音楽業界がいま連携することの意味 野村達矢氏・稲葉豊氏に聞く、CEIPA設立や『MUSIC AWARDS JAPAN』開催の狙い

1月16日、グランドプリンスホテル新高輪にて『2025 CEIPA 音楽5団体合同新年賀詞交歓会』が行われた。CEIPA(カルチャーアンドエンタテインメント産業振興会)とは、日本音楽事業者協会、日本音楽制作者連盟、日本音楽出版社協会、日本レコード協会、コンサートプロモーターズ協会の音楽主要5団体が、日本のエンターテインメント産業を拡大しグローバルへ発信するために設立した団体である。この新年賀詞交歓会には、約3,000人の音楽業界関係者が集結し、CEIPAが2025年5月京都にて初開催する国際音楽賞『MUSIC AWARDS JAPAN』(以下、『MAJ』)の成功を祈念した。また、来賓には石破茂内閣総理大臣も登壇しCEIPAの設立を歓迎するスピーチを行った。政界や官公庁からの出席も多く日本の音楽産業の振興・海外展開への大きな期待が感じられた。
数年に及ぶコロナ禍の危機を乗り越えた日本の音楽業界は今、変革の時期を迎えている。リアルサウンドでは『MAJ』実行委員会 委員長の野村達矢氏(日本音楽制作者連盟理事長)、副委員長の稲葉豊氏(日本音楽出版社協会会長)にインタビュー。CEIPAと『MAJ』の立ち上げの狙いから音楽業界の展望まで、詳しく話を聞いた。
コロナ禍で連携した音楽業界、CEIPAを立ち上げて取り組む次なる課題
「国内市場が成熟していて、大きな問題を抱えることなくそれぞれがやってこれていた。しかし、ここ数年で国内だけで成立するようなビジネス構造が崩れてしまった。そういった現実に直面したことは今回の取り組みにおいても大きかったと思います」(野村氏)

日本の音楽業界の歴史において、5団体が連携する取り組みはほとんど存在しなかった。しかし、コロナ禍という未曾有の事態をきっかけに各団体が連携し、共通の問題に取り組む体制が整備された。以降も団体間の交流は続いていき、今後取り組むべき課題としてあがったのが、ストリーミングサービスの国内有料会員市場の底上げだったという。
世界の先進国における有料会員の比率は人口のおよそ30%であるのに対し、日本は20%程度。これをいかに引き上げられるかということに業界全体で取り組んでいく必要があると両氏は語る。
「音楽を聴く主な形態がCDからストリーミングになり、ビジネスモデル自体が変化してきています。例えばこれまでは好きなアーティストのCDを買うという個別の消費活動だったものが、ストリーミングでサブスクリプションの会員になるということは、何千万曲が聴ける状態、つまり全体消費になっている。そういう状況においては1アーティストが頑張るというよりは、業界全体でマーケットを底上げしていく視点を持つことが重要であると考えています」(野村氏)
国内市場の拡大とともに見据えているのが、海外市場の開拓だ。海外でもともと人気の高いアニメソングにキャッチーな振り付けが掛け合わさり、一大ムーブメントを築いたCreepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」や、タイやインドなどアジア圏を中心にロングヒットを記録している藤井 風「死ぬのがいいわ」を始め、近年、SNSや動画、ストリーミングサービスを通して世界でヒットする楽曲の多様化が進んでいる。
「日本の音楽の作品力に世界中から目が向けられ始めている。このタイミングで海外に向けて一気に仕掛けていくのが、2025年から我々がやっていくべき動き。K-POPは先行して世界で成功していますが、紐解いていくと日本の80年代の音楽の形を模倣したり研究したりしているところもある。我々にはなぜできていないのか、というところも考えていきたい」(野村氏)
こうした共通の問題意識の中で立ち上げられたのがCEIPAであり、CEIPAの活動を象徴するアワードとして創設されたのが『MAJ』だ。アーティストを中心とした音楽関係者、総勢5,000人が投票メンバーとして参加する国際音楽賞である。
「日本でもアメリカのグラミー賞のようなアワードがやれないか、ということは以前から話していた。グラミーのように業界全体が関わり、互いを称え合って賞を決める形式は日本にはなかった形ですし、そういったものがあると日本の音楽業界はよりよいものに、また音楽を作る人たちも意識が高まって素敵な業界になっていくのではないかと思っています。
たとえばお笑いの世界では、『M-1グランプリ』が成功したことによってシーンが充実していき、層が厚くなったのはすごくいい現象だったと思う。そこから漫才・お笑いに参加する波が広がっていったように、『MAJ』をきっかけにして音楽への参加がより広がっていくといいな、と。発表後の反応は非常に好評で、音楽業界全体が連携して対外的に影響力を持つようなアクションを起こすことにご期待いただいていると感じる。ホッとしている部分もありますが、気が引き締まる思いです」(野村氏)
「2022年の冬頃に5団体の集まりがあって、年明け1月くらいから徐々に相談などが始まり、その年の夏ぐらいから徐々に動き始めました。当時は『本当に1年半後にやれるのか』という声もありましたが、開催に向けて準備が進んでいます」(稲葉氏)
「透明性」「グローバル」がキーワード、初の試み尽くしのアワードへの挑戦

