PSYCHIC FEVER、初アメリカツアーで「J-POPの壁」越えられるか? LDH JAPANのグローバル戦略に迫る


PSYCHIC FEVERが2025年2月2日より、初のアメリカツアー「PSYCHIC FEVER FIRST US TOUR 2025」をスタートさせた。ワシントンD.C.を皮切りに、ニューヨーク、シカゴ、ダラス、シアトル、ロサンゼルスの6都市で開催される。
PSYCHIC FEVERは、2024年1月にリリースした「Just Like Dat feat. JP THE WAVY」がグローバルヒットとなり、世界各国で知られるグループとなった。2024年7月にロサンゼルスを訪れ、ネット音楽番組に出演した際は、その公開収録でハリウッドのメインストリートに多くのファンが押し寄せるなど、アメリカでも注目を集めている。
LDH JAPANのグローバル戦略が実を結びつつある中、今回行われるPSYCHIC FEVERのアメリカツアーは、今後の展開を左右する試金石となるだろう。グループ戦略本部エグゼクティブストラテジスト・石井一弘氏に、今回の挑戦について詳しく話を聞いた。
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地道に積み上げてきたことが実を結んできた
ーー2024年3月頃、PSYCHIC FEVER「Just Like Dat feat. JP THE WAVY」のグローバルヒットがあり、LDHアーティストの世界進出が加速しました。この曲がなぜここまでヒットしたと分析していますか。
石井:「Just Like Dat feat. JP THE WAVY」をリード曲とするデジタルEP『99.9 Psychic Radio』は1月19日発売でしたが、バズったのはおっしゃるように2月後半から3月頃、ピークは4月あたりでした。前提として、タイを中心にした活動で東南アジアにしっかりとしたファンダムを作れていたことが大きかったと思います。いまPSYCHIC FEVERが新曲をリリースすると、アジア各国でSpotifyの「New Music Friday」(※毎週配信されるニュースリリースのプレイリスト)に必ず入りますし、向こうは日本と違ってファンによるアーティストの撮影がOKな文化なので、UGC(ユーザー生成コンテンツ)の量が圧倒的に多くファン層が拡大してきました。そうしたアジアの分厚いファンダムがあったからこそ、その熱がアメリカやヨーロッパに飛び火していった。いまではメキシコ、チリやペルーなど中南米の視聴者もYouTubeやSpotifyで増えていて世界中に広がっています。
ーーこの大ヒットで、PSYCHIC FEVERは世界中のイベントに引っ張りだこになりましたね。
石井:3月にホーチミンで開催された「Japan Vietnam Festival in Ho Chi Minh City」では、2000人キャパのところに3000人ほどが押しかけて「Just Like Dat」の大合唱が起き、メンバーも我々も人気が浸透していることを実感しました。その評判から5月にはシンガポールにて開催される世界三大音楽見本市「MUSIC MATTERS LIVE 2024」に呼ばれて、世界各国の音楽関係者が観ているなかでパフォーマンスができ、評判がさらに拡大。7月にはパリの「Japan Expo Paris 2024」に出演しライブには3000人ほど集まりましたが、主催者の方は「過去20年間やってきたなかで、一番観客が熱狂したライブだった」と驚いていました。3日間出演して、初日などは平日朝9時からのダンス教室のような感じだったのですが、教えるまでもなくすでに踊れる人が500くらい集まり、みんなで踊る場になるほどでした。

「Japan Expo」はヨーロッパ中からジャパン・カルチャー好きが集まるので、それが12月、スペイン・バルセロナで開催された「MANGA BARCELONA」への出演につながりました。さらに、それを観たロンドンのイベント会社の方が「ロンドンに来ることがあったらぜひファンミーティングを」と。バルセロナには直行便がなくたまたまロンドンを経由して帰る予定だったので、急遽翌日に実施することになったのですが、SNSで告知したら3時間で400人くらい集まり、大熱狂でした。ロンドンは敷居が高いと思っていたのですが、むしろ「もっと早く告知してくれ」というクレームが殺到したほどで、ロンドンにもこんなに熱狂的なファンがいるのかと手応えがありましたね。

ーー今年2月からは、ワシントンD.C.からスタートする北米ツアーも決定しています。アメリカでの人気もすごい勢いで高まっているそうです。
石井:2024年4月頃にアメリカのPR会社と打合せしたところ、「これまで日本のアーティストはLAの日本好きコミュニティ止まりだったが、PSYCHIC FEVERはそこを飛び越えて、南部の黒人のHIPHOPコミュニティに刺さっているのがすごい」と言われました。「これだけ盛り上がっているのだから、6カ月以内にアメリカに来てプロモーションするべきだ」という提案をされているなかで、アメリカのイベンターからアメリカでツアーをやらないかと話が来たんです。LAには7月にメディアツアーに行って、ハリウッドのメインストリートでバスの中で公開収録するネット音楽番組『Wish USA』に出演し、そこでも多くのファンが詰めかけて熱狂&大合唱でしたし、LAのどこの街に行っても声をかけられるような状況でした。ニューヨークでは空港の入管の時点から職員の方に声をかけられて、世界的なバイラルヒットが出ると、グローバルなテレビ番組に出ているわけでもないのにこれほど認知されるんだということは驚きでしたね。SNSで情報を発信するという空中戦とともに、世界のトリガーシティを中心に現地に行って仕掛けていくことの重要性をあらためて実感しました。この2年間、そうして地道に積み上げてきたことが実を結んできた状況です。
他に似たようなグループがいない唯一な存在

