 鹿児島 CAPARVO HALL Guest: THE FOREVER YOUNG
2025年6月12日(木)東京 Zepp Haneda Guest: HAT TRICKERS
2025年6月19日(木)栃木 宇都宮HEAVENS ROCK VJ-2 Guest: SHADOWS
2025年6月21日(土)福島 郡山HIPSHOT JAPAN Guest: The BONEZ
2025年6月27日(金)静岡 Livehouse浜松窓枠 Guest: BEYOND HATE
2025年7月4日(金)山梨 甲府CONVICTION Guest: LOW IQ 01 & THE RHYTHM MAKERS
2025年7月12日(土)沖縄 桜坂セントラル Guest: かりゆし58

<チケット一般発売>
2月8日(土)10:00~

『尽未来祭2025』
幕張メッセ国際展示場9-11ホール
2025年11月22日(土)23日(日)24日(月・振休)
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