『MAJ』は「透明性」「グローバル」「賞賛」「創造」といった4つのステートメントを掲げている。なかでも「透明性」は特徴の一つだ。それぞれのジャンル、カテゴリーごとに明確な選定・審査基準が発表されており、ディスクローズすることによって賞の結果が政治力や経済力の及んでいない、民主的に決められたものであることを示していくという。もう一つの特徴である「グローバル」は、表彰部門の主要部門賞6部門にも反映されている。
「『Song of the year(最優秀楽曲賞)』『Album of the year(最優秀アルバム賞)』『Artsit of the year(最優秀アーティスト賞)』『New Artist of the year(最優秀ニュー・アーティスト賞)』の4部門に加えて、海外でヒットした日本の楽曲を表彰する『Top Global Hit from Japan』、アジアの楽曲の中で優れた楽曲を表彰する『Best Song Asia(最優秀アジア楽曲賞)』の2部門は、国際音楽賞として特にアピールしていきたい部分です。トータル60部門を超える部門賞が用意されていますが、エンジニアのような裏方を表彰する賞も創設しています。ここまで表彰の対象の広い国内のアワードというのは初の試みです」(野村氏)
「これまでのアワードは放送局などが主体となり、自身の資金やリソースを使って音楽業界に協力を取り付けながら一緒にやっていく構造でした。しかし今回は資金調達・制作著作含めCEIPAがハンドリングしながら、放送局やプラットフォームのみなさんにご協力いただきながら全体を作っていく構造になっています。仮にスポンサーがたくさんついて利益が出たとしてもそれを団体で分け合うのではなく、次のアワード、音楽業界の様々なプロジェクトに対してその資金を投下していく構造になっている。そういう意味でも初の試みと言えます」(稲葉氏)

先日、『MAJ』をサポートする数々の企業が発表され、「共創カテゴリー」「楽曲カテゴリー」「アライアンスカテゴリー」といった表彰カテゴリーについても明らかになった。カラオケ特別賞やラジオ特別賞など、企業とコラボレーションした賞に加え、オーディオストリーミングサービス・Spotifyの投票機能を活用した一般リスナーが参加できる一般投票部門も用意されている。また、5月17日から5月23日までの期間は「MAJウィーク」と称し、ライブイベントやセミナーカンファレンスなどが行われる予定。5月21日・22日の表彰式はYouTubeでの全世界配信を予定しており、22日はNHKでの生中継も行われる。開催期間中は世間を巻き込んだ盛り上がりを見せそうだ。
「アワードウィークのメインイベントが『MAJ』の表彰式となります。なるべく1回目はコンセプトや考え方を感じていただきやすいようなものにして、2回目、3回目と続いていく中で拡大していきたい。将来的に学生の吹奏楽コンテストなどもアワードウィークに合体できたらと思っています」(稲葉氏)
音楽関係者5,000人以上が投票に参加する『MAJ』。投票者はどのような基準で投票を行っていくのだろうか。
「作品性や芸術性の観点から選んでいただければと思っています。ノミネート作品はチャートなどの定量的な部分で選ばれた楽曲が対象になってきますが、その先はどちらかというと定性的な部分で評価してもらえるのがいいなと。一人につき5票の投票権が与えられるので、その中の1票は自分の楽曲、自分が関わった楽曲に入れることも可能ですが、他の4票は他者の作品を選んでいただきたいと思います。投票は一次、二次のタイミングがありますが、一次に投票しないと二次投票に参加できない決まりがありますので、一次投票から必ず参加していただきたいですね」(野村氏)