ーータイでの展開を始めた初期から取材してきましたが、現地で一つひとつ積み上げていく、まさに地道な活動だったと思います。あらためて振り返ってもらえますか。
石井:東南アジアは当然、日本と音楽のトレンドがまったく違います。ただ一方で、PSYCHIC FEVERをはじめとしたLDHの楽曲は、ダンスや盛り上がることが好きな東南アジアの人たちにすごく合うんだなと。特にタイではプロデュースをお願いしているF.HEROさん、NINOさんのタイサウンドとLDHサウンドが良い掛け算になりました。中でも「FIRE feat. SPRITE」が現地の音楽番組の週間チャートで2位になったことは非常に大きかったです。そこからタイ音楽業界のPSYCHIC FEVERを見る目が変わりましたし、年が明けてからすぐに「Just Like Dat」がヒットしました。それまではフェス等でタイの有名アーティストにこちらから「一緒に写真を撮ってください」とお願いしていたのが、一気に逆の立場になったんです。
過酷な環境でコツコツと努力を積み上げ、毎週のようにタイだけではなく東南アジアの様々なフェスに出て、その国のお客さんの反応を見ながらパフォーマンスを調整していった経験が、やはり大きかったと思います。そこで世界中のどこに行っても自分たちの力で盛り上げられるスキルとともに、どんな環境にもアジャストするタフさも身についた。それがいまの人気のベースになっています。
ーーそのような積み重ねを聞くと、「Just Like Dat」のバイラルヒットは必然だったように感じます。
石井:加えて、やはりメンバーそれぞれのキャラクターというのも大きいですね。アメリカでよく言われるのは、PSYCHIC FEVERの7人の顔が、アメリカ人から見ても一人ひとりちゃんと区別できるということ。アジア系でスタイリングやファッションが画一的だと、欧米の人たちにとってはどうしてもメンバーそれぞれの個性を認識しづらいと。PSYCHIC FEVERにはJIMMYのようなナイジェリアと日本のミックスもいれば、WEESAはモロッコと韓国のミックスで、さらにカウボーイ(髙橋剣)がいて、沖縄の少年(小波津志)がいて、中性的な可愛らしさのある(半田)龍臣がいて、K-POP的なイメケンの(渡邉)廉がいて、アメリカ人にとって典型的な日本人に見えるのは(中西)椋雅くらいだと。実力があることは大前提として、一目でそれぞれのキャラクターがわかるし、他に似たようなグループがいない唯一な存在なのは大きなアドバンテージなんだと言われます。まさにダイバーシティを体現している時代に合ったアーティストだとNYやLAのメディアからも評価されています。

ーーメンバーの構成などは、当然巡り合わせもあると思いますが、一方で楽曲はグローバルに向けて緻密に調整されていますね。これまでのLDH楽曲はメロディを重視している印象がありましたが、特に「Just Like Dat」以降のPSYCHIC FEVERの楽曲は完全にラップが主体になっており、大きな挑戦だったのではと。
石井:そこは、志とJIMMYという軸があったなかで、ボーカル担当はもちろん、ラッパー陣もメンバー一人ひとりが個性を発揮しすごく成長したことも大きいですね。特にJP THE WAVYさんやタイのNINOさんプロデュース楽曲は、メンバーとのセッションを通じて、メンバー一人ひとりの特徴や持ち味を発揮できるように制作されているので世界のどこの国に行ってもこれらの楽曲は盛り上がるし評価も高いですね。また世界が舞台で、しかも出ていくのがフェスだったり、ライブパフォーマンスが中心の舞台になると、盛り上げるために必然的にいまのような楽曲になっていきました。パフォーマンスが伝わり、そこに参加した人が楽しかったり、気持ちよかったりすれば、どの国でも評価される。その点、楽曲は当然重要ですが、日本のアーティストでこれだけ毎週のように世界中の大小様々なフェスに出ているのはPSYCHIC FEVERだけだと思いますし、その経験値は本当に大きいですね。
ーーいわば、LDHアーティストが伝統的に続けている「武者修行」の海外版ですよね。武者修行として全国を回ったグループはガラリと変わり、パフォーマンスが飛躍的に上がる。PSYCHIC FEVERの成功も、そういう取り組みを続けてきた“LDHならでは”のものに思えます。
石井:2022年7月にメジャーデビューして8月にはタイに行き、2024年は12カ国を周っており、まさに「武者修行」の発展形ですね。日本国内でも、都市ごとに反応の違いはありますが、それを世界規模で経験できたのが、彼らの飛躍的な成長とスケール感につながっていると思います。